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14.罪人の証

「アークロンは、アウラ紛争時の武器商人さ。紛争地区で武器を売り捌き、さらに私設軍隊で戦場を混乱させたんだ」

「そ、んな……」

「でも紛争後、突如行方不明になった。大量の武器と一緒に……なっ!」


 そう言って彼は、私の髪を強く引っ張り、放り投げます。


「きゃあっ!」

 私は強く床に叩きつけられました。すると、ノックスの部下の二人が、私に近づいてきます。その目は、飢えた獣そのものでした。目が血走り、鼻息は荒くなっていました。


「お頭ぁ! この女、ホントに食っちまっていいのか?!」

 私は、悲しいことにその言葉の意味を直ぐに理解しました。恐怖に顔が歪み、体が硬直します。口はこわばり、悲鳴すら上げられません。


「うーん……処女の修道女は高く売れるんだよなぁ」

 腕組みをしながら、ノックスは答えました。理由は酷いものでしたが、男どもが手を止めます。私は情けないながらも一時の安堵を得ましたが、しかしそれは誤りでした。


「けど、おめーらも貯まってんだろ? 味見していいぜ」

 彼のその言葉を引き金に、ギラついた目の男たちが改めて私に群がります。腕っぷしが自慢の荒くれには、私の抵抗など全く無意味でした。


「やめてぇえええええっ!」

 必死の叫び虚しく、私の修道服は、剛腕によって容易に引き裂かれました。両腕は押さえられ、あっという間に上半身が露わになります。


「ん……お頭っ!」

「まじか! こりゃ傑作だな!」

 そしてついに、私がひた隠しにしていた部分が露見します。

 夏でも長袖を着て、肌の露出を極力避けていたのは、『これ』を隠すためでもありました。


 首の後ろから左肩にかけて、私の肌には入墨と焼印の跡があります。特異な文様で描かれたそれらは──罪人の証です。


 知識のある人であれば、その絵柄を見れば、私が何の罪を背負っているか一目瞭然です。


「おまえ、売春と殺人か!! そんな体で修道女たぁ! そりゃ女神に祝福されねぇわ!!」

 がっはっはっと、ノックスが両手を叩きながら哄笑していました。



 ***



 紛争で、私は家族と住まいと故郷を失いました。

 14歳という年齢ではありましたが、中流家庭の生まれの私は未だ、働く術を知りませんでした。

 結局私は、生きるために体を売りました。そして、何人かの客を取りました。


 悪いことだとわかっていたので、次の客で辞めようと思っていた矢先、その客に殺されそうになりました。その客は、売春婦を猟奇的に殺し回っていた殺人鬼でした。


 その男は私の首を締めました。必死に私は抵抗したのち、彼の懐に仕舞われていた拳銃(ハンドガン)を手に取っていました。

 当時、拳銃など扱ったことはありませんでしたが、その時は死にたくないという思いで、無我夢中で引き金を引いたのです。


 そして、次に私が目覚めたときには、手には銃を握り、目の前には……。



 ***



「いゃぁぁぁぁぁぁぁあぁぁぁっ!!!」


 あのときの感覚がフラッシュバックします。

 銃の発砲音、浴びた返り血、鉄と火薬の臭い、冷たくなった男の姿……。


 拳銃(ハンドガン)を目の当たりにすると、男の魔手が迫る錯覚を覚えます。怯え、何もできないままで首を締められた感覚……と同時に、男を殺したときの感覚を思い出し、罪悪感に苛まれ心が押しつぶされそうになります。


「……ったく。中古の売女と知ってたら、加減なんてしなかったぜ」

 先程まで笑っていたノックスが、今度は仏頂面で吐き捨てました。思っていた商品とは異なっていたことが腹立たしいようです。


「お頭、じゃあ存分に頂いちまっても?」

「ああ構わねぇ。興が削がれた」


 再度、私の体に男どもの手が伸びます。私のメンタルはすでに壊れ、ただ恐怖に慄き肩を震わせ小さく縮こまっていました。

 すでに半ば、自分を護ることすら諦めておりました。


 その時です。


「やめろ!! サラサ姉様から手を離せっ!!!」


 エマルが現れました。どうやら居室の通用口の影に隠れていて、こちらを伺っていたようです。

 彼女の手には拳銃(ハンドガン)が握られ、彼女の目と銃口は、私を襲う男たちに向けられていました。


「エマル……っ!! ダメ逃げ……」


 身も心もボロボロで、生きることも放棄する寸前でしたが、エマルの姿を今一度目の当たりにし、なんとか彼女とルノだけでも助けられないか。という思いが再燃しました。


 彼女たち(エマルとルノ)が助かるなら、私の身体も命も、彼らに捧げよう。

 その心づもりでした。


 しかし私の懇願は、銃声によってかき消されることになります。


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