61 事前準備
それから、イズミ達の行動が決まった。
「商売をするには、何にせよ商品が無くてはなりません。こちらについてはウチの布を使うこととしましょう」
「布だけなら俺の方でも用意できる。あー……賢者の魔法で、時間はかかるがいくらでも同じものが手に入るから」
「それは……! もはや反則ではないですか……!」
アルベール達の元々の積み荷である布類に、イズミの家に元々あった──イズミの母が趣味の一環で購入し、それっきりそのままになっていた布類。ちゃんとしたところで買った質の良いものだからか、少々押し入れの匂いが着いているが十分に使用に耐え得るものだ。
当然、こいつもまた一晩経てば元通りになるのはテオのおしめやよだれかけを作った際に実証済みである。
「一日に使える量には限りがあるが……服として仕立てて売るんだろう? だとしたらどのみち、一度にそんなにたくさんは使えないから問題ない、はず」
「ええ。服を仕立てるのはニーナができます……その、針と糸はお借りすることになると思いますが」
「おう、それは問題ない……ミルカさん、頼めるか?」
「もちろん。それに良い機会ですし、私も本格的な服の仕立て方を学ばせてもらおうと思いますわ」
こちらの服の技術を学ぼうとするのだから、基礎的な裁縫技術を教えてもらえるくらいはかまいませんよね──と、ミルカは言外に語っている。
アルベール達からしてみれば、天秤の皿が偏り過ぎて吹っ飛んでいくくらいに釣り合っていない提案。不条理なのではなくて、アルベール達に有利過ぎるのだ。ちょっとどこかに弟子入りすればすぐにわかるようなことと、文字通りこの世界にはまだ存在していない技術とではその価値など比べるまでも無い。
「商品を作るのはミルカさんとニーナさんに頼むとして……俺達は」
「ええ、わかってます……あの自動車をどうにかしたい、ってことでしょう?」
「話が早くて助かるぜ。今の状態じゃ間違いなく目立つから、何か方法を考えないと」
「──見た目を幌馬車っぽく改造しましょう。フレームを作ってそこに布を張れば、かなりそれっぽく見えるようになるはずです。フレームの材料については……」
ちら、とアルベールが石垣の向こうに顔を向けた。
「あの、横転した馬車のそれを切り出して使えばいい」
「いいのか? 車輪の所さえ何とかすればまだ動かせないこともなさそうだが。俺の家の敷地内に入れれば一緒に移動できるし、街まで持っていけば修理できるかもしれないぜ」
「ありがたいお話ですが、この際そうも言っていられません。いま大事なのはそんなことよりも、怪しまれずに商売をして実績を積むことでしょう?」
「そりゃあ、確かに俺たちにとってはそっちの方がありがたいが……」
直せるかもしれない馬車。こっちの価格相場なんてイズミは知る由もないが、自動車と同じ用途として扱われるものだから、値段だってそれ相応……一財産であることは間違いない。馬も失い、財産としてかなりの損害を出してしまっているアルベール達からしてみれば、回収できるものは可能な限り回収したいというのが本音だろう。
「言ったでしょう? 協力させてほしいって。それに馬車を修理することで得られるメリットよりも、材料として扱うことで得られるメリットの方がはるかに大きい……長い目で見れば、間違いなくこっちの方が大きなプラスとなる」
「お、おお……なんかあんた、勢いが凄いというか躊躇いが無いというか……」
「商人なんてそんなものですよ。一度判断したなら、躊躇っちゃいけません。正しい判断が出来ていようとも、行動が遅ければ結局は失敗に繋がるのですから」
もちろん、アルベールに失敗するつもりはさらさらなかった。せっかく助かった命に、明らかに普通ではない状況。ピンチの後にはチャンスが来るとはよく言ったものだが、少々危険な匂いがしながらも、この件は必ず大きな金になる……と、アルベールは予感にも近い確信を得ている。
「商品の準備に、車の改造……やることは見えてきたな。改めて、よろしく頼むよ」
