39 行きはよいよい、帰りは
「うぉ……こんなふうに、なっていたのか……」
しばらく休憩した後、三人は塔から脱出すべくその部屋を後にすることとなった。結局のところいつまでも部屋で話していたところで進展はないし、元より塔の脱出は必須である。奥様を連れて魔封じの無い塔の敷地に出ることさえできれば、今度こそ本当にすべてが解決する……となれば、さっさとそこから出ない道理はない。
「あれ、何度か脱出を試みたって言ってなかったか?」
「試みはしたが、ほぼ真っ暗でな。……ほら、そこの曲がり角を越えたところで、ようやく向こうの階段の窓の明かりが見えるくらいだろう?」
「ああ……むしろ、真っ暗でよくぞまああそこまで……」
「必死だったからな」
奥様もペトラも、恰好は例の囚人服と思しき貫頭衣のままだ。しかしペトラは、その片手にイズミから借り受けた草刈り鎌を装備していて、そして奥様はイズミが持っていた松明を掲げている。
先頭にはライトと鉈を持ったイズミ、真ん中に松明を掲げた奥様、そして殿に草刈り鎌を構えたペトラ……と、そういう布陣であった。
「……う」
「あー……奥様もペトラさんも、なるべく見ないほうがいい。女子供が見るには刺激の強すぎるものが、そこらに」
基本的に、イズミはフロアの燭台という燭台に明かりをつけまくってこの塔を登ってきた。わずかな闇でさえ勘弁願いたいとばかりに、フロアの闇をすべて払う勢いでひたすらに明かりを灯して登ってきた。
その結果として、ペトラが脱出をあきらめる最大の原因となった【真っ暗闇】は解消され、在りし日の如く……とまではいかないものの、塔の内部には人が住んでいてもおかしくない程度には明かりが満ちている。この状態であれば、誰もここが罪人の流刑地だとか、古びた塔の中だとは思わないことだろう。
しかしながら、明かりを灯したことによって文字通り死屍累々と横たわる死体の姿が露わになってしまっている。それは元々ここにあったものはもちろん、つい先ほどイズミが丁寧にあの世に送り返した成り立てほやほや(?)の死体もあった。元々死体だった故に思ったほどは血だのなんだのが飛び散ってはいないが、ショッキングな光景であることには違いない。
「私は大丈夫だよ。こう見えて、護衛だったから……でも、奥様は」
「そっか……」
「……私も、大丈夫です。ちょっとクラっとしたけど、でも、それだけ。子供じゃありませんし、変なお気遣いは無用ですわ」
「……」
そんな言葉をそのまま信じるほど、イズミは子供じゃない。ペトラの方は言葉通りホラー映画も真っ青なその光景を見ても多少眉をひそめただけで平然としているが、奥様ははっきりとわかるほどに顔が青くなっているし、微妙にカタカタと震えてもいる。後ろを見なくとも、松明の明かりが必要以上に揺らめいているからわかるのだ。
「……さっさと降りちまおう。ペトラさん、一応後ろは気を付けて」
「ああ」
進む。
奥様達が閉じ込められていたのは最上階……おそらく、七階。そこだけ階段が登りきったところに設えられていた部屋で、七階はその部屋しかない。イズミ達が今歩いているのは六階で、幸いなことにここでは動く死体の襲撃も無かった。
「……む」
──オオオ、オ
問題があったのは、五階に降りたところだった。
「動く死体……!」
「ああ……なんて哀れな……!」
廊下の向こうの方。目玉のない眼窩がしっかりこちらを見据え、半分方腐って崩れている左腕を前に突き出しながら、あまりにも憐れで悍ましい亡者がイズミ達の方へと近づいてきている。
燭台に照らされたその顔には表情なんて一切ない。しかし、奥様は彼の者を見て一粒の涙を流した。
「ちっ……全部始末したと思ったのに、まだいやがったか……!」
「来るぞ……! どうする、二人で迎え撃つか……!?」
「いや、あれなら……あれこそ、俺一人でやったほうがいい。ペトラさんは後ろを警戒して」
生者の中に宿る命の炎が欲しくて欲しくてたまらないのだろう。そいつはかつて同胞であったかもしれない足元のそれを何のためらいもなく踏みつぶし、わき目も振らず──そもそも物理的に目が無い──こちらへとやってきて。
「オラァッ!」
──イズミの渾身の一撃が、モロに顔面に直撃した。
「この野郎! この野郎ッ! このッ! このこのッ!」
間髪入れず、二撃、三撃とイズミは鉈を叩き込んでいく。武術を齧ったわけでも何でもない、酷く原始的で力任せな動き。顔をグチャグチャに潰した後は首をすっ飛ばし、それでなおぴくぴく動く手足を両断して、止めとばかりにもぞもぞ動く胴体の真ん中よりやや上──要は、心臓があったであろう部分を思いきり踏みつぶす。
──ぴしゃって、茶色くなったそれが壁に染みを作った。
「……ふう」
「……」
「……」
動く死体は完全に沈黙した。
奥様達も完全に沈黙している。
「……どうした? ここまでやれば、さすがにこいつらも動かない……と、思う」
「あ、ああ……うん、そうだな。きっとそうだと思うよ」
「……なんか歯切れが悪いな?」
「いえ……その、思ったよりも……ワイルドな方だったんだな、って……」
獣のように雄たけびを上げ、狂ったように鉈を振るって執拗に相手を痛めつける。ありていに言って、まっとうな人間の戦い方ではない──狂人の戦い方のそれだろう。どんなに言葉を取り繕っても、【だいぶヤバめの殺人鬼】くらいがせいぜいだろうか。
