二人はガイヤーン
キョロキョロと周囲を見渡す若者。
「やあこんにちは。気分はいかがですか? それよりも、ここにはこんなにたくさんナタデ・ドコがありますよ。よかったら一緒に楽しみませんか?」
慈愛に満ちた悪魔の誘い。只野会長の声が若者に優しく響いた。
「え、マジっか!? いいんすか!? あざーっす! ちなみに俺ってタバコにして吸う派なんっすよ。紙あります?」
「ええ、ありますとも。ああ、私は室内に充満させて全身で味わう派なので、後ほどあちらでやりますね。さあ、これをお使いください。」
「あざーっす!」
若者は自分を取り囲む者に一切注意を払うことなく、ナタデ・ドコの粉末を紙に巻き、火をつけた。
そしてとろけるような表情で一吸い……した瞬間、激しく嘔吐した。
「ゲェェーーーぉごっほ、ごほっ、えっえっげぉぉーーーーー」
「おや? どうしました? 吸引はお気に召しませんでしたか? それならこっちはどうでしょう? 水に溶かしてありますので、口に含むだけで結構ですよ。」
「あぐっ、げっ、あざす……」
しかし、それでも若者は嘔吐した。もしかしたら体がもうナタデ・ドコを受け付けないのだろうか?
それから、また数人の正気を取り戻した常用者を相手に同様の実験を繰り返す。
その結果……
「素晴らしい。クイーンアレクサドリルナマコのキュビエ器官から抽出された新成分、仮に『キュビテイン』と呼びますか。一度これを服用してしまうとナタデ・ドコに対して拒絶反応を起こすような免疫が付いてしまうんでしょうね。まさに女王のごとき独占欲のなせる業でしょうか。」
「会長、おめでとうございます!」
「さすが会長!」
「会長すごい!」
「さすかい!」
「さす!」
「ありがとうございます。皆さんのご協力のおかげですよ。詳しい成分分析や量産体制につきましては後日としまして、磨裂さん。死体の処理をお願いします。いつも通り献体としてお使いください。」
「ありがとうございます。医学の発展のため有効に使わせていただきます。」
インテリな眼鏡をかけた男、磨裂の肩書は独立行政法人肘川中央大学病院の院長兼理事長である。
「さて、見たいものは見られましたか? ガイヤーンのアネッサさんとテシッタールさん?」
「あはは……お見通しですかぁ。こいつが何考えてるのは分かりませんが、ありがとうございましたぁ。」
「アリガト、ゴザマス。」
『ちょっとアンタ、大丈夫なのかい? アタシ達の素性がバレてるよ?』
『大丈夫ですよ。私らは真っ当な旅行者なんですから。行方不明になったら真っ先に疑われるのはナマウニ会ですよ。だって姐さんさっきもインスタにカラオケを上げてたじゃないですか。』
『それもそうねぇ。で、アンタ何が目的なのさぁ?』
『それはですね……』
姐に耳打ちする手下。
「こいつが言うには黄金の国ヤポンには平和な国であって欲しいそうですぅ。薬物など一切ない、生産すらされない健全な国でぇ。」
「なんと! ここまで我が国のことをお考えいただけるとは! さすがはミソッパで長い歴史を持つ老舗マフィアだけありますね。てっきりヤポンからの薬物の流入を防いでガイヤーンの商品の売上を回復するためだとばかり思ってました。」
『だとさぁ……』
『正解です。さあ姐さん帰りましょう。一年もすればナタデ・ドコは二度と流通しないでしょう。問題はその一年をどうやってしのぐか……なんですけどね。』
「今回はありがとうございましたぁ。やっぱりナマウニクルセイダーズの皆さんは素敵な方ばかりですぅ。」
姐は会長に抱きつき、頬に特大のキスマークをつけた。




