幕間『御子柴さくらと谷町みい子のマ◯クラ奮闘記 〜場の雰囲気に流されることは往々にして不可避の必然ではあるが、さすがにこれはどうかというお話〜』
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これで何度目の挑戦になるのだろうか……?
死んだ魚のような眼をした少女は、水面に映る自分の姿と格闘するスタイリッシュな女性を憂鬱に眺め、またもや同じ質問を繰り返すのだった。
「どうだ、そろそろ満足したか?」
「まだ、まだちょっと気になる。上はいいんだけど下がねぇ……今度は膝上まで詰めてみてよ」
そしてまたしてもリメイクとなり、少女はの眼はますます濁る。
ことの発端は二日前。この世界に囚われて三日目の朝に、とある理由によって過酷なミッションを課された少女は方々を駆けずり回り、高難度の実績解除に挑まされることになった。
いわく、気難しい相方を満足させる革防具一式を完成させろ、という無理難題である。
素材を集め、製作と試着を繰り返すことこれで二日目。すっかり疲れ切った少女はそこでふと気がつく。
「これさぁ、ここまで来たらもう本人にやってもらったほうが良くね?」
「そうかも……ええと完成品をイメージすることが重要なんだっけ?」
「そうだね。ほらよ、素材な」
サンキューと気軽に受け取った相方が作業台で革のズボンを完成させ、黒い染料で満たした大釜に沈める。
そうして注文者本人の手によって完成させられた革のズボン(スパッツ仕様・白のフリル付き)は、これまでのものと似たり寄ったりの完成度だった。
少なくともこれまで何回も作り直した少女の目にはそう映ったが、それを手にした気難しい女性にはまた異なる感想があったようだ。
「いいじゃんいいじゃん! ツヤのほうも申し分ないし,フリルも可愛いぃ〜! こんなに素敵なスパッツを作れるなんて、やっぱりみぃちゃんは天才だね!?」
「……そうだな。お前は間違いなく天才だよ、谷町」
どちらかっていうと紙一重のほうのな、という後半部分は怖くて口にしなかったが、喜色満面の相方がさっそく試着すると実績の解除にともなう効果音が聞こえたような気がして、精神的に疲労困憊の少女はしみじみと息を吐きだすのだった。
「うーん、合わせてみたら上着も悪くないわね。フリルもおしゃれだし、色も落ち着いてるしね。ただブーツの靴紐は茶色がいいけど、たしか茶色の染料は遠くに行かないと手に入らないんだっけ? だったら仕方ないし、贅沢を言ったらキリがないから、まあ、こんなものかな……」
合格点をもらえたことに感謝するような筋合いではないが、それでもようやく不毛な時間が終わってくれたと考えれば、安堵してしまうのは仕方のないことだ。
まったく何がこんなものなんだかと、眉間のシワが取れない少女──御子柴さくらは間違っても聞かれないように胸中でぼやいた。
不手際で服を全ロスした相方のために、持ち合わせの素材を使って革防具一式を作ってやったというのに、やれ「デザインが気に入らない」だの、やれ「茶色がダサイ」だの文句ばかり言いやがって。
挙げ句の果てに「革なら黒でしょ。黒がいいの」と手持ちの材料ではどうにもならない注文を付けてくるものだから、まだ拠点周辺の探索も終わってないのに海を探してイカ墨を集めることになってしまった。
本当に誰がそこら中を駆けずり回って苦労してきたと思ってるんだコイツは……感謝してるんだったら胸くらい揉ませろっていうんだ。
まあ、そんな上等なものは持ち合わせちゃいないだろうがなと鼻息を荒げたところで振り向かれて、思わずドキリとする。
この相方はアイドルを目指していると言うだけあって見た目だけはいい。そんな女に微笑みかけられたら心臓に悪い。
「ま、それはともかくありがとうね。おかげでみぃちゃん助かっちゃった。さくらも大変だったでしょ?」
「まぁさくらはね、このゲームのプロだから、別に大変ってほどでもなかったな」
直前まで不満で一杯だったのに、笑顔一つでこの始末とは……我ながらチョロイなと、御子柴さくらはいつもの仏頂面を保つのに苦労する。
まあ途中できのこが生い茂る洞窟も発見できたわけだし、ついでに鉄鉱石も回収できたわけなんだから、まるきり徒労でもない。
水辺を探索したことで今後の取引で必要になるサトウキビも見つかった。他にも色々と思うところはあるけれども、いつかこの記憶も美しい思い出として消化することができるだろう。
そんな相方の内心にも気づかず、水面に映る自分の姿を満足するまで確認した谷町みい子は、黒革の上着をスカートのように延長した長めの裾を翻し、膝上で切り落としたズボンを見せながら振り返った。
「それでさくら、今日はどうするの?」
その姿を「なんかエッチだ」と思いながらも、口に出さずに「どうしようか?」と曖昧に濁した御子柴さくらは、しばし脳内でこれからの手順を検討するのだった。
