第10話 キス、してもいいよね?
「キ、キス……!?」
――思わず、俺の視線はなのかの唇に吸い寄せられる。
薄いピンク色で、ぷっくりとして柔らかそうな彼女の唇。
アレに自分の唇を重ねたら、どれほど気持ちいいだろうか――
そんな妄想をするだけで、俺の心臓はさっきよりもずっと早くドクンドクンと全身に血を送り始める。
「ハジメは、私とキスするの嫌?」
「えっ、その、嫌――じゃない、っていうか……」
「じゃあ、いいよね?」
熱を帯びたなのかの瞳。
すっかり目が据わっており、じっと俺のことを見つめてくる。
いや、より正確には――俺の唇を。
「「……」」
なのかの熱い息遣いを感じる。
触れてもいないのに、彼女の体温がどんどん上がっていってるのがわかる。
……彼女だけじゃない、か。
俺の体温もどんどん高くなってる。
緊張で肩が強張ってるのに、どうしようもなく期待してしまっている自分がいる。
でも――
「で、でもなのか、なんか様子が……」
なのかの様子がおかしい。
いつもと雰囲気が違う。
これは――そうだ、昨日と同じだ。
俺の匂いを嗅いだ途端、まるで別人みたいに積極的になった。
今のなのかも、そんな感じで――
「ハジメが、私をこうさせてるんだよ?」
妖艶な笑みを浮かべ、彼女は言う。
「お、俺が? それどういう……?」
「ハジメの匂いを嗅ぐと、おかしくなっちゃうんだ……」
なのかは俺に抱き着いて、身体を密着させてくる。
彼女の肉付きのいい豊満な身体が押し付けられ、特に〝胸〟の感触が鮮明に伝わってくる。
昨日と同じく、逃げ場を封じられた形だ。
……緊張からだろうか、それとも屋上という太陽の下にいるからだろうか。
じんわりと汗をかいてきた。
自分の肌がベタつき始め、僅かに湿ってきた衣服と肌が擦れる時の感覚を意識できるようになる。
だが、汗ばんできたのは俺だけではない。
なのかもほんのりとだが、汗をかき始めてきたのがわかる。
同時に――彼女の身体から放たれる甘い匂いが、さらに濃くなった。
「それじゃあ……いくね?」
――目を瞑ったなのかの唇が、少しずつ近付いてくる。
逃げる気になんてなれなかった。
拒否しようとすら思えなかった。
このまま彼女に身を任せ、柔らかな快感を味わいたい――そんな想いで、頭の中がいっぱいになった。
互いの唇が、本当にあと少しで触れ合える距離まで近付く。
指先一本の隙間もない。
触れるまで一秒もかからない。
なのかの吐息が、まるで自分の吐息かのように錯覚すら覚える。
息と息が交じり合って、もうどっちがどっちかわからない。
そしてまさに、俺たちの唇が重なり合おうとした――その刹那。
「――な~のか~。ここにいる~?」
屋上への入り口ドアがガチャリと開けられ、一人の女子が屋上に入ってくる。
「お~い、先生が呼ん……で……――」
彼女は俺たちと目が合うなり、〝ガチッ〟と硬直。
俺はその女子に見覚えがあった。
確かなのかと同じクラスで、同じテニス部にも所属してる田原美音って子だ。
「ミ……ミネ……ッ!?」
なのかは驚いて、バッと俺から顔を離す。
ミネさんは目を丸くして呆然と立ち尽くし、俺となのかを見つめ続ける。
――もう、誰がどう見ても、言い逃れできない状況。
ミネさんも一瞬で理解したことだろう。
俺たちが今まさに、そういうことをしようとしていたと。
「………………」
ミネさんはなにも言わず、無言でこちらを見つめたままポケットからスマホを出して、両手に構える。
そして明らかに撮影してると思しきポーズで、スマホのカメラをこちらへ向けた。
「ちょっと!? なにしてるの!?」
「いいから! どうぞそのまま続けて! 動画撮って、オカズにさせてもらうだけだから!」
ギョッとするなのかに対し、〝ムフー!〟と鼻息を荒くして撮影を続けるミネさん。
……オカズって、なんのオカズ?
なんて聞くのは野暮なんだろうな、うん。
一瞬でムードはぶち壊しになってしまい、なのかは俺から離れてミネさんの方へと全速力でダッシュ。
彼女たちは「早く消して!」「イヤだ! 今夜は絶対コレを使うんだ!」などと傍から見るとコミカルにしか見えない喧嘩を始めてしまい、俺は完全に場に取り残される。
「……ハァ~~~」
俺の内心は、ちょっと複雑な気分だった。
緊張が解れて安堵した気持ちが半分、残念だと思う気持ちがもう半分。
なのかは元の彼女に戻ってくれたみたいなので、そこはよかったけど――キスできなかったのは、やっぱり残念だなって。
第2章はここまでとなります!
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