12.お礼のメール
夕方帰宅した私は、悩んだ末にメールをすることにした。
(お会計してもらってお礼を言わないのはマナーに欠けているよね、うん)
『学校で言うわけにもいかないから』とそう自分に言い訳して、送る内容を考えること一時間。
【先生、こんばんは
店員さんから先生がお会計してくれたと聞きました
私の分までありがとうございました
今日のことは誰にもいいません
月曜日も指導よろしくお願いします】
打って消してを繰り返して、ようやく送っても大丈夫な文面が出来た。何度か深呼吸をしてから、先生の電話番号宛に送信する。
(突然メールが届いて先生驚くだろうな)
『律儀なやつだな』とあの時みたいに笑うかもしれない。
きっと返事は一言二言の簡単なものだろうけれど、それでも来るのが待ち遠しい。
(まだかなー?)
スマホの通知音が鳴る度に期待して画面を見るが、先生ではなくてガッカリする。
(忙しい時に送っちゃったのかも)
先生にだって都合がある。今はこなくても、待っていればそのうちくるはず。
そう思っていたのだけど──
夜になっても、次の日になっても、先生から返事が来ることはなかった。
自分が送信したメールを見つめて不安に駆られる。
(ウザイって思われたのかもしれない)
たまたま会って、たまたま話しただけなのに『番号教えてほしい』なんて言われて。仕方なく教えたのに、メールまで届いて。
(私、自惚れてたのかも……)
ふと、あの時の先生の困った顔が、鮮明に蘇る。
(ううん、もう少し待てば……きっと)
(もう少し……)
(もう少しだけ……)
わずかな期待を抱いて、返事が来てもすぐわかるように、スマホを両手で握りしめて眠る。
月曜日の朝になっても、先生からの受信はなかった。
『かも』が『絶対』に変わる──
昼休みの練習へは行かなかった。先生に会いたくないから。でも、今日は6時間目に体育がある。
休みたい、でも、休めない。
「葵、つぎ体育だよ! 着替え行こ!」
「…………行きたくない」
「なーに言ってんの! 今週末テストだよ?」
友達に半ば強引に引きずられる形で、しぶしぶ体育館へ向かうことにした。
「おら、出席とるぞー」
「土田ー」
「はい」
「七瀬」
先生に名前を呼ばれて、ドクンと大きく胸が鳴る。
「はい……」
声が震えそうになるのを抑えて、返事をする。出席をとる為に名前を呼ばれただけなのに、息がうまくできない。
先生を見るのが辛くて。
──先生がどんな顔をしてるか知るのが怖い。
目を合わせないように。
──目を逸らされたらもうどうしていいかわからなくなる。
近づかないように。
──これ以上嫌われたくないから。
(少しでも仲良くなろうと頑張ってた私は、どこへ行っちゃったんだろう)
先生を好きになって、臆病な自分を知った。
2024.10.10 メールの文面【⠀】で囲いました




