救世主は棘皮動物ナマコ!?
黄金の国ヤポン。オオエド国際空港へと降り立った二人。すでに出迎えも来ている。
「アネッサさーん! テシッタールさーん!」
ナマコとウニを愛でる会の関係者だろうか。大きく手を振っている。
「わざわざお出迎えありがとうございますぅ。」
なんとこの姐、ヤポン語がペラペラなようだ。一方手下は読み書きならできるがヒアリングもスピーキングもできない。
「会長もアネッサさんの参加を楽しみにされておいでです。テシッタールさんは今回が初めてですね。ようこそヤポンへ。私はナマウニ会、広報の『三田 津子』と申します。」
「ワ、ワタシ、テテ、テシッタール、デ、デス!」
どうやら手下は三田の美貌に見惚れてしまったらしい。普段は冷静なくせに。
確かに白いシャツに黒いスーツを身に纏い一部の隙もない装い、と思いきや下に目を向けるとクリーム色のヒールが短めのスカートと相まって、えも言われぬ色気を醸し出していた。手下が目を奪われるのも無理からぬことなのだろう。ただの美人ではないようだ。
「今日はこのままホテルですかぁ?」
「アネッサさん次第ですよ。どちらに行きたいですか?」
『姐さん、こちらの美しい方は何とおっしゃってるんですか?』
『どこかに行きたいかとさぁ? アンタどっか行きたいとこでもあるのかぁい?』
思案する手下。
『ナマコを見たいです。できればウニも。』
「さんださぁん、こいつがナマコとウニを見たいそうなんですぅ。どこかいい所はありますかぁ?」
「でしたら国立棘皮動物研究所にお連れしましょう。ナマウニ会の会員ならフリーパスですから。」
『いい所に連れてってくれるってさぁ。』
「ア、アリガト、ゴザマス!」
一向は三田の運転する車で国立棘皮動物研究所へと向かった。
『姐さん、着いたらナマコのキュビエ器官についてよく聞いておいてください。特に、キュビエ器官を使った解毒作用について。』
『あー、聞いてもいいけどアタシに理解できるとは限らないからねぇ?』
「アネッサさん、どうされました?」
「こいつがキュビエ器官に興味があるみたいなんですぅ。解毒? なんかそんな作用があるんですよねぇ?」
「ええ、全てのナマコにあるわけではないんですが。新種のナマコ、クイーンアレクサドリルナマコのキュビエ器官に解毒作用があることが分かってます。ただ、どの毒に作用するのかが解明されてないんです。先は長いですね。」
『だとよ。そんな小難しい話ぃ聞いてどうすんだぁい?』
『ヤポンでナタデ・ドコの被害はどうなってるか聞いてください。』
訝しげな顔をする姐。それでも聞くだけ聞いてやろうと三田に話しかける。
「さんださぁん。ヤポンではナタデ・ドコの被害ってどうですかぁ? やっぱり本場だからぁ。」
「ナタデ・ドコですか……かなり危険です。首都エドでは五人に一人がナタデ・ドコ中毒と言われてます。もう警察も手が付けられないそうです。逮捕時に使用者に触れてしまったためにエクフラ状態、あぁナタデ・ドコを使用して恍惚となっている絶頂状態のことですが、そのエクフラ状態になってしまうことも多々あるそうです。」
エクフラ状態、正式名称をエクストリームヘブンフラッシュ状態と言う。常用者の誰しもが、既存のどの秘薬とも違う強烈なアッパー状態はナタデ・ドコでしか得られないと口を揃える。それゆえ、誰が名付けたか極限の快楽をエクストリームヘブンフラッシュと呼ぶようになった。
それから、再び黙り込んでしまった手下。何やら難しい顔をして思案しているようだ。
そして到着。勝手知ったると立ち入る三田、追従する二人。
「こんな風に種類ごとに水槽が分かれてます。先ほど話に出てきたクイーンアレクサドリルナマコはこちらですね。」
通常ナマコといえば表面はゴツゴツし、色も黒であることが多い。しかし、この新種のナマコは海に同化するかのように艶々した表面、そして深い青色をしていた。