17.『赤ずきん』
耳にした銃声は6発だったと記憶しています。
最初の2発は、トゴとジェフが持っていた銃器を破壊しました。どういう仕組みで破壊に至ったのかは、私は銃の知識がありませんので判りませんでしたが、銃声と共に、彼らの武器が壊れたことのは理解しました
そして残りの4発は、赤い閃光が走った際に耳に届きました。
瞬時にアリエラさんは男たちに近づき、そして2発ずつ、発砲したのです。
彼らは断末魔を上げること無く、仰向けに倒れました。
「忠告済みだから、手加減無し、よ」
「……お前、何者だ!?」
「二度も言わせないで。通りすがりの回復術師、よ」
彼女は、倒れた二人を横目に、拳銃のマガジンを抜き、新たに懐から取り出したマガジンを充填しました。
一方赤ずきんは、ボルドー様を撃ち抜いた長い砲身の拳銃を、アリエラさんに向けていました。
しかし、彼は撃ちません。いえ、撃てなかったのです。
赤ずきんがなにか行動を起こそうとする度に、アリエラさんが彼を一瞥します。すると、彼はまるで蛇に睨まれた蛙のように、顔を青ざめて動きが鈍るのです。
アリエラさんは、そんな彼を更に揶揄し、挑発しました。
「撃ち合いでもする? 赤ずきんちゃん?」
「……!」
拳銃は手にしてはいるものの、銃口は明後日の方向を向いています。
その姿を見て、赤ずきんが動きました。アリエラさんに照準を合わせ、貫く者の引き金を引きます……いえ、『引いたはず』です。
ですが、その拳銃から発せられた音は、発砲音ではありませんでした。
引き金を引いた瞬間、銃口部分は歪に変形し、貫く者が爆発しました。装填された弾薬が、出口から発射されること無く、内部で炸裂したのです。
これは、トゴとジェフの銃器が爆発したときと同じ現象でした。
「挙銃動作は遅いし、狙いが丸わかり。本当にプロ?」
彼女は、いつの間にか拳銃を水平に構えていました。銃口はまっすぐ赤ずきんを見据えています。銃の先端からは、既に硝煙が立ち上っていました。
「銃口に……撃ち込みやがったのかっ!」
彼がいうには、アリエラさんが放った弾は、相手の拳銃の銃口を、寸分違わず撃ち抜いているのだという。
「バケモノ……めっ!」
「はいダメー」
赤ずきんが動きを見せるごとに、アリエラさんの弾丸が彼を翻弄します。
彼が隠し持っていたエマルの拳銃は、遠くに弾かれました。
「う……おおおおおっ!!」
すると彼は、積まれていた武器の山に駆け出しました。
武器がなくなり、気が焦ったのでしょうか。実質的に丸腰で、移動中は、アリエラさんの格好の的になります。
ですが、彼女は銃を下げ、彼の動きを眺めていました。
彼は、巨大なライフル銃を手に取りました。先程持っていた拳銃よりもさらに砲身が長く、素人目に見ても、威力はケタ違いなことが感じ取れました。
彼は、なにか考えがあってその武器を取ったのでしょうか。ただ単に、一番近い武器を拾っただけかも知れません。
「うおおおおおお……? お?」
「えっ」
彼は巨大な砲身を振りかぶりながら、アリエラさんのほうを向きますが、既に彼女はいませんでした。
彼も、そして私も、彼女を完全に見失ったのです。
「ど、どこ行きやかった!!」
「……!!」
私は彼女の存在に気が付きました。
アリエラさんは既に、彼の背後に回り込んでいたのです。
恐ろしいほどの早業でした。そして既に、彼の首には銃口が押し付けられていました。
「全く勉強不足ね、赤ずきんちゃん?」
「おまあえああああああああ!!!」
またしてもアリエラさんに揶揄された男は、明らかに取り乱し、銃口を振り回しました。
すぐさま振り返るも、彼女はそれと同じ速度で、彼の背中に回り込みます。
未だ彼女の拳銃は、彼の首から外れません。
「……初めて銃を握ったのが、6つの時」
すると、彼女が突然、語り始めました。誰に聞かせるというわけでもなく、声量も小さく。独り言のような喋り方でした。
「うおいあああああ!!」
くるくると、彼女を捕らえようと彼は激しく回ります。
銃口をなんとしてもアリエラさんに向けようとするのですが、如何せん、長く重いライフル銃では、これほど密接されていると物理的に難しいようでした。
「戦争のために訓練受けて。それこそ死ぬ気で生き抜いて、さ」
「おあああああ!! ……あがっ!!!」
急に、男の叫び声が止まりました。その際に、なんとも情けない声が漏れ出しました。
彼の口には、アリエラさんが握る拳銃の銃口が、押し込まれていました。
「ついでだから教えてあげる。彼女……赤ずきんが初めて手を汚したのは……」
「はがああああああああ!」
最初の威勢はとっくに逸し、彼は今や、涙で顔が濡れ、鼻水を垂らし、失禁もしていました。
「7歳の誕生日だったそうよ。素敵でしょ?」