「ええ、こちらこそ。これくらいしかできませんが、これについてはきっちりご要望に応えてみせます」
イズミとアルベールはにっこりと笑って握手する。旅の道連れとして、共犯相手(?)として。様々な思惑の下、二人が協力することが正式に決まった瞬間であった。
▲▽▲▽▲▽▲▽
最初に行ったのは、横転した馬車の運び出しであった。アルベール達が魔物に襲われたのはイズミ達が走っていたところと比べていくらか街道寄りの所だ。普通に街道を通る分には目につかない場所だが、何かの拍子にふとそこから外れたら見えかねない場所でもある。
そんなところに、拠点としての家を置いておくわけにはいかない。車の改造にも時間がかかるのだから、早急に場所を移動する必要があった。
「力仕事ができるのは……俺とペトラさんとアルベールさんくらいか」
「少々時間がかかりますが、こればっかりは仕方ありません。持ち運べるサイズに分解して、一つ一つ回収していくほかないです」
「イズミ殿、どのみち分解するのならアレが使えるんじゃないか?」
「おう、そうだな」
さすがに三人ぽっちでは馬車を丸ごと持ち上げられるわけがない。となればいい感じにバラして持ち運べるサイズにする必要がある。釘やその他もろもろでしっかり組み上げられている馬車を丁寧に解体するのはそれ相応の労力が必要であり、そもそも全体がひしゃげている以上、まともに解体できるかも怪しい。
となれば、無事な所だけ切ってしまうのが道理というものだ。
「なっ……それは……!?」
「えっと、賢者の神器的なやつ……で、いいのか?」
「田舎御用達って意味では神器かもなぁ。……ようやく、本来の用途で使ってやれそうだぜ」
ヂィィィ、と絶え間なく鳴り響く特徴的な駆動音。イズミが持ち出したのはチェーンソーだ。ペトラはすでに見慣れている……実際に使ったこともあるので動じていないが、アルベールの方は目が飛び出さんばかりに驚いている。
「そぅら、危ないから離れてろよ……っと」
軽く刃を当てるだけで、馬車のフレームから切りくずが噴き出していく。のこぎりだったらどれだけかかるかわからない作業も、チェーンソーであればあっという間に、大した労力も無く終わってしまう。取扱と耳障りな音にさえ眼を瞑れば、これほど便利なものは無い。
「あ、あんな短い時間で切ってしまった……!? なんという切れ味か……!」
「これで音がしなくてもっと軽ければ、武器として一級品だったと思うんだけどな」
「武器じゃなくって、どっちかって言うと農具の類だぞ。荒く扱うとすぐ壊れちまうしな」
「いや……いやいや……ただの農具がそんな威力出せるわけないでしょう……!?」
三十分もかからずに、馬車の解体は終わる。オシャカになった車輪付近はそのまま放置して、元より頑丈に作られていたフレーム部分と幌の無事だった部分だけをイズミ達は三人掛かりで家へと運び込んだ。
「は、はは……一番時間がかかると思っていた解体が、こんなあっという間に……」
「チェーンソー様様だな。……それより、さっさと移動しよう。なるべく森側の、あんまり目立たないところに行かないと」
「運転するのはイズミ殿として……どうする?」
汗をぬぐったペトラが、そこはかとなく意味ありげな視線をイズミに送ってきた。
無論、イズミとてバカじゃない。ペトラの発した「どうする」の意味を正確に理解している。
「俺とペトラさんと、アルベールさんでいこう。アルベールさんならこの辺の地理も少しはわかるだろうし、このメンバーなら多少の戦闘があっても問題ないだろ」
「……と、いうわけだ。喜べアルベール、お前があの馬無し馬車に乗る商人第一号だぞ」
「あ、有りがたき幸せ……なんですよね?」
「そりゃそうだ。なんてったって賢者の英知が詰まったものだからな。ウチの坊ちゃんはアレに乗るのをとても楽しみにしているくらいだ」
イズミとペトラとアルベールが自動車に乗って移動するということは、つまりミルカと奥様、ニーナが家に残ることになる。ニーナ一人であれば、万が一があってもミルカと奥様で十分制圧可能だろう……という見解は、イズミとペトラで一致していた。もちろん、それを口に出さないだけの良識が二人にはある。
