勣水精縁編:2 思い悩める妖精
「ラブラズベリー? ……まぁ、確かにこの辺はよく採れるって話だけど」
「うん。僕はどうしても、それを採らなくっちゃいけないの」
「おいしいよね、あれ。僕もだいすき」
あれから。どういうわけか、俺達はチュチュと一緒に小さな山を登っている。いや、便宜上山って呼んでいるだけで、実際はそこまで山らしいものではない。ただ、丘と言うには樹木が生い茂り、そして森と言うには高さがあるからなんとなくそう呼んでいるだけだ。
「金さえ出せば村でも買えるだろ? なんだってわざわざ……」
「村で売っているのは乾燥させて日持ちするようにしたやつでしょ? そうじゃなくって、摘み立てのやつがいいの」
そのために、僕はここまでやってきたんだ──と、チュチュは語る。
そう、なんか結構な意気込みを感じられたけれども、チュチュの目的とはラブラズベリーを手に入れたいというそれだけだった。
「でも、話とは違って全然見当たらなくって。……二人に会えて、良かったよぉ」
「あー……まぁ、いくら多く採れるとはいえ、すぐ見つかるところのものは採り尽くされちまうんだよ」
ラブラズベリー。甘酸っぱくって瑞々しくて、ここらの子供たち──というか、大人であっても大好きなラズベリーの一種だ。ここらの人間は子供の頃からそこらに生っているラブラズベリーを食べているし、手軽に食えるおやつとしてここらでは定着している。
聞けば、ここら辺でしか採れないものであるらしく、だからこそドライフルーツやジャムとして売り出すことができる……つまり、子供たちの小遣い稼ぎにもなる馴染みのありすぎる果物だ。
「だいたいのやつは自分だけの秘密の場所を知ってるからな。売りにも出さない本当に美味い奴は、そういう所で採るんだよ」
「へええ……! すっごくすっごく美味しいって聞いてたんだけど、もしかすると僕が聞いていた以上に美味しいかもしれないってこと……!?」
「お前のそれがウチの村の人間から聞いたものじゃなければ、そうだろうな」
俺の言葉を聞いて、ぱあっと花が開いたかのようにチュチュが笑う。こうしてみると、本当に綺麗で可愛らしい顔立ちだと思う。まるで本物のお姫様……そこらのお貴族様なんて目じゃないくらいに可愛くて、とても自力でラズベリーを採りに来た人間とは思えない。
「でも、いいの? 今から向かう所って、ゴーシュとラウルの秘密の場所なんでしょ?」
「……いいんだよ。人の親切には素直に受け取っておけ」
「……うんっ!」
にこーっとチュチュが笑う。なんかもうそれだけで、田舎臭いこの場所の空気が華やいだ気がする。何も知らない人間が見れば、マジで百年に一度の笑顔に思えるかもしれない。実際はただの年相応のアホ面で、顔の良さに全振りした分、頭の中身がだいぶ愉快なことになっているというのに。
「にーちゃん、なんか顔赤い」
「うるせえ」
こつん、と軽くラウルの頭を小突いてから。一応念のため、言っておくことにした。
「マジな話するとな。この辺、最近ちょっと物騒なんだよ」
「えっ」
「いや、普段は子供だけでも歩けるくらいには平穏なんだけど、ちょっと前に近くに魔獣の群れが出たらしくってな」
「だ、大丈夫なのそれ……?」
「群れ自体はもう処理されたんだよ。ただ、はぐれというか、生き残りがいる痕跡が見つかったらしい……とはいえ、それも結構前の話だから」
だから、念のために年上である俺がラウルと一緒に行動している。むしろ、そうでなければなんで好き好んで手のかかる五歳のガキと一緒にいなきゃならんのか。畑仕事が休みの時くらい、一人で好きに遊びたいというのが自然な考えだろう。
でもって、「かもしれない」程度とはいえ、そんな場所にチュチュを放り出すのもしのびない。ラウルよりかは年上だろうが、それでも俺から見たら年下だ。自分の足でラブラズベリーを採りにこようとした根性は認めるけれども、川でパンツ流されて半べそかいてたやつが一人で成し遂げられるとは俺には思えない。
