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第15話 俺たち――付き合おう


「なっ、なのか!? 大丈夫!?」


 明らかに異常な反応を見せたなのかの姿に、思わず俺までビビる。


 なのかはハンカチの向こうで息を荒げながら、


「スゥ~~……ハァ~~……だ、大丈夫っ……スゥ~~~~~~……っ」


 一心不乱に匂いを嗅ぎ続ける。

 もう一ミリたりともハンカチを離す素振りを見せない。


 ……なんだろう、絶対に大丈夫じゃない。

 少なくとも俺には大丈夫に見えない。


「はあぁ……ハジメの香り……。いい匂い……」


「そ、そんなに匂い残ってるかな? ちゃんと洗ってあるヤツ持ってきたんだけど……」


「わかる……。洗剤の匂いの向こうに、確かにハジメを感じるもん……」


「そ、そう」


 洗剤の向こうに俺を感じるのか……。


 なんとも詩的な言い回しだけど、そこだけ切り取って聞くと微妙に背筋に寒さを感じる気もするな……。


「――っていうかハジメ!」


「えっ、な、なに?」


「どうして未使用(・・・)を持ってきちゃったの!?」


「へ?」


「どうせなら使用済み(・・・・)の匂いを嗅いでみたかったのに!!!」


 ――言い方ァ!

 使用済みって言い方はアウトでしょ!


 もう誤解を招く言い方にしか聞こえないって!


 いや、っていうかそもそも使用済みのハンカチなんて、どう考えたって汚くて渡せないと思うんだが……!?


「つ、使った後のハンカチなんて渡せないって! ばっちいし……」


「ばっちくない! ハジメの使ったモノにばっちいモノなんてない!!!」


 声高に主張するなのか。


 ……うん、やっぱり今日もおかしくなってるな。


「ママ~、あのお姉ちゃんたちなにしてるの~?」


「こーら、人のこと指差しちゃいけません」


 俺たちが誤解しかされないやり取りとしていると、すぐ傍を親子連れが通りかかる。


 不思議そうに俺たちのことを指差す娘さんと、そんな娘さんの行動を嗜めるお母さん。


 彼女たちはすぐに目の前を通り過ぎていったが――


「「…………」」


 見ず知らずの他人に指を指されては、流石に俺たちも冷静になるしかなかった。


 ここ公園だからね。

 そりゃあ変な行動してれば人目を引くよねって。

 しかも幼い子供の目を。


 なのかだって人目を意識するためにこの場所を選んだワケだし。


 彼女は恥ずかしそうにしながらハンカチを顔から離し、


「……ご、ごめん、ハジメ……」


「いいよ。それより落ち着いた?」


「うん……ちょっと冷静になれた気がする」


 深く息を吸い、落ち着きを取り戻す。


 俺もひと息つき、


「で、どう? このやり方なら匂いに慣れられそう?」


「……わかんない。もっとハンカチの匂いが濃かったら、止まらなくなってたかも」


「…………洗ってあるヤツを持ってきて正解だったな」


 こんな場所で昨日や一昨日みたく暴走してたら、たぶん大変なことになってただろう。


 少なくとも周囲の子供たちの教育には非常によろしくない事態に発展していたことは間違いないと思う。


 明日からは予備も含めて二枚ハンカチを持ち歩くようにしようかな……。


 なんて俺が思っていると――


「……実はさ、黒月先生から言われたんだ」


「え?」


「一度、幼馴染(ハジメ)とちゃんと向き合ってみろって」


 なのかはそう言って、改めて俺の方を見る。


「ハジメはやっぱり、匂いで興奮する私なんて嫌……? 気持ち悪いと思う?」


「! なのか、俺は――」


 ――気持ち悪い?

 俺はそんな風に思ったことない。


 確かに、幼馴染が俺の匂いを嗅いでおかしくなるようになっちゃったのは、困惑したというか驚いた。


 でも嫌だとか気持ち悪いなんて、そう思ったことなんて一度もない。


「……俺はなのかのことを気持ち悪いだなんて思ったことは、一度もないよ」


「……本当?」


「本当だよ。絶対に本当」


「……」


 なのかは一瞬俺から目を逸らすと、


「……やっぱり聞かせて? ハジメは私のことをどう思ってるの……? ハジメにとって――私って、なに?」


 ――そう、尋ねてくる。


 それは昨日も聞かれた質問だった。

 でも昨日は、俺が有耶無耶にしてしまった。


 ……正直、まだ言葉が喉の奥で突っかかる感覚がある。


 伝えるのが怖くて、心臓の脈動が早まっているのが自分でわかる。


 だけど……一二三にも言われちゃったもんな。


 いつまでも意気地なしのままじゃ、やっぱりダメだよな。


 俺は――ギュッと拳を握り、意を決した。


「なのかは……俺にとって、大事な人だよ」


「大事な人――ってどういう意味で?」


「言葉通りの意味さ」


 俺は唇が震えるのを堪えながら――なのかの方を見つめた。


「き、昨日は伝えられなかったけど……今日はちゃんと言う!」


「え……?」




「なのか、俺は――キミが好きだ(・・・・・・)!」




 ――言った。

 ようやく言えた。


 俺がずっと、ずっとずっと心の中で想っていたことを。




「お、俺たち――付き合おう(・・・・・)!」





第3章はここまでとなります!


☆読者様への切実なお願い☆

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