盗賊
ツヴェーデンには列車が線路によって全土に運行されている。
シュヴェーデ――ツヴェーデン共和国の首都――シュヴェーデ中央駅からはまずはリヒテンシュタイン(Liechtenstein)州の州都ファドゥーツ(Vaduz)まで列車で向かう。
ファドゥーツについてから、セリオンがまずやったことは、野生のヘルハウンドの討伐だった。
野生の魔物が地震で崩壊した城壁から侵入してきたようだ。
さっそくセリオンは大剣で――普段は神剣とは呼ばず、大剣と呼ぶ――で、ヘルハウンドの群れを駆逐した。
ヘルハウンドがセリオンに接近してかみつこうとしてくる。
セリオンは大剣でヘルハウンドを屠っていった。
セリオンにとってヘルハウンドはザコにすぎなかった。
しかし、普通の人々にはそうではない。
ヘルハウンドは一般市民には十分脅威となるモンスターだった。
セリオンは五分程度でヘルハウンドの群れを駆逐した。
「おお、すばらしい! すみませんが、あなたの力を貸してもらえないでしょうか……?」
そこに商人と思われる男がやって来た。
「? 俺は先を急いでいるんだが……」
「お願いです! 私の話を聞いてください! 私の娘が誘拐されてしまったのです!」
「誘拐?」
「はい!」
「まあいい、話しを聞こう」
「ありがとうございます!」
その人の話では一人娘のヘルミーネ(Hermine)が誘拐されて身代金を要求されているとのこと。
この盗賊団は娘を本気で返すか疑わしいとのこと。
この盗賊たちを倒して、そして娘のヘルミーネを助け出してくれないかと依頼主のボニファーツ(Bonifaz)は言った。
盗賊のアジトにて。
「へっへっへ! それにしてもいい儲け話だぜ!」
「大商人の娘を人質にとるなんてさすがアニキ!」
「おう、そうよ。この娘からいくらせしめられるかな? まさに金の卵を産むめんどりだぜ」
「んんん!? んー!」
「おや、どうやらお嬢様が目を覚ましたらしいな」
男は隣の部屋に行った。
そこではヘルミーネが縄で縛られ、さるぐつわをはめられていた。
ヘルミーネは男たちをにらみつける。
「おー、怖い、怖い。だけれど今のおまえさんには何もできんよ」
男が足でヘルミーネを踏みつける。
ヘルミーネは目で抗議した。
男は足でヘルミーネを蹴りつけた。
「んん!?」
「お嬢ちゃん、そんな目でにらむなよ。おっかねーお嬢様にはしつけが必要だぜ!」
ヘルミーネの年齢は10歳ほどだった。
「さて、野郎ども! ボニファティウス(Bonifatius)商会のカネが入ってくれば、しばらくは働かなくてもやっていけるぜ。ボニファティウス商会っていったらファドゥーツ一の商会だからな」
「アニキ! 酒を飲みましょう!」
「そうだな! 前祝いといこうじゃねえか!」
盗賊団のアジトが酒で活気づいた。
セリオンはボニファーツの邸宅に案内された。
「これは……すごいな……こんなに大きい家があるのか……」
「客人のためにお茶を用意してくれ」
「かしこまりました」
命令を受けたのはメイドである。
シベリウス教はビジネスにも肯定的な宗教だが、ここまでの豪邸はセリオンには見たことはなかった。
「だんな様、お手紙が来ております」
「手紙?」
ボニファーツは手紙に目を通した。
ヘルミーネ嬢は我々が預かった。
返してほしくば身代金を支払え。
なお、カネの受け渡し場所はほかの手紙で指定する。
そう書かれていた。
ボニファーツは手紙を怒りで握りしめた。
「おのれ! 盗賊どもめ! 絶対に許さんぞ!」
その後、盗賊たちは次の手紙を出してきた。
そこにはボニファーツ会長自らが身代金を持って倉庫にまで来るようにと書かれていた。
条件は一人で来ること。
ボニファーツ会長はカネが入ったケースを持って倉庫を訪れた。
しばらく一人で時間が過ぎる。
とそこに男が一人現れた。
「どうやら、あんたしかいないようだな? 官憲にチクったりしていないだろうなあ? もっともそうしていたらかわいいヘルミーネちゃんが傷つくことになるんだが」
「娘はどうした!? 食事は食べさせているのか!?」
「へへっ! まずはカネの確認をさせてもらうぜ?」
男はケースを開けた。
「うおおおお!? なんてすげーんだ! こんな大金よく用意できんな! さて、確認するぜ?」
男はカネを確認し始めた。
「よし、確かに合っているな」
「おい! カネは渡したんだ! 早く娘を返せ!」
「そんなにはやるなよ! お嬢様は丁重に安全に取り扱っているぜ。カネをボスに渡したら返してやるよ」
セリオンはこの男を尾行した。
男は森に入り、その中の一軒家にたどり着いた。
「おー、ギル。よく戻って来たな。で、カネの方はどうなんだ?」
「へい、確かに確認いたしやした」
「よし、クックック! あのお嬢様は売り払ってカネにするか! ハハハ! 盗賊がわざわざ人質を返すと思っているのかねえ! とんだ、お花畑思想だぜ!」
「失礼する」
「!? 何だ、てめーは!?」
「どこからやって来たー!?」
小屋の中にセリオンが入った。
「俺はヘルミーネを救出に来た。ゆえあっておまえたちを斬る」
セリオンは大剣で盗賊たちを斬った。
殺しはしない。
官憲に引き渡すためだった。
セリオンの剣が舞う。
セリオンの剣は力強さと美しさの双方を兼ね備えていた。
「ギャアアアアアアア!?」
「アニキー!?」
「グアアアアアア!?」
盗賊たちが悲鳴を上げる。
そこで物音がした。
「ん? 誰かいるのか?」
セリオンがそちらを向いた。
そこにはうずくまったヘルミーネがいた。
セリオンは縄を大剣で斬った。
「君がヘルミーネか?」
「はい、あの、どちらさまでしょうか?」
「俺か? 俺はセリオン。セリオン・シベルスク。君はヘルミーネか?」
「はい、そうです」
「俺は君の父ボニファーツ会長に雇われた騎士だ。君を助けに来た。さあ、家に帰ろう」
セリオンはボニファーツのもとにヘルミーネを連れて行った。
「お父様!」
「ヘルミーネ!」
「ちょっ、お父様、苦しいです!」
ボニファーツは、娘をいとおしく抱きしめる。
そのあまり力を入れすぎていることにボニファーツは気づいていない。
ヘルミーネは苦しそうだった。
「セリオンさん、あなたには感謝してもしきれません! 娘と再会できたのもあなたのおかげです。どうかこれを受け取ってください!」
セリオンは小切手を渡された。
そこには莫大な額が示されていた。
「!? いいのか、こんなにもらって? 傭兵料ならもっと少なくていいが?」
「いいんです。受け取ってください。私は娘と離れ離れになることで、ようやく家族の、子供の大切さが身に染みたと思います」
「わかった。これは受け取っておく。では、さよならだ」
セリオンは去っていこうとした。
「セリオンさーん! ありがとー!」
セリオンは口元を緩めると、自分の行動に納得して去っていった。