なら……年上として、俺が付き添うのが道理ってものだ。どうせ大した距離じゃないし、チュチュはラブラズベリーを手に入れるまで帰るつもりはないのだろう。下手に止めようとするよりかは、さっさと用事を済ませて親御さんの元に届けるのが兄貴としての正しい判断のはずだ。
てくてくてく、といつもの道を歩いていく。最近来てなかったからか、微妙に道が荒れている感じが否めない。逆を言えばラブラズベリーを採りに来た人間がいないということでもあるので、この様子なら成果ゼロで帰ることにはならなさそうだ。
「ねえねえ、チュチュ」
「ん、なーに?」
俺が必死こいて周囲に危険が無いか探っている中、俺の後ろを歩く二人は呑気に話し始めた。
「チュチュはどこから来たの? ……やっぱり、妖精の国?」
「あはは、だから僕は妖精じゃないってば」
いつかは行ってみたいと思うんだけどね、とチュチュはラウルと手をつなぎながら笑う。ちゃんと右手は鉈に沿えているあたり、こいつにも最低限の心構えはあるらしい。
「僕はオルベニオの街からやってきたんだよ。知ってる?」
「おるべにお?」
「そう、オルベニオ! そうだねえ、おか……ううん、すっごい水の神殿があることで有名かな!」
「んー……わかんない。にーちゃん、知ってる?」
「……この前、教えただろうよ」
何度も何度もあの街のことは話したつもりなんだが、どうもラウルは全然覚えていないらしい……いや、そう言えば水の神殿のことは話していなかったか?
「オルベニオの街ってのは、ヤバいカミナリ賢者が拠点にしている街だよ。狂った魔獣みたいに無茶苦茶なやつで、その雷のような叫び声は街の外にまで響くという。……悪さをするとこっちのほうにもやってくるって、かーちゃんが何度も言ってただろ?」
「ああ! 思い出した! 女子供でも容赦なくとっちめちゃうっていう、あの!」
「そうなの!? そんなのいるの!?」
不思議なことに、地元民(?)であるはずのチュチュがマジな感じで驚いている。
「……うん? これに関してはマジな実話って聞いたんだけど。領主だろうが貴族だろうが、悪さするやつの家に怒鳴り込んで暴れまわるヤバい奴がいるって。しかもその嫁はもっとヤバいらしくって、そんなカミナリ賢者を尻に敷いているらしい」
「へー、怖いねえ……。僕、良い子だからそんなの見たことないや」
てっきり向こうでの有名人だと思っていたんだけど、違うのだろうか。そりゃあ、多少は脚色されているとは思うが、それにしたってチュチュに心当たりすらないってのはどうにもしっくりこない。かーちゃんの話だと、作り話じゃなくてマジにそういう人がいたってみんなが言ってるらしいけど……。
「……でも、もしかすると僕の所にも来ちゃうのかな」
チュチュの声の調子が、はっきりとわかるほどに変わった。
「……チュチュ? どうしたの?」
顔を見なくてもわかる。たぶんこいつ今、泣きそうになっている。
「考えすぎだろ。お前が考える程度の悪さだなんて、ちっとも悪さじゃねえよ」
「そうかなあ……」
こんな呑気でのほほんとしている危なっかしい奴が、果たしていったいどれだけの悪さをするというのか。少なくとも、未だに三日に一回はおねしょをするラウルの所にも、村長の家の花瓶を割っちまったザッシュの所にも、そして花瓶事件の全てをチビたちのせいにしてザッシュから口止め料をせしめた俺の所にも、カミナリ賢者は来ていない。だから、チュチュが考える程度の悪さなら問題ないはずだ。
「……ねえ、ゴーシュ。聞いてくれる?」
「聞くだけならな。足はちゃんと動かせよ」
「……うん」
話せば楽になると思ったのか。それとも単純に、聞いてほしかったのか。チュチュは、ぽつりぽつりと語りだした。
「今度ね、僕に弟か妹ができるの」
「へえ……」
