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キョウテン

朝日が山の向こうから昇り、空をオレンジと金色に染めていた。朝の霧がゆっくりと消え、木とわらでできたキョウテン村の屋根が見えてきた。


あいこは自分の部屋の窓を開けた。ひんやりとした風が髪を揺らし、焼きたてのパンの甘い香りを運んできた。それは家族のパン屋のにおいだった。


下では、すでに村のみんなが動き始めていた。子どもたちが広場を走り回り、小さなヴイモンスターを追いかけながら笑っている。ふわふわした毛をした小さなモンスターたちが家の屋根に集まっていた。


「ねえ! きみのこと気に入ったみたい!」


女の子が叫ぶと、小さなモンスターの一匹が男の子の頭にくっついた。


あいこは笑った。朝の村はいつもにぎやかだった。でも、のんびりしている時間はなかった。パンを焼かないといけない。


あいこは急いで木の階段を降り、パン屋の厨房に入った。熱いかまどの空気がまるでやさしく抱きしめるように広がっていた。父はもう仕事をしていて、髪に粉をかぶりながら、すばやい手つきでパン生地をこねていた。


「やっと起きたな、ねぼすけ」


父はパンから目を離さずに言った。


「食べものの夢を見てた」


あいこはそう答え、エプロンを取って腰にしめた。


父は笑った。


「じゃあ、まだ料理にあきてないってことだな」


あいこは焼きたてのパンをかごに入れ、棚に並べた。


「ぜったいに! いつか自分のレストランを開くんだから!」


父は少しの間手を止め、ゆっくりほほえんだ。


「それが実現したら、おまえの父さんは誇りに思うぞ」


あいこは胸が温かくなるのを感じた。父はいつも一番の味方だった。


そのとき、パン屋の扉がきしんで開いた。


あいこは振り向く前から、誰が来たのかわかっていた。


「やっぱり来たね」


あいこは言った。


「ハッ! おれがここに来ない日があったら、世界の終わりかもしれないぞ!」


カウンターの上にぴょんっと飛び乗ったのは、ぷるすばんだった。


小さなヴイモンスターで、長い耳を持ち、毛並みは銀のように光っていた。青い目が元気にきらめいている。


ぷるすばんは小さな革の袋をカウンターに置き、にっこり笑った。


「いつものやつ、お願い」


「あんた、ほんとにおにぎりにあきないね」


あいこは焼きたてのおにぎりを取り、ぷるすばんに渡した。


「クリエイティブな頭にはエネルギーがいるんだよ!」


ぷるすばんは大げさにひと口かじった。


「大発明っていうのは、何もないところから生まれるわけじゃないんだからな!」


「まだ村を爆発させてないから、一応信用してるよ」


あいこはくすくす笑った。


父がカウンターに身を乗り出した。


「それ、ほめ言葉にはならないぞ、ぷるすばん」


ぷるすばんはしかめっ面をして、さらにおにぎりをひとつ取った。


「もうちょっと信じてくれよ!」


あいこはエプロンで手をふき、おにぎりを布に包んだ。


「けんじに持っていくよ。またごはんを食べ忘れてるだろうから」


「ハッ! きっとまた図書館にこもって、へんな巻物を読んでるぜ」


ぷるすばんはカウンターから飛び降り、あいこと一緒にパン屋を出た。


朝の空気は気持ちよく、村じゅうににぎやかな声と足音が響いていた。


「で、今は何を作ってるの?」


あいこは石畳の道を歩きながらたずねた。


ぷるすばんは片方の眉をあげた。


「へえ、今さら興味が出たのか? ずっとおれのこと、へんなやつ扱いしてたくせに」


「へんなやつとは言ってない」


あいこは言い返した。


「ただ、何か作る前に、うちの壁にぶつけるのはやめたほうがいいって言っただけ!」


「それは細かいことだ!」


ぷるすばんは大げさに両前足を空に向け、えらそうな顔をした。


「おれは、おまえたちのパン屋を助ける装置を作ったんだ!」


あいこは目をぱちくりした。


「どんなの?」


「その名も…… ‘ミキサー’ だ!」


ぷるすばんはあいこの前に飛び出して、胸をはった。


「これがあれば、生地をこねるのに手を使う必要がなくなる!」


あいこは驚いた。


「すごい! それ、ほんとに動くの?」


「まあな……でも、今はおれが電気を流してる間しか動かないんだよな。止めると止まっちゃう」


あいこはニヤリと笑った。


「つまり……ぷるすばんがずっとつないでないと、動かないってこと?」


ぷるすばんはむすっとした顔になった。


「そう言われると、ちょっとかっこ悪いな……」


あいこは笑った。


「でも、電気をためることができれば、何にでも使えるよね?」


「その通り! 明かりや道具、機械だって動かせる」


「じゃあ、あとはどうやって電気をためるか、か」


「そう、それがいちばんの問題だ。導電性の高い石や金属を試してみたけど、まだ完ぺきなものは見つかってない」


あいこはぷるすばんの顔を見て、やさしく言った。


「でも、きっとおまえなら見つけられるよ」


ぷるすばんは少しの間、じっとあいこを見つめていた。でもすぐにニヤッと笑った。


「もちろんさ!」


二人が広場に着くと、人々が市場の準備をしていた。あちこちでにぎやかな声が響く。


「じゃあ、おれは工房に行くわ」


「ちゃんと爆発させないでよ!」


「保証はしないぜ!」


ぷるすばんは笑いながら、工房に向かって走っていった。


あいこは彼の後ろ姿を見送り、手に持ったおにぎりをぎゅっと握った。


そろそろ、けんじに届けに行かないと。


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