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第14話 匂いに慣れたい幼馴染


 一二三が部屋を出て行った――その直後。


〝ピコン〟と俺のスマホから音が鳴る。

 誰かからRINE(ライン)のメッセージが届いたらしい。


「!」


 すぐにスマホを手に取り、画面を確認。

 するとメッセージの送信者は――なのかだった。


 彼女からのメッセージには、こう書かれてあった。


 ――〝この後、会えないかな?〟と。




 ▲ ▲ ▲




「――部活お疲れ、なのか」


「うん……いきなり呼び出してごめん」


 俺はなのかに呼び出され――家の近くにある公園までやって来た。


 時刻は夕方の十八時前。

 もうすぐ陽も落ちてくるだろうが、まだ空は明るく紅葉色に染まっている。


 公園にもまだ遊具で遊ぶ子供たちの姿があり、楽し気な声も聞こえてくる。


 俺はそんな公園の中のベンチに座っていると、少し遅れてなのかがやって来た。


 スクールバッグの他にテニスラケットが収まっているラケットケースも抱えており、部活を終えてここまで直行してきたでろうことがわかる。


「もしかして待たせちゃった?」


「そうだね、一億年くらい待ってたかも」


「なにそれ」


 クスッと笑うなのか。

 そんな彼女に対し「とりあえず座りなよ」と俺は促す。


 そして彼女は俺と並んでベンチに座ったのだが――何故か、俺との距離感が妙に遠い。


 ベンチの端っこギリギリに座り、露骨に俺と距離を取ろうとしているのが一目でわかる。


「……なんでそんな離れて座るの?」


「だ、だって、部活終わりだから……汗の匂いが……」


「俺は気にしないけど」


「私は気にするの!」


 いやまあ、なのかの年頃の女の子だからね?


 そりゃ汗の匂いを他人に嗅がれるのは拒否感があるだろうけど――


「う~ん……でも俺、なのかの汗の匂いって、いい匂い(・・・・)だなって思ったけどな」


 俺ってもう既に、彼女の汗の匂いを知ってるんだよね。


 なにせ、ゼロ距離で密着して遺伝子の相性を確かめたんだから。


 だから今更というか……。


 なんて、俺は思ったのだが――


「――っ!」


 なのかは〝ボッ〟と顔を真っ赤にする。


「わっ、私の汗の匂いなんて、いつ嗅いだの!?」


「え……いやそれは、昨日と一昨日」


「――! も、もしかして私って、汗臭かった……?」


「いや、全然。むしろその……ちょっと興奮したかも、なんて……」


「……ハジメ、ちょっと変態っぽい」


「…………ごめん」


 堪らず目を背ける俺。


 うん……まあ……変態っぽいと言われれば否定はできんかも。


 でもあんな密着して匂いを嗅いだら、そりゃ汗の匂いだってわかっちゃうだろって。


 不可抗力、だと思う……。


 トホホ、と嘆く俺だったが――


「……で、でも」


「?」


「でも……ハ、ハジメの匂いも……ちょっとえっち(・・・)だった、かな……」


 顔の前で細い指先を合わせ、頬を赤らめながら――なのかはそんなことを言った。


「え……」


「……ご、ごめん、聞かなかったことにして!」


 自分で言ってて恥ずかしくなってしまったのか、慌てて顔を背けるなのか。


 俺もどんなリアクションをしていいか困ってしまい、また微妙に気まずい空気が流れる。


 これはイカン――このままだと、また沈黙が長くなってしまう――と思った俺は、すぐ別の話題に切り替えることにする。


「そ、それでどうしたんだよ? RINE(ライン)で話さず、わざわざ公園に呼び出すなんて」


「う、うん。人目があった方が、私も抑えられるかなって思って……」


「? というと?」


「……ハジメ、私がRINE(ライン)で伝えたの、持ってきてくれた?」


「あ、ああ。持ってはきたけど……」


 そう言って、俺はズボンのポケットからある物(・・・)を取り出す。


 それは――〝ハンカチ〟だ。


 俺が普段から持ち運び、学校なんかでも使っているハンカチである。


 勿論、一日使ったら洗濯に出すようにしているので、これは複数常備してあるハンカチの内の一枚にすぎないが。


 なのかは俺を公園に呼び出す際、RINE(ライン)で「ハジメのハンカチも持ってきて」とも言っていた。


 ハンカチをなにに使うのかはわからなかったが、断る理由も特になかったので、こうして持参してきたワケなのだが……。


 なのかは俺は取り出したハンカチを見ると、〝ゴクリ〟と喉を鳴らす。


「……ハ、ハジメも気付いてると思うけど、私ってハジメの匂いを嗅ぐと、なんだかおかしくなっちゃって……」


「う、うん……」


「だから、少しずつ身体を慣らす必要があるんじゃないかな、と思って……」


 …………うん、うん?

 いや待って?


 身体を慣らす……?


 ということはまさか、なのかがハンカチを持ってこさせたのって――


「もしかして……ハンカチを使って俺の匂いに慣れようと考えた――ってこと?」


「……」


 こくり、と無言で頷くなのか。


「ハンカチ越しなら匂いも強くないだろうし、こうして公園なら人目もあるから……私も暴走しないかなって……」


 もの凄く恥ずかしそうに言う我が幼馴染。


 ……ハンカチ越しに異性の匂いを嗅ごうとするとか、その発想の方がさっきの俺の発言よりよっぽど変態的では???


 ましてや暴走を抑えるためとは言え、人目のある公園で行うなんて、それなんて羞恥プレイ???


 なんて思ったが、敢えて言わずにおいた。


 おそらく当人だって、自分の言っていることがだいぶおかしいと自分でわかっているのだろう。


「もっ、もしハジメが嫌なら嫌って言って! 無理強いはしないから……!」


「……ううん、嫌じゃないよ」


 困惑はしたけど、嫌なワケじゃない。


 ましてやなのかは、自分の体質をどうにかしようと努力しているんだ。


 なら出来る限りの手伝いをするのが、幼馴染ってモンだろう。


「それじゃあ――はい」


 俺はなのかに向かって、ハンカチを差し出す。


「あ、ありがとう……」


 なのかは僅かに息を荒くしながら、震える指先でハンカチを掴む。


 そして両手でしっかりと保持し、悩ましそうに数秒ほど固まった後に――〝ええい!〟と勢いに身を任せるように、俺のハンカチに顔を突っ込んだ。


 その様子を、俺は隣で見守る。


 離れた場所にある遊具ではまだ子供たちが遊んでおり、キャッキャッという楽しそうな声が聞こえてくる。


 しかしまさか、こんなに可愛い幼馴染に自前のハンカチの匂いを、それも目の前で嗅がれる日が来ようとは……。


 な、なんだか俺までドキドキしてきたな……。


 固唾を呑んで、俺はなのかを見守ったが――



「スゥ~~~~…………ん゛ん゛ッ!」



 胸いっぱいにハンカチの匂いを吸い込んだ直後――〝ビクン!〟となのかの身体が震えた。


もし少しでも「面白い」と思って頂けましたら、何卒ブックマークと★★★★★評価をよろしくお願い致します!<(_ _)>

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