第19話 初デート
人生初のデート――。
所謂〝初デート〟というモノに、俺は挑むこととなった。
幼馴染であるなのかと付き合い始め、遂に初デートまで成し遂げるという……。
思えば遠くまで来たものだ……。
……でもあまりに突然のお誘いだったので、準備もなにもできていない。
心の準備どころか、その他諸々の準備もまっさらである。
服装だって特別お洒落なワケでもない外出用の私服……っていうか普段着だし、お金だって小遣いがあんまり残ってない状態だし……。
うぅ……今日デートするとわかっていたら、しばらく前からバイトでも始めてたのに……。
……しかし、それよりもなによりも――
「その……なのか、初めてのデートの場所がここでよかったのか?」
すぐ隣を歩くなのかに対し、俺は尋ねる。
俺たちが初デートの場所として訪れた先は――家からやや離れた場所にある大型のショッピングモール。
俺たちの家からはバスなり自転車なりを使えば簡単に行けてしまう距離にある建物で、光永家も愛染家もよく週末の買い物などに利用している。
つまり俺にとってもなのかにとっても、割と身近で行き慣れた場所なのである。
なんというか……初デートの割には、あまり特別感がない……ような気も……。
「しょ、しょうがないでしょ? パッと思い付く場所がここしかなかったんだから……」
俺の隣を歩くなのかは、やや申し訳なさそうに言う。
ちなみに彼女の服装は俺と違って、かなりお洒落。
白の縦フリルブラウスに、主張しすぎない花柄のスカートとグレーのストッキングという組み合わせ。
差し色として明るい茶色のベルト、首元のペンダントと右腕のブレスレット、肩からは小さなショルダーポーチを下げるという――誰がどう見ても一発で「お洒落さん」だとわかる出で立ちだ。
お洒落だし、しかも可愛い。
超が付くほど可愛い。
思わず見惚れてしまうほどに。
その雰囲気は清潔感やガーリッシュなんて言葉を通り越し、もう〝お清楚〟という言葉すら連想させる。
なにも知らない人が見たら、大企業の社長令嬢かなにかかと思うんじゃなかろうか。
いやまあ、実際なのかの実家である愛染家はそれなりにお金持ちの家ではあるんだけども。
しかし、デートに出掛けると決まってから、短い時間でよくこれだけのコーデを整えられるよなって……。
なんかもう綺麗すぎて、隣を歩く俺が浮いて見えるような気さえしちゃうよ……。
なのかに釣り合えるように、俺ももっと身だしなみに気を遣わなくちゃだな……。
「ハジメは、やっぱりもっと特別な場所がよかった? た、例えば、ディ〇ニーランドみたいな……」
――やめてくれ。
頼むから、初デートの場所としてそこを選ぶのだけはやめてくれ。
初デートでデ〇ズニーランドとか、縁起が悪すぎる……。
大行列に並ばされた末にしびれを切らしたカップルがその場で喧嘩を始めて破局するとか、そんなイメージしかないよ……。
悪い意味での特別感しかないって……。
ハハッ、悪夢の国へようこそ!
「……いや、俺はこのショッピングモールで充分幸せかな……」
「ハジメは、つまらなくない……?」
「全然。なのかと一緒にいられて楽しい」
「……よかった」
ようやく、なのかが少しだけ笑ってくれる。
やっぱり俺の幼馴染は、笑った顔がよく似合うよなって。
「あ、なのか。俺ちょっとお金下ろしてくるよ」
「え? お金なら私が出すけど……」
「初デートで彼女にお金出させるワケにいかないだろ? いいから待ってて」
俺はその場になのかを残し、ATMがある方まで小走りする。
俺はまだ学生だから、残念なことにクレジットカードの類は持たせてもらえてない。
電子決済も親から「高校を卒業するまで使うのは控えなさい」って言われてるから、実質現金以外の選択肢がなくって。
だから面倒であることを理解しつつも、必要に応じて口座から引き落とすようにしている。
そんなこんなでATMからお金を引き落とし、なのかの下へ戻ろうとした――そんな時だった。
「――おっ、いい感じの男子じゃん」
「え?」
「へ~、結構顔可愛くね? ウチ好みかも」
三人組の女子高生が、俺を呼び止める。
明らかに染めていると思しき金髪や茶髪、ピアスや付け爪、着崩した制服という、如何にもなギャルだ。
彼女たちが来ている制服は俺が通っている高校のとは違うが、見覚えはある。
このショッピングモールは幾つかの高校の生徒たちの溜まり場にもなっているから、他所の生徒と鉢合わせすることも珍しくはない。
まあ……こうして声をかけられるのは、流石に珍しい気もするけど。
「ね~、キミ高校生っしょ? ウチらと今から遊ばない?」
「いや、あの……」
「アタシたち補習帰りでさ~、ちょっとイライラとムラムラが溜まってんの。発散に付き合ってよ」
「最近、男日照りだったもんね~。どうせキミだって暇してるんでしょ? ホテル行こ、ホテル!」
あっという間に、俺はギャルたちに囲まれてしまう。
えっと……これは所謂〝ナンパ〟というヤツなんだろうか……?
参ったな、まさかこんなタイミングでナンパされるなんて……。
う……なんだか強い香水の匂いが……。
俺、あんまりこういう匂いは得意じゃないかも……。
「え、えっと、悪いんだけど俺には連れがいて……」
「連れ? 連れって男子? ならその子も一緒でいーよ」
「一人より二人の方が楽しいもんね~! それで、その男子はどこにいるの?」
……いかん、なんか都合よく解釈されてしまう。
まあ今の俺ってデートっていう割には地味な服装してるし、異性の連れがいるようには見えないのかもな。
男友達とフラッと買い物に来ました~って格好してると思われても無理ないというか。
はぁ、仕方ない……。
ここはハッキリ言うしかないか……。
「……ごめん、俺の連れっていうのは――」
「――――ハジメ」
俺が彼女の名を口にしようとした、まさにその時。
なのかが、俺たちの前に現れた。
「! なのか……!」
「……行こう」
なのかはこっちに近付いてくるとガシッと俺の腕を掴み、その場から強引に連れ出す。
ギャル女子たちもなのかの姿を見て、俺が彼女連れであることを流石に理解したらしく、その後追ってくるような真似はしなかった。
無事に彼女らの下を脱出できたはできたけど――なんかちょっと、気まずいかも?
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