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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

夜闇に舞う蝶

作者: てぃー



深夜、ひとりたたずむ暗闇は蝶が鱗粉を撒くかのように、どうしようもない不安と、悲しみ、寂しさを心に宿させる。


暖かい布団の中にいるのに心臓が締め付けられる感覚に体温を奪われていく。

別に現状の自分に不満がある訳でも将来に不安がある訳でもない、ただ漠然と1人を噛み締めて、このまま変わらず過ぎていくであろう時に本当にどうしようもなく無為を感じる。


気を紛らす為に火をつけた煙草の煙が薄闇の中にぼんやりと漂い、少しの酩酊感と、さらに少しの高揚感をくれるが、それも押し寄せる感情の波に流されてすぐに消えていってしまった。


朝が来れば、眠ってしまって、朝日を浴びればまた気持ちも上がってくる事は分かっている。

でも、こんな状態で眠ることなどできるはずもなかった。


散歩にでも出よう、ふとそう思った。


このまま部屋で孤独を肴に紫煙を呑むくらいならひとりである事は変わらずとも、街頭やビル、月の薄明かりのある外の方がましな気がした。


12月の冷えて清んだ空気の中、白い息を吐きながら安物ながらも気に入っている上着を羽織り、玄関の鍵を閉める。


コンビニや、住宅の灯りが世界に自分以外の人が存在することを確かめさせてくれるようで、布団の中にいた時よりも暖かく感じた。


明日も仕事があるし、暖かい飲み物でも買って、もう帰ろう。


そう思えた。


コンビニに入ると、どうやら先客がいたようで、チラリと見た限りでは20代に見えるカップルがアルコールの並んだ棚を眺めながら楽しそうに会話をしていた。


「もぉ〜これ以上飲んだら身体に悪いよ〜」


女が甘ったるい声で、男に寄りかかりながらそう言っていたのが聞こえた。


結局、酒を買うのはやめたようで2人は水と黒色の0.01と書かれた小さな箱のみを買って楽しそうなまま出ていった。


カップルの後に並んでいた俺は少し冷えてしまったように感じるコーヒーを無愛想な店員に渡した所で、財布を持ってきていないことに気づいた。

訝しげな表情をする店員に財布を忘れたことを告げ、商品を元の棚に戻して外へ出る。


遠くに先ほどのカップルが歩いているのが見える。

身体に悪いよ......か、果たして俺が死んだ時、それを悲しんでくれる人はいるのだろうか、ふとそんな事を思った。


先程まで少し暖かかったはずの身体と心がまた、冷たくなってしまった気がした。


世界に自分以外の人がどれだけ居ようとも、俺のことなど誰も見ていない、必要とはされていない、仕事は有っても俺がいなくなれば、少しの間忙しくはなるだろうが代わりなどすぐに見つかってまた何も変わらず世界は回るのだろう。


闇の蝶がまた、今度は先ほどよりもしっかりと、ふわりふわり羽ばたき出した。


もう、何も考えたくない気がした。


気づくとぼんやりとした頭で、火のついた煙草を咥え、廃ビルの階段を登っていた。


カタン、カタンッ、ギシッとなる音だけが頭の中を支配していた。


廃ビルの屋上から見る夜景は生活の光や月が出ているにもかかわらず、とても暗く、澱んで見えた。

錆びた鉄柵を乗り越えて下を覗くと先ほどまで嫌っていたはずの闇が俺を呼んでいるように見えて......そのまま吸い込まれるように身体を闇に投げ込んだ。


全てから解き放たれたかのような浮遊感がと共に身体が落下を始める。

今更ながら恐怖を感じ、目を閉じる寸前、暗闇の中を夜闇よりも黒い蝶が舞っていた気がした。


最後までお読みいただきありがとうございました。

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