自分たちの最終的な目的は、この世界のラスボス──終焉の世界に君臨する暗黒龍の討伐であることに間違いはないが、そこまで到達するルートは大きく分けて二つに絞られる。
つまりは最短か、もしくは万全か。自分一人なら迷わず前者を選択するが、その強行軍に相方がついて来れるか──こればかりは初心者の視点をとうに喪失した自分には判断がつかない。
「これからどうするかはお前が決めろ。すべては谷町、お前次第なんだ」
よって選択肢を委ねる。それは責任回避ではなく、最善を求めての思考。いつになく真剣そうな表情に、谷町みい子は相方を茶化さず言葉の意味を吟味した。
「私次第……それって初心者の私にもできそうなプランを選べってこと?」
「そうだ。さくらのような経験者だけなら、あとは鉄とダイヤを掘って、最強装備を揃えたらラスボスに突撃する。これでまず間違いなく勝てるが、谷町のような初心者にそんなRTA紛いの強行策を提示するのは酷だろう。勝てることは勝てる。だがそのとき、谷町がさくらと同じところに立っている保証はなく……最悪の場合、ラスボスを倒したさくらだけ元の世界に戻され、谷町だけこの世界に残されることもあり得る。それは避けたい」
「さくら……うん、ありがとう」
「よって、さくらとしては時間をかけても拠点を整備して、失敗してもリカバリーの効く万全策を推したいが、谷町はどうだ」
「……うん。みぃちゃんもそっちがいいと思う。迷惑だと思うけどよろしくお願いします、さくら」
「別に迷惑じゃないぞ。経験者が初心者に教えるのは当然のことだ。そうして裾野を広げることに失敗したジャンルは衰退する。他人事じゃない」
これでも社畜ネキほどじゃないが、結構なオタクを自認しているのだ。単純にオタク知識を披露するのが楽しいこともあるし、排他的なジャンルがどんどん衰退していくのを見てきた業界人としての戒めもある。
でもそれ以上に、自分とは生きる世界が異なるこの女性がオタクの戯言と馬鹿にせず、自分の意見を真摯に受け止めてくれたことが嬉しかったのもあるのだ。
他人に頼られ、意見を求められることがこんなに嬉しいことだとは知らなかった。だから自分は気難しい相方に振り回されても好きでこうしているわけだが、そうしたオタク心理に詳しくない目の前の女性に説明するのはさすがに照れくさかった。
御子柴さくらはそう思い、いまや運命共同体でもある谷町みい子に配慮したつもりだったが、一番大事なことを説明しなかったことが今後どう転ぶか……。
「よし、それじゃあ途中で色々見つけてきたから、まずは畑を作るぞ。谷町も手伝ってくれ」
「はぁーい、みぃちゃん頑張るからねぇー」
そうしてマイクラ五日目にして、二日ぶりの共同作業での拠点開発となったが、これが思った以上に楽しかった。
「バケツができたぞ。これで水を汲んで水源を作るから、周囲4マスを耕してくれ。種は海を探してるときに幾つか確保してある。成長して麦ができたらパンが作れるぞ。気合い入れろよ」
「わぁーい! パンだパンだぁ!!」
「サトウキビは水源と水流の周囲1マスにしか植えられないから整地が重要だ。紙はあとで大量に使うし、砂糖は甘いぞ。頑張れよ」
「イェーイ! みぃちゃん頑張るぞぉ!!」
「木材は変わらず大量に使うから木こりも重要だ。木を伐採したらその跡に苗木を植えるのを忘れるなよ。ハゲ山になるぞ」
「えーっ? また髪の話してるぅ……」
「種が余ったから、これでアヒルを集めてくる! 谷町は木の柵で囲いを作ってくれ。出入り口は木のゲートだ。これで毎日焼き鳥だぞ!!」
「ぃやったぁー! みぃちゃん焼き鳥大好き!!」
「草が黄色くなったら収穫だ。麦ができたら牛と羊の餌にもなるから集めよう」
「いいねいいね、どんどん生活水準が上がってきた。道具も木から石に切り替えるんだっけ?」
「うん。このゲーム武器は斧が一番強いし、原木を集めるのにも使うから多めに作っていいよ。ツルハシも後で大量に使うからチェストに保管な」
「よーし、夜になったらモンスターを探して試し斬りしようぜー!」
そんな農業生活を一週間ほど続けると、拠点の周囲には麦とサトウキビが生い茂り、柵に囲まれた家畜用のスペースにはしゅば……アヒルが10匹、牛と豚が計8頭、羊が6頭を数えるまでに発展した。
「おっ、いいねいいね羊たん。モリモリ草を食べて毛を刈らせてくれ。ハイチョッキンと」
自宅のお豆腐ハウスも11×9の二階建てになり、保管庫であるチェストには大量の木材、木炭、松明に加えて、肉とウールの確保も始まっている。無論、周囲の湧き潰しも順調で、夜間の安全まで確保するに至った。
「ねぇーさくらぁー! パンを作るのもやっぱり作業台なのぉー?」
「おう、もちろんケーキを作るのも作業台だし、あやしいシチューを作るのも作業台だぞ」
「あー、ツッコミてぇー! この世界の作業台はどうなってんだぁー!!」
そうだ、楽しいのだ。この意外にもノリが良く、あっけらかんとした笑顔で初めてのマイクラを楽しんでくれている谷町みい子との共同生活は……。