「それでしたらイズミさん。移動している間に、アルベールさんとニーナさんの寝床を整えておこうかと思いますが、いかがいたしましょうか?」
「む……そうだな、その問題があったか」
ミルカから言われて、イズミも気づいた。
さすがに、出会ったばかりの人間……それも、価値観が異世界スタンダードな人間をそうホイホイ家に上げて寝泊まりさせていいものなのか。敷地内という絶対安全領域に入れている段階で今更のような気もするが、生活空間というプライベートについてはやはり思わないことが無いことも無い。
ミルカの時は、そんなことを言ってる状況じゃなかった。奥様とペトラの時もまた状況が状況だったし、ミルカの身内ということで信頼性もあった。しかし今回は、そういうわけではない。
「あ……この敷地内なら魔物に怯える必要はないのでしょう? 適当に軒先か、あの車庫でも貸していただければ」
「それはそれで俺の良心が痛むんだよなあ……客人を外で寝かせるってのはちょっと……」
「元々野営していましたし、幸いにも毛布の類は無事でしたから。雨風をしのげるだけでも十分です」
「うーん……せめてテントくらいは……あっ!」
自分で言った言葉で、イズミは思い出す。
「そうだ……離れを使ってもらおうか。ちょっとごちゃごちゃモノが置いてあって物置になっちまっているが、整理すれば十分使えるぞ」
庭の片隅にある離れ。テントやバーベキュー道具など、普段は使わないものなどを入れておく半ば物置と化してしまったそこ。風呂こそないものの、電気も水も通っているので普通に寝泊まりすることは十分に可能である。
「悪いがミルカさん、離れの整理と簡単な掃除を頼む。要らなさそうなものは適当なところに出してもらって構わない。ついでにニーナさんにある程度家のことを教えておいてくれ。諸々の判断は全部任せるから」
「お任せください」
「ほ、本当に良いんですか? 私たちのためにわざわざそんな……」
「良いんだよ。お互いずっと一緒に過ごすんじゃ息が詰まるだろ? 母屋の部屋数もちょっと足りないしな。これから一緒にやっていく仲間なんだ、これくらいは任せてくれよ」
「……本当に、本当にありがとうございます」
「よっしゃ、そうと決まればさっそく──」
「あ、あの、イズミ様!」
車に向かおうとしたイズミを、奥様が止めた。
「どうしたよ、奥様?」
「その……わ、私は何をすればいいでしょう? お手伝いでも何でも、言付けてくださいな」
「ふむ」
外を移動するのはイズミとペトラ、アルベールの役目。家のことや衣服の製作についてはミルカとニーナの役目。
となれば、残された奥様の役目は。
「テオをうんと甘やかしてくれ……そうだ、そろそろお昼寝の時間だろう? 俺たちの中で一番大事なことなんだから、しっかり頼むぜ?」
奥様の腕の中。おねむの時間が近づいてきたテオは、うつらうつらと舟をこいでいた。
▲▽▲▽▲▽▲▽
「……と、この家の説明はこんなものでしょうか。離れについても意外と何とかなりましたね」
「ええ、もう……! まさかこんなに立派なものだとは……!」
イズミ達が来るまで発っていってしばらく。離れの整理整頓が終了し、寝床もきっちり整えることまで終わらせることが出来て、ミルカとニーナはふうと息をついた。
「火も使わずに明かりが点いて、水がいくらでも出てくる……さすがは賢者様の秘術ですね」
「私も最初に見た時はずいぶん驚かされましたものですよ。……普通の家とは勝手が違い過ぎて落ち着かないかもしれませんが、そこはご了承くださいね」
「いえいえ! むしろワクワクしてきますわ!」
見るからに善性の人間なんだな、というのがニーナに対するミルカの第一印象だった。素直で明るく、いつだってにこにこと笑顔を絶やさない。場にいるだけで周りの空気が明るくなるような、そんな存在。きっと世の中の殿方はこういう女性を好むのだろうと、女のミルカにでさえそう思わせるほどの朗らかな雰囲気。
