10.それはまるでデートのようで
『先生と二人でひとつのテーブルに向かい合って座っている』
それはまるでデートのようで、さっきまでの沈んでいた気分を舞い上がらせるには充分すぎるほどだった。
(やばい……嬉しすぎてほんとやばい)
水の入ったグラスに口をつけながら、先生の様子をちらりと伺うと、先生もちょうど珈琲を口にするところで。その様になる姿はもちろん、初めて見る先生の私服姿に見惚れてしまう。
おまけにシャープな黒縁メガネをかけていて、眼鏡姿を見たのも初めてだったがとても似合っていて格好良かった。
そんな先生から目が離せないでいると、カップを受け皿に置く音が聞こえてハッと我に返り、慌てて視線を逸らす。
(見すぎだよ、私のバカ!)
取り繕おうにも、どう話を切り出して良いかわからず困っていると、目の前に淹れたてのカフェオレが差し出された。
「お待たせいたしました、カフェオレでございます」
(きた! 天の助け! 店員さん感謝!)
「ごゆっくりどうぞ」
「ありがとうございます」
会釈を返し、これ幸いにとすぐさま運ばれてきたカフェオレに口をつけた瞬間、舌がピリッと痛みを感じた。
「あつっ!」
とっさに口を手で押さえ眉を顰める。
(私、猫舌だったー)
せめて少しでも冷やそうと水を口にする。
(うぅ、少しマシになった……かな?)
「ふ……くくっ」
向かい側から押し殺したような声が聞こえて視線を移すと、先生が笑っていることに気付いた。
どうやら一部始終見ていたらしく、私は恥ずかしさで顔を赤らめる。
「……くくっ」
(……先生ずっと笑ってるんだけど!)
「先生ってば笑いすぎです」
笑いが堪えきれずに声が漏れている先生を軽く睨みつけながら口を尖らせてみせる。
「悪い悪い……くくっ」
(まだ笑ってる……でも、おかげで緊張が解けたみたい)
「ここ……よくくるのか?」
ようやく笑いが収まった先生が、ひと息ついてそう言った。
「いえ、今日が初めてです。でも、店内のアンティークな雰囲気が素敵だなって思いました」
「だよなぁ! 俺もそこが好きで時々来てる」
「先生の穴場なんですね」
「口うるさい店員はいるけどなー」
「あの店員さんと知り合いなんですか?」
「あぁ、知り合いの弟なんだよアイツ」
「弟……」
「嫌味な所が兄貴そっくりで可愛くねぇんだ」
口ではそんなことを言っていたけれど、優しい顔つきで目を細めて話す先生を見れば、二人のことを大切に思っているんだなとひと目でわかった。
「そういえば、先生って眼鏡だったんですね」
「ん? 休みの日だけなー。眼鏡かけてると授業中は危ないからな」
「あ、確かに」
「七瀬は視力いいのか?」
「2.0です!」
「ふっ」
「なんで笑うんですか!」
「いや別に」
他愛もない話ばかりだったけれど先生との会話はとても楽しく、夢中で話をしていたら、気付けば時計の針が一周していた。