十歳差の弟妹か。まぁ、田舎じゃ珍しくもなんともない。俺とラウルだって八つ違いだし、そうでなくとも基本的にみんなまとめて育てられるから、年下は全員弟か妹みたいなもんだ。
「すっごくすっごく楽しみだったの。ちょっと、憧れてたから」
「憧れてた?」
「うん。アルベールさんとニーナさんの所は三人いてね。僕の二歳下の女の子と、僕の六歳下の男の子と女の子の双子で三人。「おねえちゃんって大変なんだから!」って口では言ってるけど、本当にうれしそうにお世話していて……だから」
近所の子供か。確かに生まれたばかりの頃は可愛くって仕方が無くて、みんな周りに自慢していた気がする。数年も経てば、飯が減るし面倒を見るのも面倒くさいしで嫌になってくるけど。
「でね、だから僕も欲しいなあって言ったの。そしたらね、ミルカが『言われてますよ、あなた』って」
「……」
「『この子の頼みですよ? 無下にする気ですか? 頑張らないと。いい加減、腹をくくってくださいまし』……って」
おいちょっと待て。
「……チュチュ、その言葉の意味、わかったのか?」
「んーん、よくわかんなかった。でも、子供を産むのはすっごく大変なことだっていうのは僕にだってわかるよ!」
だよな。わかるはずがないよな。というかわかってたらなんかショックだ。
……そもそも、ミルカって誰だ? 話の流れ的にこいつのかーちゃんっぽいけど、でもかーちゃんを名前で呼ぶのか? 都会じゃそれが普通だったりするのかね?
「それでね、どう頑張ればいいのかなあって聞いたの。欲しいって言ったのは僕なんだし、みんなで頑張らなきゃいけないから」
「そうだねー」
「……」
「そうしたら、ペトラが『良い子にして早く寝ないとダメだな』って」
おいまたなんか新しい人出てきたぞ。
「だから僕は、その日からすっごく早く寝るようにしたんだよ! ご飯食べたらすぐにパジャマに着替えて、遊ぶこともしないですぐに! ……なのに!」
「……なのに?」
「……なのに、ミルカもイズミも一緒に寝てくれなかった。みんなで協力すればいいと思ったのに……一緒に早く寝ようって言ったのに」
「……」
「いつもは一緒に寝てるんだよ? でもね、その日から……全然、一緒に寝てくれなくなったの。僕がどれだけ頑張って早く寝ても、二人は全然協力してくれない」
「それはひどいねー……」
「ラウルもそう思うよね!? もちろん、僕だけが空回りしてるってわけじゃないからね? ペトラとお母さんは協力して早く寝てくれるのに、どうして……」
「待て待て待て待て」
俺の頭がおかしいのか、それともチュチュの頭が愉快なだけなのか。普通に話を聞いていただけなのに、なんでこんなにも頭がこんがらがってくるんだ?
「なに、ゴーシュ」
「いやいや……お前、弟か妹が欲しいってお願いしたんだよな?」
「そだよ?」
「で……その、話の流れ的に今度生まれるのは間違いないんだよな?」
「うん! 僕の努力の賜物だね!」
よし、ここまではいい。
「……産むのは誰だ?」
「だから、ミルカだよ?」
「とーちゃんは?」
「そりゃ、イズミに決まってるじゃん」
よし、ここまでも大丈夫だ。とーちゃんとかーちゃんがいないと子供は生まれないってのはこいつもきちんと理解している。具体的な方法はともかく、それくらいであれば五歳のガキのラウルでも理解していることだ。そう、ここまでは大丈夫なんだ。
問題なのは、ここからだ。
「お前のかーちゃんは……」
「お母さんはお母さんだよ?」
「……お前、何人家族?」
「えっとぉ……」
顎に可愛らしく指を当てて。チュチュはうんうんと唸りながら数えだした。
「僕でしょ、お母さんでしょ、イズミでしょ……ミルカにペトラだから、ずっと一緒に住んでいるって意味では五人家族かな? おじいちゃんとおばあちゃんは別の所に住んでいるし、アルベールさんの所とは“家族ぐるみ”であってずっと一緒に住んでるわけじゃないから」