「たしか……ニーナさんのご実家が仕立て屋なんでしたっけ?」
「ええ! アルベールとはその関係で知り合って、そのまま私が彼にくっついて行商人になった形ですわ!」
「それはそれは……何とも奥様が喜びそうなお話ですね」
軽く雑談をしながら、ミルカはこの後の予定を考える。具体的には、今晩の夕食のメニューだ。材料自体は不足しないだろうが、テオを抜かしても六人分ともなると一時にすべてを作るのはちょっと難しくなる可能性がある。
「机も四人掛けですし……リビングの机も使いますかね。ニーナさん、お夕飯に何か食べたいものとかありますか?」
「あっ! そこまで気を使っていただくわけには……!」
「いいんですよ、遠慮なさらずとも。どのみちメニューはこれから考える所でしたし、こちらとしても最初くらいは好きなもので迎えたいですから」
おそらくイズミならそう言うだろうと確信して、ミルカはにっこりと笑う。
「その代わり、私もニーナさんから色々諸々手ほどきを受けたいと思っていますから。一応、一般的な家庭のそれよりかは上の技術を持ち合わせているつもりではありますが、さすがにプロのそれとは比べられないので」
「私でよければ、いくらでも! こちらこそ、ミルカさんたちの着ている服について教えてもらえるわけですから!」
秘伝の技術とか、ないんだろうか……とミルカはニーナのことが逆に心配になってきた。技術というのは基本的に一子相伝だからこそ価値が出るわけで、広く広まれば広まるほど自分たちの食い扶持が減ってしまうことに繋がる。それ故に、職人というのは長く見習いを勤め上げた弟子にしかその技を伝授しないというのを、ミルカは人伝に聞いたことがあった。
「ああ、そうだ。実は折り入ってニーナさんに頼みがあるんです」
「え……私にですか?」
「ええ、あなたにです。……殿方のいない今しか頼めないことなんです」
自分も、奥様も。ペトラはむしろ動きやすくていいと開きなって……いや、それでも片方だけでは意味がないと、ミルカはイズミに助けられてから抱いていたたった一つの不満をニーナに打ち明けた。
「諸々の事情があって、この家には女性用の下着がありません。……この意味、わかりますね?」
「あ……そういう……」
ニーナの視線が、ミルカの首元の更に下へと移動する。
「それは、その……そういうあれです?」
「どんな想像しているかはわかりませんが、普通に実用的な奴ですよ?」
「じ、実用的!?」
「ああ……ダメだこの人、良くも悪くも素直過ぎる……」
ちゃんと説明しないと伝わらないだろうと踏んだミルカは、幼い子に言い聞かせるようにして語りだした。
「ここはあくまでイズミさんの家ですから。流れ込んだ私たちの衣服なんてあるはずがないんです。今着ているのは、イズミさんのお母様の服を仕立て直したものなのですよ」
サイズから、お母様の身長は奥様と同じくらいであったと思われます……とミルカが続けたところで、ニーナが凄く納得した様子で頷いた。
「たしかに、そう言われてみるとちょっと違和感がありましたね! 元々そういうデザインなのかもって思っていましたけれど」
「あら……さすがにプロにはわかってしまいますか。……話を戻しましょう。そんなわけで衣類については問題ないのですが、さすがに下着については……」
「あー……さすがに少し使いづらいですよね……サイズも結構ピンキリですし」
「ええ、まさしくその通りです。なので、下については……その、男性もののそれを使っていまして。上についてもこう、乳帯代わりにぎゅっとやっているのが現状です」
「ミルカさん……苦労されていたんですね……!」
「ええ……しかもなまじ履き心地が悪くないだけに、元に戻れなさそうなのが何よりも怖い……!」
「……あれ? でも、巫女様……じゃなくって、奥様の方は問題ないのでは? イズミさんのお母様の服、そのまま着られたんですよね?」
使いづらくはあるが、使えないことも無い。ミルカは物理的な理由でどう頑張っても難しいだろうが、同じくらいの体型である奥様であれば問題なかったのではないか……と、ともすれば大変失礼な考えをニーナは口にした。