「まあ、ゲームのシステムに依存したものは仕方ないよ。そういうものだと割り切るしかないけど、まったく融通が利かないわけでもないから」
例えばあやしいシチューの材料にもなる木のボウルだが、製作時に完成品をイメージすることでコップ型のボウルなども作れたのがこれに当たる。おかげで箸型やスプーン型の木の棒などもクラフト可能で、これにより手掴み上等の野蛮人を卒業して文明人に戻ることができた。
他にもマイクラでは作れないはずの衣服も、ウールを材料にした旗の製作にイメージを割り込ませることで、Tシャツ型や寝巻き型、下着型の旗を流用することで確保でき、谷町みい子がこだわり抜いた黒革の防具一式もこれを悪用したものだ。
ゲーム的な処理に関してもそれだから、ゲームではなく現実の作業を持ち込むことも可能だ。これに関しては、マイクラの常識では水入りバケツをかまどで熱してもお湯入りバケツにならないが、焚き火の上にぶら下げて加熱すればきちんとお湯になる。
その所為で丸石の階段を組み合わせたお風呂まで作らされてしまった。この世界にログインしてからずっと着ている服はいかなる蛮用にも決して破れず、汚れる気配すらないし、身体のほうも痒くなったり臭くなったりしないのだから不要と思うが……綺麗好きな相方が風呂をサボると口を利いてくれないのだから仕方ない。
「あーっ、焼き鳥サンド美味しいー! 空きっ腹に染み渡るぅー!!」
そうして焚き火の前に木の階段を組み合わせた食卓で、足をバタバタさせながらサンドパンを搔っ食らう相方の性格が、どんどん変化することを不思議に思った。
「行儀悪いぞ谷町。今日はケーキもあるんだからもう少し上品にしろ。ほらよ、牛乳だ。注文通り砂糖入りのホットミルクだぞ。感謝しろよ」
「はぁーい、ファイン、センキュー、エンデュー」
包丁型のハサミ(二つに分解済み)を使って切り分けたケーキを、平べったいボールに移して渡してやっても、返ってくるのは「わぁーい、みぃちゃんケーキ大好きぃ」という能天気な声だけだ。
さっそく口をつけたケーキも秒でペロリ。もっともっとと駄々をこねる姿に唖然としつつも訊いてみる。
「谷町さんや……アンタ性格が変わりすぎじゃないですかね?」
この変化が何によるものか想像もつかない。自分の知るかぎり谷町みい子という女性はもっと毅然としており、怒りの沸点がやたら低く、ちょっとした冗談のつもりでも一線を越えれば容赦しない、そんなイメージがあったように思う。
もっとも、アーニャたんの前では借りてきた猫だけどな。御子柴さくらはそうした変化を疎ましく思っていたわけではないが、理由が分からず戸惑っていた。
「んー、そんなこと言われてもねぇ……」
一方で二つ目のケーキを完食した谷町みい子はどうかというと、こちらは単純だ。
「私はそもそもこっちが地なんよ。さくらとはもう二週間か? それぐらい一緒に暮らしてるんだから、わざわざよそ行きの服に着替えることなくねえって話よ」
「いや、それは何となく気づいてたけど、さくらが言いたいのは、素の性格はぶっちゃけガキだなって……」
「おいおいテメェ……そいつを言ったら戦争だろうが!!」
即座に応戦した谷町みい子はヘッドロックで相方の頭を締め上げるが、正直なところ全然痛くなかったので「参ったかこの野郎」という言葉に「参りました、ごめんなさい」と降参したら大した被害もなく解放された。
そして実にあっけらかんとした笑顔にもどった彼女はこう続けるのだった。
「まあさくらを信用して気を許してるところもあるよ? なんていうのかな……今のヘッドロックもさくらならそう答えるだろうなって信頼感っていうか、なんか安心してはっちゃけることができるんだよね」
「そうなの……?」
「そうだよ。さくらはもう他人じゃないでしょ? なら他人には見せないそういう部分も見せるようになるよ」
それは純粋な信頼の表明だろうか。谷町みい子は御子柴さくらを一人の人間として信用して、自分の深いところまで見せてくれるようになった。その言葉に嘘がないと感じた少女は温かいものに包まれたような気持ちになる一方で、居た堪れない気分にもなるのだった。
目の前の女性が素顔を見せてくれるようになったのに比べて、自分は彼女の言うよそ行きの格好を崩そうとしない。
それが良いことか悪いことか判断がつかず、余所余所しい態度となる年下の少女を見つめて何を思ったのか、谷町みい子は意外な提案を行った。
「ま、そんなワケでさくらも食べ終わったよね? だったら風呂に行くぞ、風呂に」
「えっ? それってさくらも一緒にはいれってことぉ?」
「そうに決まってるダルォ? 風呂だよ風呂、入るんだよ一緒によォ?」
一度熱を持ったものは勝手に冷えたりしないというこの世界の法則に支配されているためか、常に適温を保っている風呂ならいつでも利用できるが……今までそんな気配もなかったのに、こんな話をしたときに限って誘ってくるとは何を考えているのだろうか?
