Wコラボ開幕 〜と言いつつサーニャ無双じゃんこれ!〜
2011年12月5日(火)
遂に念願のWコラボが始まったぞ、と意気込んでいたわたしだったが、今はやらかした直後のような心境だった。
いや、別にわたしは何もしてないよ? でもあのPVはやり過ぎじゃない? 一応さ、今回は3Gの宣伝をするって目的もあるわけだよね? なのにゲーム本編で使われてない映像を垂れ流して、これ、絶対あとで面倒になるヤツだよ!!
C社さんは好きにやっていいって言ってたけど、今回の配信を見て購入を決めた視聴者さんに「おい、配信で使われたムービーが入ってないぞ」って言われたらどうすんのさ。
特に海外の知名度という点では、怪物狩人シリーズはそれほど知られてないっていうから、確実に誤解する人が出てくるだろうし。
そうなると、お客さんの挨拶が終わるのを見計ったら、早めにフォローしないといけないわけでしょ? もう必死よ!
「こんばんわぁー! ただいまご紹介に預かりましたハルエリちゃんねるの仲上ハルカです! どうぞよろしくぅー!!」
「待って待って、オープニングのPVがすごすぎて、それ以外の言葉が出でこないんだけど?」
「あーもー仕方ないなー! アーニャさんのデザインが凄すぎて誰だか判んないでしょうが、こちらが相方の進藤エリカです! 本当に頼むよー、挨拶くらいしっかりしてくれー!!」
「こちらこそよろしくお願いします今回はアーニャちゃんねるにお越しくださり誠にありがとうございましたというわけで今回はハルエリちゃんねるのお二人とわたしが早くプレイしたいと一昨日の配信で言ってたのを小耳に挟んだC社さんのご厚意にで提供された大人気ハンティングアクションゲーム怪物狩人シリーズの新作3Gをメイドのサーニャを含めた4人で一緒に遊んでいこうと思いますが冒頭で流れたPVはサーニャが適当にでっち上げたものなのでゲーム本編では使われていませんのでこの件に関する問い合わせはC社さんではなくサーニャにお願いします!!」
わたしが必死に訴えると、当然のことながらコメント欄はツッコミ一色となった。
[アーニャたんすごい早口w]
[アーニャたん必死過ぎワロタwww]
[ああ、やっぱりC社が作ったわけじゃないんだ]
[なるほどー、了解です]
[じゃあサーニャたんが今回のコラボに合わせて作ったってこと?]
[まあ、このチャンネルの映像技術を考えれば納得だけど……]
[What is Sanya's technical strength?]
[え? あれを1日か2日で完成させたってこと?]
[ゴゴゴ……サーニャたんとは一体……]
どうしよう! C社さんが叩かれないようにフォローしたつもりが、なんていうか余計なことも口走ったらしくとんでもないことになった!
わたしは慌ててサーニャに視線を移すも、当の本人は余裕綽々といった態度で髪をかき上げると、無線のイヤホンを通して宥めすかしてくるのだった。
『落ち着いてください。ゆかりが何を懸念しているのか十分に理解しておりますが、大丈夫ですよ。何も問題はありません』
ホントかなぁと首を傾げるのを我慢するが、サーニャには何か考えがあるようなでこの場合は任せることした。
悠然と前に出て、注目を集めたサーニャがコメント欄を一瞥して何度か頷くと、勿体ぶった態度で重々しく口を開いた。
「皆さま驚いていらっしゃるようですが、あのようなPVを一晩ででっち上げるなど児戯にも等しいものです。そう、MITにおいて空前絶後の大天才と目されたこの私、サーニャことアレクサンドラ・タカマキに言わせれば、ですが」
って、なんかとんでもないことを言い出したと冷や汗さんが顔を出したが、よく考えたら例の設定か。
N社を通してL2Aを世に出すと決めたときに、開発者として設定したサーニャの経歴。いずれは段階的に開示する予定だったそれをこの場で口にするとは聞いてないが、今は信じて任せるしかない。
[ググったら海外のwikiが出できたんだけど?]
[Wasn't Dr. Takamaki an urban legend?]
