第2話 遺伝子相性診断(ゲノムマッチング)
――【遺伝子相性診断】。
それは数年前から政府主導で実施されるようになり、今年から学校でも行われるようになった、少子化対策の一環。
簡単に言えば、男女間の遺伝的相性の良し悪しを調べる身体検査だ。
――この世界は、男の数があまりにも少ない。
それ即ち夫婦となる男女が少なく、生まれてくる子供も少ない……ということを意味する。
なので年々出生率は減り続けており、日々ニュースにも取り沙汰されている。
医療の進歩で女性同士でも子供は作れるようになったし、女性同士の同性婚も珍しくはなくなったけど、やはり国としては男女夫婦が増えてほしいのだろう。
ウチの国は健康的な男女の夫婦が多いですよ、というのは他所の国へのアピールにもなるから。
なので国としては積極的に男女に結婚してほしいのだろうが……ぶっちゃけた話、結婚願望のある男の数は減ってきているというのが実情。
なんでも「女子たちから恋仲になるよう迫られすぎてトラウマになった」という男が多くなってきているとか、なんとか……。
まあ倍率百倍の世界だからな。
必死になる女子がいるのも……わからなくはない、うん。
幸い、俺の周囲にはそこまで露骨に迫ってくる女子は、今のところいないけど。
そういうアレやコレやといった理由で出生率が低下していく中で、政策として始まったのが――【遺伝子相性診断】。
よく聞く話だが、
『男女間の遺伝情報が遠いほど遺伝的相性がいい』
『遺伝的相性がいいほど健康的な子供が生まれやすい』
『いい香りがする人とは遺伝子から相性がいい』
……なんてのがある。
要するに遺伝的相性がいいと健康的な子供が生まれやすいから、国家が相性のいい異性を探すのをサポートしますよ――というキャンペーンが【遺伝子相性診断】なのだ。
……なんだか自分で言っていてディストピアめいているというか、ちょっと倫理に問題があるような気もするが、それだけ今の少子化は問題ってことなんだろう……。
いやまあ、なんもかんも男が少なすぎるのがいけないんだけども。
……俺としては正直、あまり印象のいいキャンペーンじゃないんだよなぁ。
国に結婚相手を見繕われるみたいで、なんか抵抗感あるし……。
でもこの【遺伝子相性診断】、世間的には案外とウケがいいらしい。
政府が販売している検査キットを使ったり地方自治体の役所なんかで気軽に行えるのもあって、マッチングアプリ感覚で使う若者が多いのだとか。
数が少ない男の側からしても、交際相手の選択を絞れるから助かるって意見が多いとも聞く。
実際、【遺伝子相性診断】の診断結果で結婚を決めたってカップルも増えてきている。
それから、どうも「【遺伝子相性診断】で良判定が出た相手とは性格的な相性もいいし、身体の相性もいい」らしくて……。
……ちなみにここで言う身体の相性ってのは、S〇Xの相性って意味な。
結局、なんだかんだ【遺伝子相性診断】で付き合ったカップルは満足度が高いらしいのだ。
俺は正直、本当かよそれって思ってるけどさ。
ま、国はあくまで【遺伝子相性診断】で相性のいい相手を探しますよってだけで、実際に交際するかどうかは個人の判断に委ねてはいるから。
なので文句を言う筋合いはないのだが。
「ハ、ハジメはさ、【遺伝子相性診断】って、もう試したことあるの……?」
「いや、まだない」
「!」
俺の隣を歩くなのかは、一瞬嬉しそうな顔をする。
でも何故か、彼女の表情はすぐに不安そうなモノへと変わった。
「わ、私もまだやったことなくて……」
「じゃあ、俺と一緒だな」
「……私と相性のいい人なんて、本当にいるのかな?」
「きっといるよ」
「む~……適当言ってる」
「アハハ、バレたか」
はぐらかすように笑う俺。
――適当なもんか。
なのかは非の打ち所がないほどの健康優良女子だ。
そんな彼女が、遺伝的相性がいい異性が見つからないワケがない。
……。
…………。
…………願わくば、その遺伝的相性がいい相手が俺だったらいいのに、なんてな。
――この後、学校に到着した俺たちは朝のホームルームが終わり次第【遺伝子相性診断】の検査を行った。
やること自体はシンプルで、綿棒で唾液を採取したら保管筒に入れて終わり。
その後は検査機関に送られ、結果が送られてくるのを待つだけ。
データベースに保管された情報の中から遺伝的相性がいい異性が見つかれば、先生がこっそり教えてくれるという。
そうして、一週間後――。
俺は衝撃の事実を知らされることとなる。
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