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30.先生しか見えてないと言われて否定はしません

「いらっしゃいませ」


 喫茶店の扉を開けると、前と変わらず珈琲の香りが鼻孔をくすぐる。以前来た時より早い時間だからか、店内は人が少なく空いていた。

 どこへ座ったらいいか悩んでいると、青年の店員が近づいてきた。


「お好きな席へどうぞ」


 私は少し迷って、あまり目立たない一番奥の席を選ぶことにした。


「後から人が来るんですが、奥の席でもいいですか?」

「大丈夫ですよ、ご案内致しますね」

「ありがとうございます」


 席に案内され、ぺこりと頭を下げて椅子に座ると、店員が水の入ったグラスをテーブルに置く。


「ご注文はお連れ様がいらっしゃってからお伺い致しますか?」

「はい、それでお願いします」

「かしこまりました」


(あの店員さん、先生の友達の弟さんだったよね)


 彼があの時先生と相席にしてくれたから、先生に番号を教えてもらえて。返信がなくて落ち込んだりもしたけれど、夏休み中は先生と連絡を取り合えることになったし恋人にもなれたわけで、彼には感謝の気持ちでいっぱいだ。


(だいぶ早く来ちゃったな……)


 時計をみると、待ち合わせの時間までまだ30分もある。


(何から話そうかな)


 昨日、先生と通話を終えてから『話したいことがある』と鈴をこの喫茶店へ誘ったのだが、理由を聞かれることもなく、ふたつ返事で承諾のメッセージが来た。

 先生の『隠しても意味がない』と言っていたこととなにか関係があるのだろうか。


「いらっしゃいませ」

「待ち合わせなんですけど」

「待ち合わせのお客様ですね。どうぞこちらです」


 そんな会話が聞こえて顔を上げると、店員に連れられてやってきた鈴と目が合い、私は小さく手を振る。

 席に座った鈴が、周りを見回して。


「ここ結構いいねー」

「でしょでしょ。私もこの間知ったばかりでさー」


 迷惑にならないように小声で話していると、トレイを片手に店員がきた。


「お話中失礼致します。お水をお持ち致しました。ご注文はお決まりでしたか?」

「あっ、はい。えーと……」


 メニューを見ながら注文して、店員がその場を去った途端、鈴が興奮気味に口を開く。


「店員さんイケメンだよね!」


 どうやら鈴のタイプだったらしい。

 前回来た時は、先生のことがあったから周りを気にする余裕なんてなかったけれど、確かに彼は整った顔をしていて、世間一般的でいう所の美男子だった。


「んー」


(イケメンだとは思うけど、先生の方が……)


「もー、あんなにイケメンなのにその反応?」


 鈴が不満げな表情を浮かべてそう口にすると、続けて今度はにやっと笑いながら言った。


「ま、葵は先生しか見えてないから仕方ないか」

「もー、鈴!」

「あれ? 違った?」

「……否定はしないけど」

「ふふ、だよねぇ」


「お待たせ致しました」


 談笑していると、注文したドリンクが運ばれてきた。テーブルに並べてくれた店員に会釈したあとアイスコーヒーを一口飲み、ひと呼吸おいてから話を切り出す。


「あの……さ、話したいことなんだけど」

「んー? 倉田と付き合うことになったって話?」

「!」


 今まさに言おうとしていたことを逆に鈴の口から聞かされて、驚きを隠せず目を丸くする。


「やっぱりねー。花火大会のときでしょ?」

「うん……でも、どうしてわかったの?」

「いや、あの日先生とさ電話したじゃん」

「そういえば……」

「ね、その電話でさー」


——鈴から聞いた話の内容はこうだった。


『鈴村か? 突然わるいな』

「急に根岸先生に携帯渡されてびっくりしたんですけど、葵がどうどかって」

『七瀬? ああ、ここにいる』

「え? なんで先生と一緒にいるの?」

『足怪我したみたいでよ』

「怪我? あぁー、下駄のせいかぁ……葵に電話かけても全然反応しないし、また忘れたのかなぁ」

『そう、スマホ忘れたらしくて』

「やっぱり……それでこれね。それにしても……こんな大勢の人がいる中で一生徒を見つけるとか並大抵じゃないんだよなぁ。それこそ特別に思ってる相手、とかじゃないと」

『は?』

「葵のことちゃんと送ってってあげてよね! 私は友達と一緒だから大丈夫だし」

『あー……まぁそのつもりだけどよ』

「友達には適当に言っとくから、心配しないで」

『わかった』


 あの時、先生に何を話していたのか聞いたら返事が誤魔化された気がしてたけれど、そういうことだったんだ。確かに正直に話せない。


「前々から先生が葵のこと特別に思っている気はしてたけどさ、この時確信したよね。でも、さすがに私の口から言えることじゃないからさ、どうなるかと思ってはいたけど……話しがあるって葵から言われてそのことだろうなーって」

「そうだったんだ」


 先生が鈴には言っても良い、隠す意味がないって言った訳がわかった。


「でもそうかぁ、付き合うことになったんだぁ……葵、よかったね!」


(鈴はいつも、自分のことのように喜んでくれるんだよね)


「ありがとう、鈴」


 満面の笑みを浮かべてそう口にした。

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