[翻訳したら10歳でMITの学士課程を主席で卒業したってあるんだが?]
[調べたらマジモンの天才で草w]
[既存のIQテストでは上限を計れないほどの天才だと……?]
[Comeback! Doctor Takamaki!]
[すご過ぎて草なんだかw]
[MITは米軍の研究機関でもあるのに、よく自由になれたな]
[なんでそんな人がアーニャたんのメイドをやってるんですかねぇ?]
表示されるツッコミの数々にしみじみと納得する。
「そうだよ。サーニャってばそんなに天才だったら、大学の人たちも手放さないよね?」
設定的に苦しいんじゃないと不安になったが、ここでわたしも知らない設定が炸裂した。
「そうですね。私もそんな気配を感じたので一芝居打ちまして、地球防衛用に実現可能な巨大ロボットの設計図を引いて、政府に予算を20兆ドルほど請求したんですよ。そうしたら皆さん目も合わせてくれなくなりましたので、これ幸いにと日本に移住したという次第です。まったく、条件を満たせば三身合体すら可能だというのに。子孫に守護神を遺す意義すら解らないとは。……もっとも今の技術では無敵の合金を作れないので、現代戦ではただの的にしかならないデカブツに過ぎませんが」
うわぁ、それは大学の人たちの反応も当然だよ。完全二足歩行のロボットなんて技術的には凄いけど、現時点では使い道がないって本人も認めてるじゃん。そんなのを天才と期待を寄せるサーニャに大真面目に提案され、かつ設計だけは完璧で実現可能となったら、どう言う顔をしたらいいのか誰にも解らないと思うの。
[草ァwwwww]
[これは芝刈り機が必要な流れですね]
[サーニャたんぶっ飛びすぎwwww]
[実現可能なのはすごいけど、さすがに20兆ドルはw]
[これ頭のおかしいヤツと思われたんじゃなくて絶対その逆だろ]
[なまじ設計が完璧すぎて論理的に拒否できない流れwww]
[Gerontocracy who doesn't understand the romance at all]
[よし、B社はサーニャたんにガ◯ダムの設計を任せるんだ]
[まあ干されたのは納得ww]
うん、やりすぎだよね。まさか設定に齟齬をきたさないためにそこまでやるだなんて、まったくサブちゃんってば変なところで凝り性なんだから……。
「幾つかの気になるコメントもございますが、ご理解いただけたようで何よりです。まあ特許収入で開発したAIの補助があっての話なので、天才なら誰でもできるという話でもありませんが」
そんな情報開示を異次元と評される技術力の裏付けにして、アーニャの後ろに戻ったサーニャが博士からメイドの顔になる。
「ちなみにスポンサーは募集していませんので、勧誘の類はお断りします。私はアーニャの世話をするのが性に合ってますから」
まあ、そう言われると怒るに怒れないんだよね。実際、何から何までお世話になってるんだから。
でもこういう大事な話は事前にしてほしいな、というのが小心者で小市民なわたしからのお願い。配信が終わったら忘れずに伝えよう。
とりあえず心臓に悪い相棒はそういうことにして、今は内輪で盛り上がりすぎて放置しちゃったお客さまのフォローをしないと。
「すみません! こちらでお招きしておいてワタワタしちゃって!」
わたしが視線を合わせて謝ると、アーニャのL2Aが振り向いてペコリと一礼したが、当のお二人はケロリとしていた。
「いやー、構いませんよ。アーニャさんの配信にド肝を抜かれるのは毎度のことですから、もうすっかり慣れっこですよ」
「だよねー。今回もオープニングのPVにサーニャちゃんの経歴と立て続けに2連発だけど、絶対これで終わりじゃないって確信があるから、エリカの肝はもう酒漬けよ」
「おい最後! 感覚を鈍らせるためだけに飲酒するな!」
あっけらかんと笑うお二人の様子に、わたしは恐縮するやら安心するやら。
「お二人とも場慣れしてて、さすがは現役の配信者って感じで安心して見ていられるね。今回の配信はハルエリちゃんねるでも視聴できるから、お二人の視点で観てみたいってみんなは、右上のほうもチェックしてあげてね」
わたしが紹介すると画面の右上に枠ができて、お二人の配信が表示される。
[おー、これは便利だ]
[二枠開かんでも観れるのは有難い」
[これYTubeの機能じゃなくて、サーニャたんが手を加えた結果だよな]
[I did it, it's Sanya!]
