第17話 恋人ってなにするんだっけ?
俺となのかは、晴れて恋人同士となった。
……なのだが、改めて思う。
恋人になったらなったで、なにをすればいいんだろう?
正直今までの距離感が近すぎて、恋人になったからってなにをしたらいいのやら……ポッと思い浮かばない。
――現在、時刻は昼の十二時を少し回った頃。
妹である一二三とかれこれ三十分ほどベッドの上で格闘した俺だったが、それも午前中の話。
流石に一二三も諦めてくれたというか兄に構い続けることに飽きたらしく、今はリビングのソファに寝転んでゲームで遊んでいる。
ちなみに遊んでいるゲームは新作のソニ〇クレーシング。
……何故かはわからないが、一二三はSE〇Aのゲームが大好きだ。
ぷよ〇よとか、テ〇リスとか、ペル〇ナとか……。
少し前から龍が〇くもやりたいとか言い出してしまい、流石に俺も両親も止めている。
一二三は熱心なS〇GA信者らしい。
本当に何故かはわからないが。
一方兄の俺は、自室の中でぼ~っとしているだけ。
俺もゲームでもしていればいいのかもしれないが、なにも手に付かなくて……。
う~ん……とりあえず今日は休日なんだし、なのかにRINEでメッセージでも送ってみようかな?
いやまあ家がお隣なんだし、直接会いに行けばいいのかもだけど。
なんて思いつつ、スマホを手に取ろうとした――まさにその時だった。
〝ピコン〟という音と共に、スマホが振動する。
「ホワッ――!?」
まさに触れようとした直前の着信音だったため、俺は思わずビクッと肩を揺さぶって驚き、身を仰け反らせる。
どうやらRINEのメッセージが届いたらしく、点灯した画面を見ると――そこには送り主の〝なのか〟という名前が表示されていた。
「! なのかからメッセージだ……」
俺はすぐにスマホを手に取る。
そしてRINEを開いてメッセージを確認すると、そこには――
『今なにしてる?』
――とだけ書かれてあった。
「い、今なにしてるって……」
……なんか、あまりにも普段通りのメッセージだな……。
幼馴染である俺たちは以前から頻繁にRINEでやり取りしていて、暇だからと中身のないメッセージを送り合うなんてのも日常茶飯事。
そしてこの『今なにしてる?』は、なのかが俺にメッセージを送ってくる時のいつもの最初の一言。
決まり文句ならぬ決まりメッセージ、みたいなモノだ。
……なのか、暇してるのかな?
昨日の今日で、俺なんてまだ微妙にドギマギしてるのに。
俺はスマホをタップし、なのかにメッセージを返送。
『暇してる。暇暇~~~』
メッセージを送ると、またすぐに返事が戻ってきた。
『ホントに暇?
やることない?』
『ないないないないない』
『ないは一回でいいから』
『ぴえん』
――そんなメッセージを送り合うが、少しの間なのかから返事が戻ってこなくなる。
まるで、なんて文章を送ろうか悩んでいるかのような、空白の時間。
そして二分ほど経過した後、
『窓』
――と、ただ一言だけメッセージが送られてきた。
「ん? 窓?」
え、なに?
窓がどうしたって?
と思った瞬間――
〝コンコンッ〟
という音が、俺の部屋の窓から聞こえてきた。
「ホワアァッ――!?」
さっきと同じように、思わずビクッと肩を揺さぶって驚いてしまう俺。
〝ドキーンッ!〟と心臓が跳ね上がるが、どうにか冷静さを取り戻し、音が聞こえた窓の方へと足を向ける。
……窓はカーテンが閉められており、向こう側は全くと言っていいほど見えない。
このカーテンはかれこれ五年近くも閉めっぱなしになっており、もう長らく開かれていない。
言うなれば〝開かずのカーテン〟だ。
カーテンが閉めっぱなしなのにはそれ相応の理由があるのだが……そこから音が聞こえた以上、開けざるを得ない。
俺はかなり久しぶりに、開かずのカーテンをシャッと開いた。
すると、透明な窓ガラスの向こうに見えたのは――どことなく不安げな表情でこちらに手を振る、幼馴染の姿だった。
ちなみに今日は休日なので、彼女も私服姿である。
俺はガラッと窓を開け、
「おはよ、なのか」
「……おはよう、ハジメ」
「なのかがこの窓をノックするなんて、随分久しぶりじゃないか」
「う……そ、それは、RINEで話すより直接話した方がいいと思って……」
微妙に気まずそうにしながら、なのかは自分の長い金髪をクルクルと指先で弄る。
――我が光永家となのかの愛染家は、お隣さん同士。
つまり家が限りなく隣接している。
そして俺の部屋は家の二階にあり、なのかの部屋も家の二階にある。
要するに――だ。
俺の部屋の真向かいには、なのかの部屋があるのである。
それも家と家の距離感が極めて近いため、やろうとさえ思えば俺となのかの部屋は互いに窓から行き来できてしまう。
小学校低学年の、お互いの性別をさほど気にしないくらいの年齢の頃は、この部屋と部屋の近さを喜んだものだ。
……じゃあなんで、今は開かずのカーテンで封をしてるのかって?
ある程度年齢が進むと、そう無邪気に喜べなくなってきたんだよ……。
決定的な出来事となったのが、俺となのかが中学一年の頃。
なのかに一声かけようと、俺がカーテンを開けた時――なのかが部屋の中で着替え中だった、なんてことがあって……。
その時に思いっ切り見ちゃったんだよな、なのかの下着姿……。
中学一年にもなれば、流石に異性のことは意識するようになるから。
あの時のなのかは、それはそれは可愛らしいピンク色の下着を付けていたっけ……。
俺としては眼福だった……。
……でも下着を見られたなのかは流石に怒って、数日間まともに口を利いてくれなくなっちゃったんだよなぁ……。
俺としても気まずくなって、以来なのかの部屋が見える窓のカーテンは閉じっぱとなった……という経緯。
高校生ともなれば、余計に異性の部屋を覗き見るような真似には抵抗を感じるようになって……。
まあ連絡を取り合うだけなら、別にRINEでメッセージを送ればいいから。
それに会って話したいなら、一歩家から出ればいいだけの話だし。
そんなこんなで、もう長らくこの窓は開けられていなかったのだけど――
なのかは少しモジモジとしながら、
「わ、私たち、もう恋人同士、なんだよね?」
「あ、ああ」
「それでその……今日って休日でしょ?」
「休日、だな」
「だ、だから――〝デート〟なんてどうかな……なんて」
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