またなんか新しい名前が出てきたけれど、とりあえず俺の頭はおかしくなっていないらしい。
「お母さん」。これは間違いなくチュチュのかーちゃん。
イズミ。文脈的に、こいつがとーちゃん。
ペトラ。よくわかんないけど、親戚であるのは間違いない。
ミルカ。産む人。これは間違いない。
間違いないのが、問題だ。
「ミルカって人が産むんだよな?」
「そーだよ?」
「ミルカってのは、お前のかーちゃん?」
「お母さんはお母さんで、ミルカは家族だよ?」
「…………それ、お前の弟妹じゃなくねえ?」
「ええっ!? そうなの!?」
ミルカって人が誰なのかわからないけど、同居している親戚だとしたら。チュチュが言っている「弟妹」は、本当の弟妹じゃなくていとこになるはずだ。
「でも、家族に新しい子供が生まれたら、それって僕の弟か妹になるんじゃないの……!?」
「チュチュのとーちゃんとかーちゃんから生まれたら、弟か妹になるんだよ。イズミって人はミルカって人の旦那さんなんでしょ? チュチュのとーちゃんじゃないんだよね?」
「おま、ラウル……!」
あえて触れないようにしていたそれ。なんか複雑そうな感じがしたからスルーしていたというのに、ガキ故にその辺に気づいていないラウルが、何のためらいもなくぶっこみやがった。
「んー……そうなのかなあ。実はその辺、よくわかんないんだよね」
ところが、チュチュから返ってきたのは何とも煮え切らない返事だった。
「ウチに大人の男の人はイズミだけなんだよね。だけど、イズミは僕のお父さんじゃない……んだと、思う」
「えー? どういうこと?」
「うーん……説明するのが難しいんだけど、ともかくなんか違うの。お家にいる大人の男の人がお父さんって聞いたから、最初は僕もそうなのかもって思ったんだけど……。一回だけ、おじいちゃんとおばあちゃんにそのあたりのことを聞いたら、『お前がそう思うのなら、きっとイズミは父親なのだろうよ』、『あなたが好きに決めて良いのよ』……って、よくわかんないこと言われたんだよね」
「……」
「お母さんは銀髪で、イズミは黒髪。ミルカはブラウンで、ペトラは赤毛。金髪なのは僕だけで、一緒な人が誰もいないの。目の色だけは僕とお母さんでお揃いだけど……イズミは黒、ミルカはヘイゼル、ペトラは蒼だからやっぱりばらばらだね」
「不思議なこともあるんだねえ。僕ん家はみんな目も髪もそっくりなのに」
不思議どころか、めちゃくちゃフクザツな家庭じゃねえのかこいつ。
「あとね、普通のお母さんって、お父さんのことを『お父さん』とか、『あなた』って呼ぶんでしょう? ……ミルカはイズミのことを、『あなた』って呼ぶんだけど、お母さんはイズミのことを『イズミ様』って呼ぶし、ペトラは『イズミ殿』って呼ぶんだよね」
「お、おおう……」
まさか、まさかとは思っていたが。
男が一人に、女が三人。でもって、チュチュのかーちゃんがイズミのことを様付けで呼んでいて、イズミってのが三人全員を養っているのだとすれば。
こいつって、もしかしてマジで。
「お前……まさか、お貴族様だったりする……んですか?」
「んーん。ウチは普通の平民だよー?」
「だ、だよな……」
「あ! でもでも! お母さんは昔一瞬だけ貴族だったんだって!」
「はァ!?」
「でもねえ……えっと、『今は第二夫人かなー?』って言ってた! ミルカは『妾です』って言ってて、ペトラは『愛人だな』って!」
「おいおいおい……」
「あとみんな、お母さんのこと『奥様』って呼んでいるよ!」
「どうなってんだよマジで……」
どうなってんだこいつの家族構成。元貴族が第二夫人で、しかも伴侶のことを様付けしてよんでいる……つまり、イズミは貴族ってことなのか? いや、イズミはその人を「奥様」って呼ぶんだから平民ってことだよな? 平民なのに妾と愛人と第二夫人がいるの? と言うか普通の奥さんがいないの?