[相変わらずアーニャたんの配信だけ色々と異次元w]
[ハルエリのほうでも自動翻訳が機能しとるやんけ]
[これもうYTube全体で採用していいんじゃないか?]
[Companies all over the world are astonished at this]
[もっと広がれアーニャたんの輪!!]
マウスポインタを重ねれば、大きくクローズアップされるこの仕組み。コメントでも好評で、こういうのも広めたいなと思いつつ確認する。
「今回はストーリー上のネタバレを避けるために集会所を攻略していくんだけど、ハルカさんたちが使用する武器は決まってるかな?」
「はい、仲上は前作の3で斧剣に惚れ込みまして、3Gでも使っていこうかと。一応、MH歴はP2Gからなので、足手纏いにならないと思いますが」
「卑怯者のエリカはP2Gから飛び道具一択だね。気分で軽弩、重弩、弓と使い分けるけど、今回はPVのエリカも使ってたから重弩で行く予定だYO」
「おー、2人ともやり込んでるね。アーニャはWe版3から狩人になったんだ。一応P3はやったけど、P2Gはまだ手付かずだから後輩だね」
「では早速やって行きましょうか。C社が配信用に提供した開発用のPC版を、私のほうでフルHD60fps対応、3DNS版とのオンラインも可能に組み直した完成版がこちらになります」
ねぇ、いまサラッととんでもないことを言わなかったと思ってる間に、画面は美麗極まりないPC版3Gに切り替わった。
「ちなみにオープニングのムービーを今回のPVに切り替えることも可能です。C社さまにおかれましては、是非とも海外向けにこちらのPC版の販売をご検討ください」
うん、サーニャに好きにしろって言ったらこうなるって見本だね。コメントも「サーニャたんやりたい放題ワロタ」とか「サーニャたん無敵すぎんだろ」ばっかりだし、わたしはもう色々と諦めたよ……。
「まあ、C社さんが損をする話じゃないからいいんだけど」
逆にPC版の売り上げの一部を受け取ってくれって言われたらどうしよう? 文句は全部、どこに住んでるのかも判らないサーニャ本人(生体アンドロイド)に言ってもらいたいな。
「おー、これはすごい! 3DNS版は手元にないので判りませんが、PC版は3から格段に進化していますね!」
「うん、画面の奥行きメッチャ感じる。3DNS版は立体視もあるし、エリカどっちも買うわ」
と、わたしが内心のモヤモヤと格闘しているのとは裏腹に、ハルカさんとエリカさんの二人は純粋に3Gを楽しんでるし。
そうだよね、いつまでもこんな気持ちでいたんじゃ楽しめないよ。ここはお二人を見習って楽しむことに集中しないと。
「うんうん、どんなふうに変わったのか楽しみだね。それじゃ集会所に集合して、定番の青熊退治と洒落込もうか」
「はぁーい、すぐ準備します」
「エリカも麻痺弾を買ったらすぐ行くー」
というわけで、わたしもお二人に負けじとアイテムボックスの前で準備する。今回は下位のモンスターが相手だけど、用心して秘薬と粉塵を持ち込み、武器は何を隠そう……って、オープニングの時点でモロバレだけど、大剣が好きなんだよね。
モンスターの動きをよく観察して、隙を逃さずに攻撃するという、基本に忠実で一発もある素直な武器種。それが大剣である。
サポートに徹するなら、武器を納めずに道具を使える片手剣もありだけど、今回はわたしの補助を必要とする妹と違ってベテランのお二人。余計な心配は要らないだろうと使い慣れた武器を選択。
そして集会所に一番乗りと思ったら、完全武装のサーニャとご対面であった。
しかも見たこともないような銃槍を手に……なんだろう、どことなく色合いが今回の看板モンスターによく似てるんだけど?
