自動改札
女は電車に乗ろうとして定期をタッチした。
ピンポーン!
軽快な音ともにシャットアウト用のフラップドアが現れる。
「ぐっ!」
通り抜けようとしてぶつかった女は変な声を漏らしてしまった。
「あのー、すみません。ちょっといいですか?」
駅員に呼ばれ、窓口へ歩いていく。
「あちゃー、定期券が切れてますね。申し訳ございませんが、手続きが必要です。」
「え、あ、そうですか?」
女は先月に半年分の定期券を買ったばかりだ。期限が切れているなんてことはありえない。疑問の表情を浮かべながらも、駅員に言われると、そうなのかな? と思ってしまう。
「お手数ですが、あの、えっと、あったあった、この地図の、ここに行ってもらえますか?」
駅員が地図を取り出し、女に、とある場所を指さした。駅から少し離れた場所だ。
「ここ、ですか?」
「はい。」
「でも、更新手続きってここでもできるんじゃ……。」
「いて、今回は無理です!」
抗議しようとした女へ被せかけるように駅員は言った。
女は不審な表情だったが、ここまで強く言い切られては反論もしにくい。元々、控えめな性格の女は、強く押されると弱かったのである。
「そ、そうですか……。」
結局、折れて駅員の指示した建物に向かった。
それはどこにでもよくある雑居ビルだった。そこの三階が手続きの場所らしい。
女は階段をゆっくり登り始めた。外観はかなりの年代物だったが、中に入ってみると、かなり綺麗でびっくりする。
定期的に塗装するなど整備しているようだ。
女は感心しながらゆっくり歩いていく。段を見つめながら少しずつ上がっていく。
そこでふと上を見上げると、そこに何かが立っていた。
黒い服装の何か。
(誰だろう? 職員かな?)
そう思って会釈すると、相手の姿が消えた。
(えっ?)
目を擦るが確かに何もいない。
(幻覚?)
不思議に思いながら足を上げた瞬間、誰かが彼女の胸を強く押した。
「うそ。」
そう言い残して階段を転げ落ちる。
ガキ、ボキ、ゴキ。
鈍い音が響き、骨が砕ける。
両手足が奇妙な方向に曲がり、鼻から血が流れ出ている。後頭部を強く打ったのだろう、身体中が焼けたように熱い。
「かっ、は!」
口から血と唾が漏れ出た。
痛みに呑まれ、頭がぼーっとしてくる。瞼が重く、開けていられない。
(これはきつい。もしかして、死ぬのかな? 私。)
少しずつ視界が閉じていく。
睡魔に引きずられ、彼女の意識が途切れる一瞬、その目に映ったのはさっきの黒い何かだった。
「そういえば、先輩、さっきの人の定期なんですけど。」
「うん? どした?」
「あれ、期限切れてなんかなかったですよね?」
「あ? ああ、そうだな。確かに定期は切れてなかった。」
「じゃあ、何で改札が反応したんですか?」
「それか? それはな、定期は切れてなかったけど、あの女、もう寿命が切れてたんだ。しかも事故死の予定でさ。駅なんかで死なれたらダイヤが狂って大変だろ? だからさ、例のあそこに行ってもらったのさ。」
「ああ! そういうことだったんですか!」