「ちなみにみぃちゃんの胸を見て笑ったらコロス。実際には殺さないけど、それくらい酷い目に遭わせる」
「笑わないよ。二日目に谷町の肢体を見てすごい綺麗だと思ったからさ」
「おいおい、テメェなぁ……そういうコトは遠慮しないで口にしろよぉ? そういところなんだぞ、さくらの場合はさぁ〜?」
「えっ、やだよ。言ったら言ったで胸ばかり見てんじゃねぇって怒るじゃん、谷町はさぁ……」
どこまで本気で言っているのか判らない相方と適度に戯れ合いながら準備する。手持ちのアイテム欄にある旗を二人分取り出してから振り返ると、いつになく不穏な笑みを浮かべた女性に「それは何かな?」と訊かれた。
「えっ? カラダに巻くタオルだけど……?」
「テメェは裸の付き合いを何だと心得てやがる! んなもん禁止だ禁止、前を隠すのも禁止だゴルァ! それともテメェはオレッちに隠し事でもあんのかこの野郎ぉ!?」
「ないですごめんなさい! 痛い痛い、やめてみぃちゃん! 頭グリグリはやめてぇ!!」
本当に何を考えているのか判らない。
今度はどんなにお願いしてもなかなか解放されず、御子柴さくらは自家製の露天風呂に連行されるのだった。
どうしてこうなった──突然豹変した女性に着ている服を全部剥ぎ取られて、風呂場に押し込まれた少女は極度の混乱状態にあった。
この強引さ。まさかとは思うものの、エロゲの強制イベントに思えてならないのだ。
そうだとすると、自分はこの場で年上の友人と、強制的に仲を深める(意味深)ことになるのだろうか?
だがこの場をあつらえた張本人にそんな気配は欠片もなく、暢気に「いいお湯だねぇ」とお風呂を満喫しているのだから余計に混乱する。一体この暴君の真意はどこにあるのだろうか……?
「さくらも突っ立ってないで湯に浸かったら? 気持ちいいよ。相変わらず体はまったく汚れてないけどさ……」
まあ全裸で立ち尽くしているのも何だし、ここは逆らうところじゃない。素直に忠告を聞き入れた少女はしばし無言で自分の殻に閉じ籠る。目も合わせず自分の膝ばかり見つめて、当たり障りのない取捨選択に余念がない。
だが、そんな相方の生態に慣れてきたからだろうか。谷町みい子は借りてきた猫のように緊張する御子柴さくらに、ぽつりぽつりと身の上話を始めたのは……。
「私の場合はさ、お姉ちゃんがすごい過保護で、気がついたらかなり甘ったれた性格に育っちゃったんだよね」
「そうなの……?」
「そうだよー。でもさくらも戸惑ってるし、初対面からいきなりこれじゃみんな引いちゃうでしょ? だからみぃちゃんはね、よそ行きの顔をいっぱい持ってるんだよ」
「そうなのか……」
それは、解る話だ。
「谷町には可愛がってくれる姉がいるのか……羨ましいな。さくらのお母さんは厳しい人だし、弟は意地悪だし、妹はよく分かんなくて、お父さんは空気だけど……みんなさくらのことを変わってるって言うんだよね」
「そうなんだぁ?」
「うん。もっと普通にしろっていつも叱られて……友達もね、さくらちゃんってちょっと変わってるねって言うようになって、流石にこのままじゃまずいと思ったから、谷町の言うようによそ行きの顔を持つようになったの。でも……」
「でも?」
「普通の女の子だと思われたくて、ずっと使ってるうちに判らなくなっちゃったの。さくらは元々どんな女の子だったんだろうって。家族の評価もずっと変わらなくって、中学に上がってからできた友達にも、やっぱりちょっと変わってるって思われてさ。本当にどうしたら普通になれるんだろうって……」
「それがアーニャちゃんの呼びかけに応えてVTuberを目指した理由なんだ?」
「うん。アーニャたんが自分も人に嫌われるのが怖くて閉じこもってたって聞いてさ。さくらもアーニャたんと一緒なら普通になれるんじゃないかって……」
堰を切ったようにこれまで抱えていたものが飛び出るが、止まらない──。
「でもさくらそんなに頭良くないし、必死に自分を取り繕いながら面白いことも言えないし、迷惑かける前に諦めたほうがいいんじゃないかって、ずっと悩んでて……」
「ああ、やっぱり……妙だと思ったんだよね。ゲームの説明をするときは頼もしいぐらいしっかりしてるのに、他人と会話するときだけものすごくテンポが遅れるんだもん。当たり障りのない天然のキャラを演じるのでキャパがいっぱいだったわけだ」
「そうだね……たぶん、そう……」