「……ねぇ、その装備は何?」
「本作の看板モンスター砕竜のG級装備、爆岩銃槍と銃槍用装備一式ですね」
「なんで始まったばかりなのにそんな装備を持ってるの?」
「不正はしてませんよ? 昨夜にソフトを受け取り次第、地道に攻略して集めたものですから。モンスターの処理はお任せください。私が最速でG級までお連れしますので」
鼻息すら感じ取れそうなほど自信満々のサーニャに、わたしは無情にも告げるのだった。
「着替えてらっしゃい」
「なにゆえっ!?」
あらん限りの表現を駆使して打ちのめされるサーニャだったが、わたしとしては配信の趣旨に反するからとしか言いようがなかった。
「だってそんなG級の装備を使って、プロハンがTAする動画をさ、みんなが見たがってるって思えないんだもん」
[うーん、どうだろう? 微妙と言えば微妙だけど……]
[グダるよりいいと思うが、そのグダるのが面白いんだよなw]
[アーニャたんが楽しめればいいけど、そうじゃないなら、ねぇ?]
[I want to see Anya's success!]
[むしろアーニャたんの華麗な3乙に期待!]
[確かにお客さんを呼んですることかと言われると……]
[This is correct for Anya]
[アーニャたんの配信なんだし、アーニャたんの好きにしてほしいなぁ]
[お姉さん猫人に運ばれるお尻丸出しのアーニャたんが見たい!]
わたしが同意を求めると、ごく一部の例外を除いて、コメントは概ね賛同で埋まった。
「はい決定。嫌ならお留守番だよ」
「わかりました。しばらくお待ちを……」
って言い渡したら加工屋に直行して、装備を変えないで戻ってきた。何してんだ?
「素材が余っていたので下位の装備を作ってきました。本作の魅力を伝える上で、新属性の『爆破』に触れることは欠かせません。どうかこの程度で目こぼしを」
うーん、武器は変わってないけど、防具はちょくちょく変わってるし、嘘を言ってるとは思えないから、まぁ良しとしますか。
「仕方ないね。サーニャがそこまで言うんだったら信じるよ」
「ありがとうございます! その信頼、決して裏切らないことを誓います!」
[これは麗しい主従関係]
[キマシタワー!!]
[なんだかんだアーニャたんには逆らえないサーニャたんすこw]
[This cleanses my heart]
[そこまで言われると爆破がどんなもんか気になるな]
[サーニャたん一晩でPV作ってPC版調整してG級まで行ったのかよ]
[とんでもねえ奴と同じ時代にうまれちまったもんだぜ]
[Why did MIT let go of such a genius?]
[うーん、これは社畜ネキの妄想が捗りますね]
そしてちょくちょく見かける社畜ネキさん関係のコメント。さっき本人もいたし、すっかり定着したなぁとこれには苦笑い。ハルカさんたちはもう少し迷惑をかけないところに落ち着いてくれるといいなと、今からお祈りをしよう。
と、こちらの問題を解決すると、集会所にハルカさんとエリカさんがログインした。
「お待たせしましたー! おや? サーニャさんは見慣れない装備をお持ちですね?」
「エリカ自分の配信そっちのけで、アーニャちゃんの配信見てたから知ってる。それ3Gから登場の爆破できる武器でしょ? どんなのかメッチャ楽しみ!」
前作まで履修済みのベテラン狩人、さすがに目敏い。
「うん、そうみたい。サーニャってば待ちきれずにフライングしてたんだよ」
「あ、それメッチャ分かる。エリカも、ハルカが二人で食べようって買ってきた差し入れ、速攻で残さず食べちゃうし。今日も夕食前に買ってきたハーゲンダッツ、もう無いよ」
「またやったのかお前ぇー!! いや、失礼しました。これはアーニャさんの配信中にやることじゃありませんでしたね」
「ううん、嫌じゃなかったらもっとやってほしいかな? 今日の配信はお二人の魅力を伝えるって目的もあるからね」
ある意味これはわたしが理想とする友人関係だった。遠慮とも容赦とも無縁でありながら、そうあることが自然で気兼ねすることのない関係。あれこれ悩んでばかりのわたしでも、いつかはこんな友達が作れたらな、って。
……えっ? 社畜ネキさん? あの人の場合は向こうに遠慮がなくてもわたしにはあるから! あんな絵を描いておいて、今さらどんな言い訳をする気だって思うかもしれないけれども、一応は目上の人間として敬ってるから!
