第1話 自称負けヒロインの幼馴染
俺には〝自称負けヒロイン〟の幼馴染がいる。
名前は愛染なのか。
年齢は俺と同じ十七歳で、俺と同じ高校に通う高校二年生。
俺とは家が隣同士で、幼い頃から家族みたいに一緒に過ごしてきた仲。
なのかは英国人と日本人の血が流れるクォーターで、腰まで伸びたサラサラな金髪と絹のように白く綺麗な肌、そして碧眼の持ち主。
スタイルも抜群によく、特にあの豊満という言葉がしっくりきすぎる胸は、生粋の日本人では中々実らせるのが難しいだろう。
頭がよく学業も優秀で、尚且つテニス部に所属していて運動神経もかなりいい。
どこからどう見ても、文句の付けどころがないS級美少女。
……なのだが、彼女にはとある口癖があった。
「どうせ、私なんて恋愛できないわよ」
――ほら、始まった。
そんな口癖を隣で聞きながら、俺は今日も幼馴染と肩を並べて登校する。
「まーた始まったよ、なのかの負けヒロイン発言が」
――俺の名前は光永一。
なのかからはハジメと呼ばれている。
なのかと違って顔立ちもあまり冴えない感じで、勉学もスポーツも並。
彼女と並ぶS級美少年などとは、口が裂けても言えない……と思う。
「なのかは可愛いって」
「別に可愛くない」
「いや可愛いから。自信持ちなよ」
「そ、そんなこと言われても騙されないんだから……」
「別に騙すつもりなんてないけど」
いや本当に、幼馴染という贔屓目で見なくてもなのかは可愛いし美人だと思う。
実際、同性である女子たちからは滅茶苦茶モテてるもんな。
性格もよくて恵まれた容姿をしてるのに、どうしてこんなに自己肯定感が低いのかわからん。
「毎度思うけど、どうしてそんなにネガティブ思考なんだよ」
「フンだ……女よりずっと稀少な男であるハジメには、私の気持ちなんてわからないってば」
なのはは頬を膨らませ、ぷいっとそっぽを向く。
……いやまあ、彼女の言わんとしていることはわからなくもないが。
だってこの世界での〝男〟という存在は、あまりにも稀少なのだから。
最近日本政府が発表したデータによると、今の日本における男女比は1:100――。
つまり女性百人に対して、男はたった一人しかいない換算になるという。
感覚的には、一クラス三十人の学校があったとして、だいたい三クラスに一人男子がいればいい方……。
実際、ウチの高校には全学年合わせても男子が十人もいない。
生徒数は全部で七百名を超えているにも関わらず、である。
――つまり、だ。
女子が男子と恋愛をしようとした場合、その倍率はおよそ百倍。
状況によっては、百倍どころの倍率では済まなくなるだろう。
……倍率激し過ぎるって。
有名大学の受験でも、そこまで激しい倍率になることは中々少ないと思う。
そんなだから、なのかがネガティブ思考になってしまうのも理解はできる。
百人に一人しか男の恋人を作れないこのご時世で、自分なんかが作れるワケない――そんな風に考えてしまうのだろう。
「なのかは充分可愛いし、勉強もできて運動もできるし……在学中はアレかもだけど、社会に出たら絶対モテるって」
「……皆そう言ってくれる」
俺は励まそうとしたつもりだったが、彼女はなんだか余計にしょんぼりしてしまった様子。
「なのかは絶対モテるって、友達は皆言ってくれるけど……私、ハジメ以外の男の人から声をかけられたことなんて、一度もない」
「なのか……」
「モテそうって言われるのに全然モテないなんて……私ってやっぱり〝負けヒロイン〟だよ」
……負けヒロインって、本来そういう意味で使われる言葉じゃない気もするが。
なんなら勝負する前から諦めてしまってる時点で、負けヒロインですらないのでは?
〝負け負けヒロイン〟では?
……なんて、そんなこと一言でも言おうものならなのかが泣き出しちゃいそうだから、絶対言わないけど。
最近ネット上では、彼女みたいに「モテそうなのにモテない可愛い女子」のことを負けヒロインと呼ぶ風潮がある。
元はラノベとかアニメから有名になった所謂ネットスラングなんだけど、いつの間にかすっかり使われ方が変化してしまった。
壁ドンとか黒歴史みたいな感じだよな。
ネットで流行って意味が変わっちゃうのって……。
「あ~あ、ハジメはいいよね。可愛い女子を選びたい放題なんだから」
「え、選びたい放題って……。別にそんなことないよ」
「ウソ。この前も女子から声かけられてた」
「うっ……」
……うん、まあ、確かに、女子からはよく声をかけられる。
っていうかクラスの男子は俺一人で、男友達を作る方が困難なんだから、そりゃそうだって感じではあるけど。
実際、少なくない女子たちからそういう目で見られている自覚はある。
別に嫌なワケじゃない。
好意を寄せてくれるのは純粋に嬉しい。
でも――
でも、俺がずっと昔から好きなのは、たった一人の幼馴染だけなんだよな……。
幼馴染っていう距離感が近すぎて、いつまでも言えずにいるんだけどさ……。
なんてことを心の中で思っていると、
「――あ、そういえばハジメ。アレって確か今日じゃない?」
「ん? なに?」
「――【遺伝子相性診断】」
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