そんな結論しか出せないのは我ながら情けないかぎりだけど……たぶん向いてないのだ、色々と……。
ぼんやりと自分の抱える膝だけを見つめる少女に誰かの影が覆い被さる。それが誰のものかなど言及するまでもない。
「馬鹿だね、さくらは……ほんとバカ」
お風呂のなかで腰を浮かせて、自分の肩を抱いた谷町みい子の顔がゆっくり近づいてくるのに気づいて、御子柴さくらは慌てた、
「おい、何をする気だ谷町! やめろよ、女同士でそんな……!!」
「やだ。だってそうしないとアンタにゃ伝わらないでしょ」
両者の影が完全に重なっていた時間はそれほど長くなかった。時間にしてほんの数秒後に真っ白に焼きついた少女を解放した女性は、自分の唇をペロリと舐めてから面白そうに笑った。
「最初に言っとくけど、みぃちゃん後悔してないよ。初めてなのに、つまんない女に許しちゃったなぁ、なんて後悔はね」
そう言って誇らしげに背筋を伸ばした谷町みい子は、戸惑う御子柴さくらから目を離さずに続ける。
「みぃちゃんはさくらが本当はどんな子か知らないけど……根っこではね、ものすごくいい子なんだと思うよ。だってこの世界に来てからずっと私の面倒見てくれたわけでしょ? イヤそうな顔の一つもしないでさ……」
「あ、あれは谷町にマイクラのことを好きになってもらいたいって下心があったからそうしただけで……」
「うん、そうだね……でもみぃちゃんは好きになったよ? この世界のこともそうだけど……さくらのことも、さ……」
その言葉になんて答えたらいいのか判らず、少女は自分の口元を覆った。唇がまだ触れ合ったときの感触を残しているのが妙に気恥ずかしかった。
「ま、多かれ少なかれね、自分自身を演じているっていうのは誰にでもあると思うよ。社畜ネキなんかネットで大暴れしてるけど、あんなんでも会社にいるときは上司にハイハイ言ってるわけでしょ? 正直想像もつかんわ」
「まあ、社畜ネキはそうなるよね……」
「他のヤツらもアーニャちゃんの配信だとアホみたいにはしゃいでるけど、あれってまるきり演技ってわけでもないと思う。たぶんね、みんな楽しくって仕方ないんだよね」
そう言って、谷町みい子は人生の後輩にみんな同じだと教え諭した。
「さくらはちょうど自分探しの旅が流行りそうな10代半ばの真っ只中だし、色んな悩みがあると思うけどさ……少なくとも私は自分の気持ちにウソをついてないよ。さくらのことをいいヤツだなって思ったことも、さっきしたこともさ……信じられないならもう一度してみる?」
「いいよ……したいけど、なんか悪いし……」
「ほらぁー! そこで引くからダメなんだよぉ!? こっちがいいって言ってんだから、ついでにみぃちゃんをお持ち帰りするくらいの漢気を見せてみろよぉ〜!!」
「漢女って書いておとめってか? やめろコラッ、未成年淫行で訴えるぞテメッ!!」
「そっちこそエロゲがどうとか言ってたくせに今さらカマトトぶるな! 今度は舌を入れるぞこの野郎!!」
そうして裸で取っ組み合いを始める二人を、彼女の家畜たちは不思議そうに見つめるのだった。
いまや完全に当初の目的も忘れ、お互いの頭を湯のなかに沈めあう彼女たちは、しかしとても楽しそうではあった。
いつしか日が暮れて夜になっても彼女たちの喧騒は途絶えず、楽しそうな笑い声が拠点周辺に響き渡るのであった……。
その翌日。焚き火の前のテーブルで食事をとる彼女たちの間には微妙な距離があった。
「…………」
「…………」
目も合わせず、食事以外の用途では口を開こうとせず、最低限の挨拶すら交わそうとしない。昨日までの漫才じみた会話を耳にした第三者がいたら、何があったのか不安になるほど険悪な雰囲気である。
そんな重苦しい空気の中、その中心に座す黒革のドレスを纏った皇女のような女性はさすがに手打ちの必要を認めたのか、食事が終わると如何にも渋々といった感じで口を開いた。
「あのさ」
「うん」
それに対して亡国の王女さながらに打ちひしがれた少女もまた、如何にも渋々といった感じで講和の席に着いた。
「とりあえず昨日のことは忘れようか。どう考えてもこっちは被害者だけど、みぃちゃんそこまで気にしてないからさ」
「そうだね。どう考えても被害者はこっちだけど、さくらもそんなに根に持ってないからさ」
そしてほぼ同時に和解の言葉を口にするや否や、即座に立ち上がって応戦する。
