15.最悪な日
ずっと忘れていたのだけれど、先生に怒鳴られて思い出したことがある。
(あれは、いつだっけ……)
確か、高校に入学して間もない頃のことだ。
あの日は、朝からツイてなかった。
──今から二年前
(ほんと最悪……)
目覚まし時計が壊れてて鳴らないし。
私のヨーグルト勝手にお父さん食べちゃうし。
慌てて出てきたからお財布忘れてきたし。
お昼買えないし。
信号無視の車に轢かれそうになって転ぶし。
痛いし。
朝から散々で泣きたい気分だった。
(定期はあったから電車に乗れたけど、完全に遅刻……)
「ねぇ、君」
駅に着いて学校へ向かう途中、後ろで声がした。自分だとは思わなくて気にせず歩いていると、急に腕を掴まれて驚いて振り向くと、スーツ姿の男がいた。
(え、なに? 誰?)
男は私の足に人差し指を向けて。
「膝! 血がでてるよ?」
視線を移すと男がいうとおり、膝から血が出ていた。転んだ時に擦りむいたのだろう。
不思議なもので、先ほどまで全く気にならなかったのに、気づいた途端に痛みだす。
「僕、絆創膏もってるよ」
男がニコニコしながら矢継ぎ早に話しかけてくる。
「消毒もした方がいいよ。ばい菌が入ったら大変だからね。良かったら治療してあげようか? あっちにベンチあるから行こうよ」
「……」
「あれ、なんか疑ってる? 大丈夫、僕すぐそこの病院に勤めてる医師だから」
「お医者さん……」
強引な人だと思ったものの、『医者』という言葉に安心してしまった私は、善意だと信じて疑わず男について行く。
「あー、そういえば切らしてたんだった」
少しした後思い出したかのように男が言った。
「まー、いいか。病院近いし、そっちでいいよね」
「え……」
「駅から少し離れるけど、離れるっていってもすぐそこだし」
「あの……」
「あ、あそこの道通った方が近いからあっち行こう」
こちらの返答なんてお構い無しに腰に手を回されて、人気のない方へ誘導される。
「や……やっぱり、いいです! 早く学校行かないと……」
『怖い』そう思った時には遅かった。逃げようとした私の腕を力強く掴む。
「なんで逃げるの? 治療してあげるって言ってるじゃん。俺ん家すぐそこだからさ」
「家……病院じゃ」
「あー、それ嘘。医者なわけねーじゃん。騙されやすそうな顔してるから適当に言っただけー。ま、恨むんならホイホイついて来た自分を恨むんだな」
男はそう言いながら嘲笑うと、腕を痛いほど引っ張ってきて。
「っ!」
声を出そうとしても、恐怖で言葉がでてこない。
(いや! 誰か、助けて!)
そう思った時──
「葵!」




