第16話 あの後どうなった?
――〝ボフッ!〟という重い音と、腹の上になにかが乗っかってくる衝撃。
深い眠りについていた俺は、そんな感覚を味わわされて僅かに瞼を開ける。
「お兄ちゃ~ん。おはよ~」
「……一二三、重い」
朝一番に俺の視界に移り込んだのは、俺の身体の上に跨って兄を起こそうとする我が妹、一二三の姿だった。
妹は幼い頃、よくこうやって俺を起こそうとしていた。
……そして今でも、たまにやる。
兄との距離感が近くて嬉しいやら、流石にそろそろやめてほしいやら……。
ちなみに今日は休日。
特に予定もなかったはずなので、一二三に朝早く起こされる理由はないのだが――
「それでお兄ちゃん、昨日はなのかお姉ちゃんに告白したんでしょ?」
「……なんで知ってるんだ?」
「あ、ホントにしてたんだ」
パアッと表情が明るくなる一二三。
しまった、カマをかけられたか。
「それでそれで? どうなったの? ホラホラ教えて~」
俺の身体の上でゴロゴロと寝そべり、実に楽しそうに尋問してくる一二三。
一二三は小柄だし体重も軽いので大して苦しくはないが、それでも人一人が身体に乗ってゴロゴロしていると圧迫感はある。
それに一応、一二三も女の子なワケで。
実の兄妹だし興奮するとかはないけど、掛け布団越しだとしても身体が密着するのは頂けないかなって。
来年になっても同じことをやろうとしたら、流石に本気でとめようと思う。
「早く白状しろ~。吐くまでここを退かないぞ~」
……このままだと本気で退きそうにないな。
やれやれ、おませさんなお年頃め。
「……黙秘権を行使する」
俺は頭まですっぽりと掛け布団を被り、黙秘を慣行。
そんな俺を見た一二三は「あ~! 容疑者に黙秘権はな~い!」と言ってさらに身体の上でゴロゴロ。
これはもう我慢比べになりそうだ。
……それに、言えるワケないだろう。
昨日あの後どうなったかなんて――俺となのかだけ知ってればいいんだから。
▲ ▲ ▲
「お、俺たち――付き合おう!」
なのかに対し、思いの丈をぶつける俺。
それは文字通りの〝告白〟だった。
遠回しな言い方も、まどろっこしい言い方もしない。
好きだと――
付き合ってほしいと――
ま正面から、そう伝えた。
今俺にできる、精一杯の気持ちの伝え方。
そんな俺の告白を受けたなのかは――
「――――」
頬から耳たぶまで真っ赤に紅潮し、これ以上ないくらい驚いた表情で目を丸くする。
もはや言葉が出ない様子だった。
まさか今このタイミングで告白されるなんて、思ってもみなかった――そう内心で叫んでいるであろうことが、ありありと伝わってくる。
「――えっ、あ、その――わ、私――」
「なのかに……俺の彼女になってほしいんだ」
ベンチの上で身体を動かし、なのかとの距離を詰める。
彼女は身を強張らせて僅かにのけぞるが、俺は構わず幼馴染に接近していく。
――いつの間にか、公園で遊んでいる子供たちの姿はかなり少なくなっていた。
さっきと比べて随分と静かになり、ざあっという風の音を感じられる耳元で感じられる。
まるで今この場所には俺と幼馴染しかいないかのような――そんな錯覚すら覚えた。
「なのかの答えを……聞かせてほしい」
手を伸ばさなくたって、いつでも触れられる距離。
なのかの可愛らしい顔が目と鼻の先にある状況で、俺は答えを求める。
彼女から答えを聞くまで、俺は一ミリでも離れる気はなかった。
「わ、私、なにも取り柄とかない女だし……」
「取り柄ならある。俺はたくさん知ってる」
「も、もし付き合っても、すぐに飽きられちゃうかもしれないし……」
「絶対に飽きたりしない。俺はなのかがいいんだ」
「ハ、ハジメの匂いを嗅いで興奮しちゃう、変態女だし……っ」
「匂いなんて、いくらでも嗅いでくれ」
俺はそう言って、彼女の手をそっと握る。
「なのかが自分のことをどう思ってたとしても――俺はなのかが好きなんだ。なのかがいいんだ!」
「ハジ、メ……」
「だから……俺を、なのかの彼氏にしてくれ」
――俺は手の震えを必死に抑える。
手を握るなのかにバレないようにと。
いや、もしかしたら抑えているのは気持ちだけで、実際には全然抑えられてないかもしれない。
それくらい俺の手の感覚は曖昧になり、頭の中は真っ白になってる。
だがそんな状態となっても、幼馴染の手を握っているという感覚だけはしっかりとある。
彼女の手の温かみだけは、ちゃんと感じ取れる。
それに――もしかしたら、なのかの手も震えているのかもしれない。
お互いに手が震えすぎて、震えが混じり合って判別できなくなっているだけで。
「あっ――わ、私、あの、その……」
なのかは俺から目を逸らして、あちこち目を泳がせる。
俺の気持ちをどう受け止めたらいいのか、もうわからないのだろう。
しかし、徐々に顔を俯かせ――
「…………ふ、不束者ですが……よろしくお願い、しましゅ……」
微妙に言葉を噛みながら、そう答えてくれた。
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