「はぁああ? どう考えてもこっちが被害者でしょ? こっちは大事な初めてをアンタに奪われてるんですけど!?」
「奪ったほうが偉そうに言うな! こっちだって初めてだったんだぞ! さくらの大事なファーストキスをなんだと思ってやがる!?」
「それだけじゃないもんね! アンタどさくさに紛れてみぃちゃんの大事なところを触ろうとしたでしょ? 指がヤバイところに食い込みそうになって本気で焦ったんだから!!」
「んなもん不可抗力だ! そっちこそさくらの胸を憎しみを込めて揉みやがって! アザになったらどうしてくれんだコラァ!!」
「なにが不可抗力だ! それならこっちも不可抗力で抉ってやろうか!!」
「ふざけんな! 揉まれる胸もないくせに自分だけ被害者ヅラすんな!!」
そうして5分ばかり際どい罵声を応酬しただろうか?
罵る言葉も尽き、空になるまで使い切った息を整えることしか出来なくなった彼女たちは、やがてどちらからともなく顔を上げると降参でもするかのように白旗を揚げた。
「やめよう、不毛だ……」
「そうだね、不毛だ……」
とりあえず見解の一致を見たところで、ホットミルクの残りに口をつけた谷町みい子は気まずそうに前言の修正を試みた。
「まあどんどんヒートアップして要らんことまで口にしたけど、怨んでないのはホントだから」
「うん。さくらもさっきはああ言ったけど、ヤバイところに指が侵入しそうになったときは本気で焦って、悪いことをしたと思ったから……ごめんね、みぃちゃん」
「いいよ。こっちこそさくらの胸を鷲掴みにしてごめん」
もともと互いにそこまで気にしておらず、その場で謝罪していればここまで拗れなかった。それを一晩溜め込み、気まずいあまり意地を張ったのが良くなかった。
だが経緯はどうあれ、半日ぶりに相手の笑顔を見てどう思ったか。それが答えなんだろうと、二人は照れくさそうに顔を背けるのだった。
「あのさ?」
「うん?」
そんな近づきすぎた距離感を修正する最中に試みたのは、ちょっとした確認作業だった。
「もう二週間くらい経つけど、うちらは向こうの世界じゃどうなってるんだろうね。死んだ覚えはないし、魂だけ囚われたんだとしたら眠り姫扱いかな? 病院に押し込まれて、VTuberになる話がパアになってなきゃいいんだけど……」
「あ、それなら大丈夫だと思うよ。この世界の1日ってね、実際には20分くらいなんだ。だから現実には4時間くらいしか経ってないと思う。だから安心しろ。仮に何日か経ってたとしても、アーニャたんならきっと分かってくれる」
くだらないことで喧嘩してもこの関係は壊れず、谷町みい子は安心して振り返ることができた。
「どうする谷町? もしそうならラスボスを倒せば帰れるのと同じくらい、向こうが朝になったら叩き起こされて目覚める可能性もあるから、無理して危ないことをしなくてもいいけど……」
「ううん、やるよ。だってそっちのほうが楽しいじゃん。……それに谷町じゃなくてみぃちゃんでしょ? これからも頑張ろうよ、さくら」
その言葉におずおずと振り向いた少女は、やがて安心したように微笑んだ。
「そうだね、みいちゃん……うちら結構いいコンビだしね」
「うん、ちょっとデコボコだけどいいコンビよ……決めたわ。うちら今日からフラグメントね」
「フラグメント?」
「断片って意味。なんか強引に嵌め込んだ気もするけど、パズルのピースのようハマってるんだから、悪くないコンビ名でしょ」
「そうだね。フラグメント……うん、悪くないよね、みぃちゃん」
そうしてどちらともなく差し出した手を握り合い、一切のわだかまりを振り払ったら口にするのはいつもの挨拶だ。
「それじゃさくら、今日はなにをしようか」
そうだ。このゲームにログインしたプレイヤーはいつもそんなふうに楽しむのだ。
やりたい事は一杯ある。時間はいくら有っても足りやしない。だから毎日少しずつ、今日はなにをしようかと想いを膨らませるのだ。
「よし、それじゃあそろそろ鉱石を掘ろうか? 鉄も掘るけどダイヤもいっぱい掘ってね、最強装備を揃えてブイブイ言わせようよ」
「いいね、いいね。崖下の洞窟に突撃して鉱石を探せばいいの?」
「ううん。それだとモンスターを倒したり、湧き潰しをしたりで面倒だからちょっと遠出をして採掘場を作ろう。持っていくものはベッドの予備と、食料、松明、作業台とかまど、石と鉄のツルハシね」