「ともかく! イズミとミルカが最近一緒に寝てくれないの! 昔はいつも一緒だったのに!」
「……まぁ、そういうこともあるだろ。夜じゃなくて、昼寝とかなら付き合ってくれるんじゃないか?」
「それじゃ意味ないでしょ!? 結果的にミルカのおなかがおっきくなったから良かったとはいえ……! あの日から、だんだん僕と遊んでくれなくなって……! きっともう、僕のことなんてどうでもいいんだ!」
そりゃまあ、遊べなくもなるわな。説明だってできるわけがない。
「だから! だから……僕、言っちゃったんだよ! 二人なんてもう知らない、家出してやるって!」
そう言って、チュチュはとてもとても悲しそうに顔を歪めた。どうしてそんなことを言ってしまったんだろう、そんなの本心じゃないのに……ってのが、口に出さなくても雰囲気でわかる。ついつい勢いに任せて言ってしまっただけなのに、取り返しのつかないことをしてしまったと思っているのだろう。
「それでお前、一人でこんなところまで来てたのか……ん? そういやラブラズベリーとどうつながるんだ?」
「……ミルカはね、野イチゴとラズベリーの焼きたてパイが好きだったんだって。どうしてか、今は全然作ってないけど……だから」
「ほぉ。まぁ、ラズベリー好きな人間だったら、ラブラズベリーを受け取って喜ばないわけがないわな」
つまり、なんだ。
家庭環境が複雑なのはこの際考えないとして、チュチュは心にもないことを言ってしまったことに罪悪感を覚えているらしい。勢いに任せて家出したはいいものの、時間が経つにつれてどんどんその気持ちが強くなって……で、仲直りとお詫びを兼ねて、そのミルカって人の好物であるラズベリーを摘むことを思いついたってわけか。
……こんなんでカミナリ賢者が来るわけなくね? 俺のかーちゃんがこの話を聞いたら、笑ってこいつの頭を撫でていると思う。
とはいえ。
「家出して勝手に出てきたのはちょっとまずいな……。こりゃ、さっさとやることやって戻らせないとな」
「え? 勝手に出てきたわけじゃないよ? ペトラにはちゃんと行先を告げてきたもん!」
「……そうなの?」
「うん。ペトラはね、絶対、ぜーったい僕のことを怒らないって約束してくれてるの。その代わり、お母さんにもミルカにもイズミにも言えないことでも、こっそり教えてくれって。だから僕、今回も約束通りちゃーんと言ってきたんだから!」
えへん、と得意そうにチュチュは胸を張る。泣きそうになったり笑ったり得意げになったり、よくぞまぁここまでと思うほどにこいつの表情はころころ変わって、見ていて実に面白い。
……というか、ペトラって人は何なんだ? 聞く限り、親戚の優しいにーちゃんって感じもするが。名前的には女の人だし、叔母さんか誰かかね?
とりあえず、こいつはこいつが思っている以上に家族にめちゃくちゃ愛されているのはわかった。それだけわかれば、とりあえずは十分だ。
「……ま、お望み通りラブラズベリーがよく採れるところまで連れてってやるからさ。ちゃんと家族と仲直りしろよな」
「……うんっ! ゴーシュ、ありがとね!」
そう言って、チュチュはにこーっと笑いながら俺の手を握ってきた。本当に、顔だけはいいからそういうのやるの卑怯だと思う。俺じゃなきゃどうにかなっていたかもわからん。
「……なんかゴーシュ、顔赤くない? お熱あるの?」
「うるせえ、気のせいだ。……それよりまだ少しかかるからな、途中でへばるんじゃねえぞ」
ラブラズベリーの生っている群生地まで、もう少し。出来るだけ長く、この滑らかで温かい感触を感じていたいと思ってしまったのは……きっと、この手を離したらチュチュがどこかへフラフラと行ってしまいそうで心配だったからってだけだ。
「うーん、好きだな、ゴーシュの手! イズミの次くらいにたくましくていい感じかも!」
……うん、きっとそうだ。だから頼む、無駄ににぎにぎと握りしめないでくれ。




