凱旋
セリオンはテンペルに帰還した。
それもただ帰ってきたわけではない。
竜殺しの英雄・ドラゴンスレイヤーとして帰ってきたのだ。
セリオンはテンペルの聖堂で熱烈な歓迎を受けた。
「セリオン、待ってたぜ!」
「アリオン!」
アリオン・フライツ(Arion Freiz)は15歳の少年。
赤毛で、髪をおさげにして垂らいしている。
「やっぱり、セリオンはすごいや! なんたってあの暴竜ファーブニルを倒してしまったんだから! セリオンは『英雄』だ!」
セリオンにとってアリオンは弟のような存在だった。
「お兄ちゃーん! おかえりー!」
「お兄ちゃん、おかえりなさい!」
そこに二人の修道女が現れた。
シエル(Siel)とノエル(Noel)である。
二人はセリオンを兄のように慕っていた。
二人は12歳。
シエルの髪は長めのポニーテールで、ノエルの髪は短めのポニーテールだった。
二人は実の姉妹のように仲が良い。
シエルはヴェルテ共和国の、ノエルはノヴァ―ル王国の出身だ。
二人は共にセリオンと出会い、ツヴェーデンにやって来た。
セリオンは二人の頭をなでた。
二人はセリオンに抱きついてくる。
「ははは、ずいぶんと歓迎されているようだな、セリオン?」
「アンシャル……俺はファーブニルを倒した。やはり決め手は雷だった。そのほかの攻撃では傷をつけるのがやっとだった」
「そうか。おまえを派遣して正解だったな。
それにしてもファーブニルの体はダイヤモンドのごとく硬いと言われていた。それを傷つけることができただけでおまえは十分強い」
「若き狼よ、よくやった。私はおまえの代父として、誇りに思う!」
スルト団長がわざわざ聖堂まで出向いてくれた。
「セリオン、これもおまえの誉れだ。おまえの名誉に新しい一ページが追加されたな」
「きっと、スルトと修業したのが生きたのさ。俺一人だけの力じゃない」
「そういえば、ディオドラとは会ったか?」
とアンシャル。
「いや、まだ会っていない」
「そうか。彼女は祈っている。おまえの無事をな。行くがいい、セリオン。若き狼よ」
セリオンは聖堂の祭壇にやって来た。
ディオドラは修道服――白い襟もとに青い上衣とスカート、黒いタイツ、長い金髪を三つ編みにしている。
「母さん!」
「まあ、セリオン! 無事に帰ってこれたのね」
そういうとディオドラは涙を出してしまった。
「母さん……俺が無事に帰って来たのに、どうして泣くんだ?」
「だって……あなたが狂暴なドラゴンと戦うと聞いて、あなたが生きて帰って来れるか心配だったのよ。私はあなたを産んだことを誇りに思うわ」
「俺もありがとう、母さん。俺を産みかつ、育ててくれて」
「エスカローネちゃんには会ったの?」
「いや、まだだ」
「エスカローネちゃんなら礼拝堂の方にいるわ。私と同じように神に祈っているから……」
「わかった」
セリオンは礼拝堂へと向かった。
「エスカローネ!」
「セリオン!」
エスカローネはひざまずいて祈っていた。
「セリオン、無事に帰れたのね!」
エスカローネはセリオンの胸に跳び込んだ。
セリオンはエスカローネの柔らかい体を感じる。
「俺は英雄になった。暴竜ファーブニルを倒したからだ。恐ろしい戦いだったよ」
「あなたがそういうなんて、よほど激しい戦いだったのね。でもよかった。セリオンが私のもとに帰ってきてくれて」
「エスカローネ、愛してる。Ich liebe dich.」
「セリオン、私も愛してる。Ich liebe dich auch.」
二人は唇を重ねた。