「オッケー! さくら、みぃちゃん頑張るよぉ〜?」
「うん! 頑張ろうね、みぃちゃん!!」
そして楽しそうに今後の方針をまとめ、準備を整えた御子柴さくらが向かったのは広大な海を一望する小高い丘の上だった。
「おー、こっちのほうは海になってんだ……」
「泳いでみる? ウールもあるから水着なら作れるけど、なんか真水のプールみたいで海って感じはあまりしないけど」
「んー、せっかく最強装備を目指して動き出したばっかりだっていうのに、さっそく遊びほうけるのもなぁ……海で遊ぶのはそっちが終わってからにしようか」
「うん、そのときは似合いの水着を作るね」
「おお、それは楽しみ」
そんな会話を楽しみながらも周囲にたいまつを設置して、ゾンビなどの敵対MOBは明るい場所に発生しない性質を利用しての安全確保を入念に行う。
「でもさくら、なんでこんなに拠点から離れた場所に採掘場を作ろうとしてるの? どうせ作るんだったら近いほうが便利じゃない?」
「あ、それはねぇ……向こうの崖の下に洞窟があるじゃん?」
「うん、きのこはあんまり好きじゃないけど、鉄集めではお世話になったね」
「そうだね……でさ、これからさくらたちは深層岩っていって、ダイヤが出るかなり深いところまで掘るつもりなんだけど、途中で洞窟にぶち当たるとゾンビとかが大量に湧いてて危険だし、湧き潰しでたいまつを大量に使うのも勿体ないから,洞窟が広がってない海の近くまで出向いてきたんだよね」
なるほど……やっぱりよく考えてるんだなぁと感心する。
この御子柴さくらという少女は色々と誤解を招きそうな言動からは想像もつかないほど、頭の回転は速い部類だ。
ゲームの知識はもちろん、VTuberになってもしっかり勉強すれば、あの化け物揃いの同期達と比べても見劣りすることはないだろう。
いや、むしろその点に関しては強烈なライバルになるかもしれない。谷町みい子はそう思って好戦的な微笑を剥き出しにした。
「だとすると、やっぱり人を見る目は確かだったわけだ……磐田社長もそうだけどアーニャちゃんもね」
「ん? 何の話?」
「ううん、こっちの話」
そしてチェストとベッドを設置した少女が伸びをして、柔軟体操をしながら「さて」と切り出すと、無意識のうちに真似をした女性に具体的な手順を説明する。
「それじゃあね、さくらは3×3マスを階段状に掘り進んでいくから、みぃちゃんは暗くなったらたいまつを置いてってください。あと土とか石とかかなり大量に出るから、邪魔になったらこっちのチェストに運んでもらっていいかな?」
「オッケー、任されました」
「よし、それじゃあい行くぞみぃちゃん!!」
「うん、頑張ろうかさくら!!」
気合いも新たにハイタッチを決めてからダイヤモンドの鉱石を求めての採掘となったが、実のところ後衛を担当の谷町みい子の仕事はそれほど多くない。
きれいに掘り進める御子柴さくらに関心しながらたいまつを設置する以外には、階段の壁面や天井に鉱石が埋まってないかチェックするぐらいだ。
「あ、左に石炭があったわ。これ掘っていいんだよね?」
「いいよ。石炭いいよね。助かるよ」
「うん、じゃあ掘るわ」
合間に石炭を回収しても余裕で追いつける。必然的に自分の出番か来るまでのあいだ、谷町みい子は手持ち無沙汰を紛らわすために話題を振ることが増えた。
「ところでさ、さっき言ってたフラグメントだけど……向こうでもVTuberになったらハルエリみたいにコンビで配信してみない?」
「えっ、いいの?」
「いいっていうか、むしろお願いしますって感じ。さくらってゲームに詳しいし、一緒に遊んで楽しいからさ。いつも一緒じゃなくてもいいから、さくらの気が向いたときに誘ってもらえたら助かるんだけど?」
「うーん、でもさくらたちの直近の配信って、アーニャたんに紹介してもらったアレだよ? いきなりこんなに仲良くなったとこを見せたら、一体ナニがあったんだって勘繰られそうで怖いな……」
「あー、それがあったか……」
思い当たる節がなければ堂々としていられても、実際にAはおろかBまでしかけた身としては油断できない話だ。無論、後悔はしていないが……。
「まあ、あいだに研修が挟まるし、向こうでもいきなりこっちのノリにならなくてもいいよ。少しずつさ、向こうでも仲良くしようよ……そもそもさくらの場合、向こうに戻ってもこっちの話を憶えてるか怪しいもんだし」
