表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
9/33

9.相席の人

 あの時の森田さんの勝ち誇った顔が忘れられない。きっと彼女は、自分と私の立っている場所が違うということを言いたかったのだろう。

 どういう経緯があって、先生とやり取りするようになったのかはわからない。だけど先生だって、なんとも思っていない相手に教えたりはしないと思う。

 だから、先生にとって森田さんは特別なのかもしれない。


「はぁ……」


 考えれば考えるほど気分が沈んでいく。これでは何のために外へ出てきたのかわからない。

 ちょっと休もう、そう思った私は喫茶店に入ることにした。


──カランカラン


 鐘のついた扉を開けると、珈琲の香りが鼻孔をくすぐった。


「いらっしゃいませ」


 さほど広くない店内を見回すと、席はたくさんの人で埋まっていて座れなさそうだった。


(ついてない……)


 肩を落とす私に店員が声をかけてきた。

  

「申し訳ございません。ただ今混み合っておりまして、相席でもよろしければすぐにご案内させていただきますが、いかがいたしますか?」

「相席……」


 店員が手をむけた方向には、一人分の席が空いていて、相席の人は後ろ姿しか見えなかったが男の人のように思えた。

 『ちょっと後ろ姿が先生に似てる』なんて考える私は、だいぶ重症なのかもしれない。


「相手の方は、相席でも大丈夫なんですか?」


 確認の為にそう聞くと。


「あぁ、大丈夫ですよ。文句は言わせないので」

「……え?」


 店員らしからぬ言葉が聞こえた気がしたけれど、さすがに気のせいだろう。


(特に話すわけではないし、向こうもいいなら気にしなければいいかな)


「じゃあ、お願いします」

「かしこまりました」


 席の近くへ行くと、相席の人に店員が声をかけた。


「席がここしか空いてないんで、相席させてもらいますねー」

「は? ちょ、おい」

「お客様、どうぞ」


(え、なんか大丈夫?)


 明らかに相手の人に許可を得ていない感じだったが、店員に向かいの席へ促され、とりあえず頭を下げて座ることにした。

 気まずさに顔を上げられず、そのままメニュー表に目を通していると、二人のやり取りが耳に入る。


「別に帰ってもいいんですよ?」

「おま、俺来たばっかなんだけど」

「冗談ですよ。珈琲もう一杯サービスしてあげますから、ね」

「……ったく、都合のいい奴だな」


(知り合いなのかな)


 会話を聞いている限り、単なる客と店員の関係ではなさそうだ。それより、なんだか相席の人の声にすごく聞き覚えがある。


(まさかね……)


「つーか、仕事しろ仕事」

「おっと、大変失礼致しました。お客様、ご注文はお決まりでしたか?」

「えっと、カフェオレでおねが……い、し……」


 注文すると同時に顔を上げると、相席の人もこちらを見ていたようで自然と視線が合った。


(え……)


 頭が真っ白になる。


(相席の人って先生だったの!?)

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