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三題噺もどき2

タイムカプセル

作者: 狐彪

三題噺もどき―にひゃくじゅうろく。

 


 今年ももう、終わりを告げる。

 一年のおわりというのは、虚無感というかなんというか。よくわからない、ぐちゃぐちゃとした感情に襲われることがある。

 寂しいわけでもない。虚しいわけでも。悲しいわけでもない。嬉しいなんてことも、楽しいなんてこともない。

「……」

 ただ、ここまで、一年の間。

 走ったり、歩いたり、止まったりとしたけれど。

 それが、さて。正しかったかと考え始めると。

「……」

 そうでもないなぁ…と思ってしまって。

 それでも戻ることができるわけでもないからなぁと、諦めてみたり。

 いや、でも、と。粘ってみたり。

「……」

 それで最後には、全部が。

 無意味だったように思ってしまって。

「……」

 しかし正直に言うと、年末って案外そういう、感傷とかに浸っている間はないんだろうなぁと。仕事納めだとか、年明けの仕事の準備だとか、なんだかんだと追われているのだろう。

「……」

 それはまぁ、仕事をしている大人たちの特権なので。

 未だ、ありがたいことに学生をしている身としては、年末ぐらい楽しい気分で迎えたいところではある。

 それでも、それができないあたり。なんというか。

 よくない性格を持ってしまったなぁと、思わなくもないのだ。

「……」

 あぁ、しかし。

 年明けの楽しみがないわけでもないのか。

 ものすごく楽しみかと、言われてしまえばそうでもないのだが。

 なにせ、あまり公に言えるようなものでもないし。学校を卒業し、その学校の生徒というものから離れて何年か経っているから言えることであって。

 それでも、年末のもやもやを、忘れてもいいかと思えるぐらいには、楽しみだ。

「……」

 これは、成人という立場にある身の特権だ。

「……」

 成人といえばまぁ、そういう式やら会やらがあるのだが。

 その辺は正直どうでもいいのだ。というか、もう、参加したくないぐらいだったりする。

 あの頃の思い出に、いいものなんて一つもないし。ほとんど嫌なものばかりだし。そもそも、メンバーがすでにダメなのだ。数人は仲のいいのはいるが。彼ら彼女らが、来るかは知らない。連絡でも取れればいいのだが、そもそも連絡先を知らないし。興味ない。

 そいう人間関係の築き方をしてきたから、仕方ないし。それでいいのだけれど。

「……」

 話がそれた。

 ―では何が楽しみなのか。過去の馴染みに会う事ではなく。何が。

「……」

 まぁ、全ての人がそれを経験しているかは定かではないが。

 大抵の人はやったことがあるであろう。

 思い出を埋めて、数年後に掘り起こすというやつだ。

「……」

 まぁ、楽しみというのも。

 タイムカプセルを開けるというのが、そうであるという事だ。

「……」

 何をいれたか、全く覚えていないが。むしろ入れただろうか…。

 ―まぁ、それはクラスの人間と作ったやつの話で。

「……」

 本来の目的のタイムカプセルは別にあって。

 そちらには、何を入れたか。

 ―二人の写真とか。手紙とか。お揃いのキーホルダーとか。そんなのだったはずだ。

「……」

 こんな年でいう事でもないが。

 あれは、若気のいたりというか。なんというか。気恥ずかしいし、あの人に迷惑をかけたなぁと思って。

「……」

 それでも、あの頃の。この思い出は、いいものだと思えるのも確かなもので。

「……」

 臭いことをいうようで、あれなのだが。

 あの日々の、ときめきとか、胸のドキドキとか。秘密を共有していた楽しさとか。嬉しさとか。

 そいうのを、教えてくれたのはあの人だし。

 あの日々は確かにあったのだから。今でも思い出すほどに。鮮明に。

「……」

 放課後、皆には内緒で、保健室に通っていたことも。

 隠れてお揃いのキーホルダーをつけていたことも。

 こっそり、寝顔を撮ったりしていたことも。

「……」

 学校生活最後の日。

 きちんと別れをしたことも。

 ―今となっては、いい思い出だ。

「……」

 大人なのに、コーヒーが苦手で。

 保健室の先生なのに、ピアノが得意で。

 あんな、幼い私に付き合って、恋愛ごっこをしてくれた。

 優しい人。

「……」

 もう、あの学校にはいないだろうし。

 こんな、一生徒との恋愛ごっこをしたことなんて忘れているだろうから。

「……」

 あの人との、思い出を。

 埋めた、あのタイムカプセルを。



 お題:コーヒー・ピアノ・タイムカプセル

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