「おい、人聞きの悪いことを言うなよ。これでもさくらは頭いいんだぞ。この前のテストは合計で380点くらいあったんだからな」
そんな話で微妙な空気を入れ替えると、先頭に立って地面を掘り進めていた少女が足元の穴に吸い込まれた。
「えちょっ、ちょっと大丈夫なのさくら!?」
「おー、大丈夫だよみぃちゃん」
慌てて声をかけるとすぐに返事が返ってきたので慎重に穴の向こうを確認してみると、御子柴さくらは階段状になった洞窟の壁面に張り付いていた。目立った怪我をした様子もなく、左手に持ったたいまつを設置しながらこちらを見上げ、安心させるように右手を振ってくる。
「びっくりした……あまり心配させないでよ」
「うん、ごめん。思ったより洞窟が広がってて、天井を掘り抜いたみたい」
「そっか……ま、一番下まで落ちなかったのは不幸中の幸いかな」
彼女の言うように、掘り抜いたのが洞窟の外周部分であったことは幸運という他なかった。おかげで階段状になっている崖の部分に引っ掛かり、一番下まで落下せずに済んだ。
これがもし、あの怪物どもがひしめくところまで落ちていたら……自分はこの頼もしくも危なっかしい友人を失うことになっただろう。
あらためてこのゲームが死と隣り合わせの危険な世界であると実感して、谷町みい子は友人である御子柴さくらの無事を喜ぶと同時に、背筋がぐっしょりと濡れていることに不快感を覚えるのだった。
「ところでさくら……そこからどうやって戻ってくるの?」
「ん、簡単だよ。落ちた場所から動いてないから、ジャンプしながら足元にブロックを置けばすぐ戻れるから」
「ジャンプしながら足元にねぇ……本当にこのゲームはどうなってんだか」
相変わらずこの世界の物理法則は仕事をサボってるなぁと呆れつつも、その恩恵にあずかっている以上は感謝するしかない。さくらも無事だし、戻ってきたらちょっと失礼して汗を拭かせてもらおう──そんなふうに油断したのが悪かったのか、見れば御子柴さくらの背後で緑の怪物が白く膨らんでいた。
あの怪物は知っている。音もなく忍び寄り、体内に蓄積した火薬を爆発させて、地形にもダメージを与えるその名は──!
「さくら!?」
警告の叫びはしかし、何もかも手遅れであった。クリーパーの爆発に巻き込まれた少女の体は吹き飛ばされ,やがて地面に激突すると手持ちのアイテムをぶち撒けて消滅した。
「ウソ……そんなことって……」
もはや言葉もない。気がつけば両膝を突き、崩れ落ちる上半身を支えることすら容易ではない。それほどまでに御子柴さくらの突然の死は受け入れ難くも衝撃的だった。
今だからこそ言えることだが、自分はあの少女に決していい感情を持ってなかった。初見から妙にイライラさせられ、無礼な言動に腹を立てた。そんなさくらとこの世界に取り込まれたときは軽く絶望したものだが、それも過去の話だ。
この二週間近くの共同生活で、御子柴さくらの孤独と寄り添った自分ほど、彼女のことを理解している人間はいない。そう断言できるほどに、谷町みい子は年下の友人に深く共感したのだ。
そして互いに素顔を見せ合い、遠慮なくケンカしてから、これからも頑張ろうと誓い合った矢先に、どうしてこんなことに……!
「いやだよ……ウソだといってよ、さくらぁ……」
「テメェ、コラッ……ぶっ殺すぞクリーパー、テメェこの野郎……」
そんな自分の目の前をリスポーンした御子柴さくらが通り過ぎようとしたとき、谷町みい子はその足にしがみ付いて彼女の転倒させることに成功した。
「んガッ……みぃちゃん、なにしてんの?」
「……説明して。私の見間違いじゃなければ、さくら死んだよね?」
「うん、死んだよ。で、リスポーン地点のベッドの上で復活したから、急いで戻ってきたの」
「そう……みぃちゃんね、このゲームで死んでも生き返るって知らなかったんだけど、そんなみぃちゃんがさくらの死を目の当たりにしてどう思ったか、想像できる?」
「えっ? 言ってなかったっけ……?」
その言葉に、谷町みい子はもう笑うしかないという心境になった。全身の力を右手に凝縮して、容赦なく振り下ろすと何もかも許せそうな爽快感に包まれた。
「そういうコトは真っ先に説明しろ、このバカッ……!!」
「痛ッッてぇ!?」
とどのつまり、ようやく安心して怒ることができたと、そんな次第だった。