「まさに、そこです。……ニーナさん、もしその下着が、とても立派で細かい装飾が施されたものであったらどうしますか? 明らかにこちらのそれとは一線を画していて、見るからに高級品だったら?」
「え゛」
「言っておきますが、普通の下着でそうなのです。残っていたものすべて、色合いこそ異なるもののそうなのです。……イズミさんの国では、我々では想像がつかないほどにその辺も進んでいます。私程度の知識じゃ、構造を把握することはおろか、仕立て直すことも無理です。……そんな下着を、借りものとして使えますか?」
「む、無理です……」
「なので、早急にこちらの下着が欲しいのです。針も糸も、必要なものはなんだって揃えます。もしお望みなら、賢者の道具の使い方さえあなたに教えることもやぶさかではありません。それほどまでに……」
ミルカは、切実だった。
「──私は、ちゃんとした下着が欲しい」
こんなの、いくらなんでもイズミに言えるわけがない。遠慮とかそういうのではなく、男と女として絶対に無理だ。仕立て屋としての知識があり、同性であるニーナがやってきてくれたのは、実はミルカにとってもかなり嬉しいことだったのである。
「そ、そんなにすごいやつなんです……?」
「ええ、本当にすごいです。あとで実物をお見せしようとは思いますが……まさか、あれだけ立派なものを普段使いされているとは。正直貴族でもあれはないですよ」
「普段使いでそこまでだなんて……勝負するときのはもっとすごい奴ってこと……?」
「ああ……もうすごいですよホント。布面積がないものから、布面積があるのにすんごく過激なものまで。よくぞまああんなにも扇情的なものを考え付いたものだと思います。女の私でさえ見た時は面食らいましたから」
「み、見たことあるんですかっ!?」
「……じ、事故で少しだけ! 決して、決して自分から見たわけではありませんからね!?」
「…………へぇ!」
「なんですか、その意味ありげな優しい笑顔は……きゃっ!?」
凄まじい笑顔で、ニーナはミルカの手を取った。
「ミルカさん、私にお任せください! 必ずやその技術、知識をものにしてミルカさんにも合うサイズのものを作って見せます! ミルカさんだけでなく、奥様達のも……上も下も、きっちり全部作れるようにして見せます!」
「は、はあ……」
「もちろん、過激な奴も!」
「そ、そっちはいいですッ!!」
「何言ってるんですか! そういうのは本当に良いお値段で……少ない布で高く売れるんですよ?」
「む……た、たしかに……」
「その中で、ちょーっと試作したものを試着したり、自分たちで使うことがあるかもってだけです。売ってる人間が商品のことを知らないだなんて話になりませんからね!」
「つ、使うって……あ、あなた……!」
「大丈夫、ミルカさんの気持ちはわかっていますから!」
正直ちょっと失敗したかもな、とミルカは思ってしまった。イズミはイズミでアルベールのことを躊躇いがなく勢いが凄いと表現したが、ニーナの方はそれ以上である。村娘特有のこのノリと勢いは、ミルカにも奥様にも持ち合わせていないものだ。そして、ミルカの周りでみればかなり珍しいタイプでもある。
「な、なんでそんなに積極的なんです……?」
「そりゃあもちろん、女として可愛い下着には興味がありますし、商人として売れそうな商品に興味がないわけありません。それに……」
「それに?」
ミルカの手を握ったまま、ニーナはキラキラとした瞳で答えた。
「内緒で行動する巫女様と賢者様に協力するだなんて、自分が物語の登場人物になったかのようでワクワクするじゃないですか! 私は何があっても、皆さんの味方ですからね!」
勝者を高らかに宣言するように、ニーナはミルカの腕ごと自らの片腕を大きく突き上げた。
「さぁ、バリバリ働いて、商品をいっぱい、いーっぱい作りましょう!」
「お、おー……」
ああ、この人本当に純真で遠慮なんてする必要ないんだな──と、ミルカが認識を確かにした瞬間であった。