「うーん、そう言われると恥ずかしいものがありますね。まぁご期待に添えるか分かりませんが、羽目を外しすぎない程度に盛り上げるとしますか」
「エリカこっちの配信メッチャ居心地がいい。見て見て、ハルエリええキャラしとるわだって。こんなコメントうちらの配信じゃ滅多にないわ」
「うんうん、今後もこんな感じでコラボしたいね。それじゃあクエストも貼ったし、青熊退治に行こっか」
「おーっ、行こう行こう!」
「あ、エリカは通常弾レベル3を撃つ予定だから、頭をこっちに向けてくれると助かるYO」
「了解しました。マルチプレイの心得ですね。私が陽動をつけてヘイトを稼ぎます」
そんな感じで盛り上がりながら、全員の準備が完了したのでクエストに出発する。ホストであるわたしたちはもちろん、ハルカさんたちのPCも配信用に高額のものを揃えたのか、読み込み時間は驚くほど早く終わって、オープニングのPVで描かれたものと遜色のない孤島の風景が映し出される。
いやいや、フルHDのPC版だからってさ、3Gのグラフィックってこんなに綺麗だったっけ……?
「うおー! すごいぞ、大自然だぞー!!」
「えーっ! 3GってWe版の3より綺麗じゃん!? これはテンションが上がるわ!!」
ま、まあ、3DNS版も携帯機にしては頑張ってるから詐欺には当たらないよね?
とりあえずPC版はPC版と割り切って、まずは目当ての青熊を探すところから始めないと。
未来の知識があるから勘違いしそうだけど、この時代のモ◯ハンに空から大型モンスターを発見してくれる猛禽類はいないし、操作方法も違うから、ひとつずつ慣れていくところから始めないと。
「あ、待って待って。コントローラーに操作の割り当てをしとらんかったわ。慣れるまで試し撃ちの時間ほしいかも」
「先にやっとけって言っただろうが! まったくもう、本当にこんな相方ですみません……」
「ううん、気にしないでいいよ。アーニャの視聴者は、こういうやり取りも全力で楽しんでるからね」
わたしが答えると、賛同のコメントがすごい勢いで流れた。
「そうかもしれませんが、エリカに言って聞かせるのはハルカの仕事なので、なんとも面目ありません」
そちらでも確認したのか、しきりに恐縮するハルカさんだったが、こうして見るとL2Aの挙動に驚くばかりだ。
さっきの『ガーッ』という怒りかたは、わたしのアーニャには真似のできないハルカさん独自のものだ。二人とも限定的なL2Aをインストールしてから、モーションデータの蓄積に協力してくれたそうだけど、ここまでの差異を出せるとなると侮れないものがある。
わたしは二人のイラストを完成させたあとに、参考資料として幾つかの表情を提示したが、その中に先ほどのものは含まれていない。わたしの参考資料と、本人の表情を参照して、ホワイトキャットなハルカさんを構成する画素を全て自在に制御し得るL2Aの実力たるや、さすがは一千年以上未来のAIの産物である。
このソフトがあれば、あの人たちの魅力を伝えられる──そう確信したわたしは上機嫌に提案した。
「じゃあこうしよっか? エリカさんはこのままエリア1に残って操作設定と練習に専念してもらって、アーニャたち三人は他のエリアで青熊を探して、見つけたら合流するって」
「いえ、そんな悠長なことは言ってられないようですよ」
そんなわたしの台詞が「ガシャン」と抜刀したサーニャに遮られる。何事かと視線を転じれば、ノッシノッシと近寄ってくる真っ青なクマさんの姿があった。
「……そうだった。エリア1も普通に巡回ルートじゃんね」
L2Aじゃなく3Gの画面を注視していれば気づいたのに、と今さら嘆いたところでもう遅い。至近距離で吠えられたわたしたちは両耳を押さえて行動不能となり、最悪の形でデビュー戦を迎えることになるのだった。




