2.どうしてこんなに
(早く行かないと着替える時間なくなっちゃう)
1時間目の授業が体育だった私は、ホームルームが終わるとすぐに体育館へ向かった。
体育館の奥にある"女子更衣室"と書かれた扉を開けると、そこはぶつかり合いながら着替える女子達でいっぱいだった。2クラス合同で授業が行なわれる体育は、普段だと着替えにくるのもバラつきがあるので狭い一室でも余裕があるのだが、1時間目だとそう大差がないので今日みたいに更衣室が戦場と化す。
──キーンコーン
チャイムの音が室内に鳴り響く。
「やばっ! 予鈴なっちゃったよ~」
(まだ着替え終わってないのに)
「はやく行くよー! ほら葵!」
「あっ、うん!」
先に着替え終わった友達に急かされつつ着替えて、本鈴がなる前に更衣室を出る。
まだ先生の姿はなかった。
(間に合った……)
更衣室に残っていた人たちも、私の後を追うようにバタバタとやってくる。
「今日からだっけ?」
「そうそう」
「私、話したことないんだよねー」
「あれ? 去年何組?」
周りが少し騒がしい。
──キーンコーン
本鈴の合図とともに、入り口から一人の男性が入ってきた。
彼の名は、倉田亮介。うちの学校の体育教師である。
「集合!」
先生の一声で皆が一斉に集まり。
「休め!」
「体育委員、号令かけて」
「気をつけ! ……礼っ!」
「お願いします!」
体育委員の号令で、一斉に頭を下げる。
「よし、座れー」
「出席とるぞー!」
今日は高校3年生になってから初めて行う体育だからか、欠席者はいなかった。先生の挨拶があるし、授業内容もきつい運動ではなく、オリエンテーション的なことをやるから、休む人は少ないのだろう。
「えーと、3年CD組の女子の体育をおしえ……」
「3年男子ぃー! 澤口と根岸が教える」
倉田先生の言葉を遮って聞こえてくる大きな声の持ち主は、体育教官の中でも校内一厳しい生活指導の澤口先生だった。
タイミングをみて何度か話そうとチャレンジするも、澤口先生の声でかき消されて全く聞こえない。倉田先生がいらいらしているのが見ていてわかるほどで、その状況がなんだか可笑しくて、つい笑ってしまう。
「やっと喋れる……」
澤口先生の話しが終わった後、溜息混じりに先生が呟く。
「えー、3年CD組の女子教えます。名前は倉田亮介……って、みんな知ってるか……俺が知ってる奴もいるけど知らねぇ奴が殆どだな。まぁ、他の先生と教え方が違ったりする所もあると思うけど、それが俺のやり方なんで……一年間仲良くやりましょう」
──ドクン
少し照れながら笑う先生を見て、鼓動が高鳴る。
(あれ? 私……ドキドキしてる?)
この時はわからなかった。
どうして胸が高鳴ったのか。