今までイズミはずっと一人で戦ってきていた。だから、その戦い方を指摘する人なんて誰もいなかったのだ。
「あー……いや、元々俺の世界にはこんな化け物なんていなくて、俺は戦ったことのない一般市民だったからさ。初めてこっちにやってきて、変な化け物に襲われて……死に物狂いでなんとか倒したんだけど、その時の癖が……」
「ああ、うん。ちょっとびっくりしただけで、悪いことじゃないさ。魔物の中には首を落としても生きてるやつもいるし、そうでなくとも生き物というのは意外と強い。明らかな致命傷でも最後の一矢を報いてくる奴なんて腐るほどいる。きっちり止めを刺すのは正しいことだよ。ただ……」
「ただ?」
「その、あまり声を上げないほうがいい……かも? 誤解を招くかもしれないし、そうでなくとも他の獣を呼び寄せる可能性が」
「……そうだな!?」
「……魔物がいない世界に住んでいたというのは、本当みたいね」
ただ、それにしてはとペトラが首を傾げた。
「その口ぶりだと魔物との闘いはそんなに経験が無いようだが……それにしては、ずいぶんと勇ましい動きだったな。まるで傷つくのさえ厭わないような。お節介かもしれないが、これでも一応剣の先輩として、もう少し抑えることを提案するよ」
「ああ、それについては……割と特殊な事情が」
「特殊な事情?」
「ああ……っと、また来たぞ」
誂えたように、さらに通路の向こうから二体の動く死体がやってきた。外にいた連中が中に入ってきたのか、それとも単純にイズミが見逃した部屋の中にでもいたのか。あるいは、行きの時は普通の死体だったそれが動くようになったのかもしれない。
いずれにせよ、やることはひとつだ。
「二体……左は私がやろう。右はイズミ殿が──」
「いいや、二体とも俺で十分」
「おい!?」
すたすたすた、とイズミは前へ進む。
そして、完全に無防備な──イズミのことなんて見えていない動く死体の顔面に、全力のフルスウィングを叩き込んだ。
「なっ──!?」
「うそ……!? なんで、襲われないの……!?」
「こいつら、魔法の匂いで敵を感知しているらしい。……ほら、俺には魔法の匂いが無いって言っただろう?」
「……! つまり、イズミ殿はこいつらに気づかれない……! 気づかれないから、襲われない……!」
「そう。襲われないから、好きなだけ攻撃し放題。どうせこいつら、目も耳もまともに動いてないんだ。たぶん、俺に攻撃されたってのもわかっていない。しかも、今回は」
「……魔法の匂いを発している、私たちに夢中になっている。無防備で隙だらけのところを、全力で攻撃すればいい」
イズミがこの塔を登ってきたときも、動く死体とは戦闘とも呼べぬそれがあった。しかし、変にうろついたり通路を塞いでいたりしてくれていたおかげで、ただサンドバッグにするだけとはいえそれなりにやりづらかったのもまた事実。
しかし今回は、言い方は失礼だが誘蛾灯の役割を果たす──魔力の匂いを放つ、奥様とペトラがいる。動く死体がそれに夢中になっているおかげで、正真正銘無防備な背中をイズミは遠慮なく攻撃することができるのだ。
「この感じだと……どうも、行きで俺が取りこぼした奴が結構いるみたいだ。今は明るいし、不意打ちの可能性も無いとは思うが……基本的に、俺が少し前を先行する」
「しかし……私たちのせいで、動く死体が誘われているのだとしたら……イズミ殿の負担が大きいのでは?」
「先行するって言ったって、せいぜいがこの距離さ。単純に、万が一に備えてなるべく奥様達との距離を取っておきたいってだけ。離れたところで早めに処理できるに越したことはないし、どうせ俺、襲われないし」
「む……いや、そうだな。そうしてもらえると、助かる」
「ええ……本当に、ありがとう」
そうと決まれば話は早い。早速その陣形で三人はずんずんと塔の中を進んでいく。
やはりというか、イズミが取りこぼしたか、あるいは奥様達の魔力の匂いに惹かれて新たに表れた動く死体はそれなりにいた。ゴキブリやネズミのように……と言えるほどではないが、それでもしっかり駆逐し尽くしたはずの部屋から出てきたときなんて、イズミもかなり肝が冷えた。
しかし、最初の時と違って今はすでにフロア全体に明かりが灯っている。不意打ちなんてされるはずがないし、奥様が掲げている松明もある。数回ほど後ろの方から襲われたこともあったが、それはペトラが護衛の名にふさわしく見事に始末してみせていた。
「おお……なんか、すごく手慣れている感じがするな……!」
「そりゃ、護衛だからな。武器もあって、視界も利いているのなら……この程度の相手に後れを取るわけにはいかないよ」
聞けば、普段ペトラが使っている武器は細めの長剣なのだという。草刈り鎌とは似ても似つかない形状だが、そこは剣士と言うべきか、ある程度のものならばどれもそこそこ程度には扱えるらしい。今まで動く死体に挑むことができなかったのは、あくまで無手であることと、視界の全く聞かない暗闇で複数を相手どらなくてならないからだった……とのことであった。
「しかし、そうなると……この塔自体がなかなかエグい造りになってるのな」
「ええ……送られてきた段階で、武器は取り上げられています。魔法なら杖が無くとも発動できますが、ここは敷地内に魔封じがかかっていますし……。高さが高さなので、窓から逃げることもできません」
「助かるには、武器もない、魔法も使えない状態で動く死体が何匹もいる真っ暗闇を突っ切れ……か。そりゃ無理な話だ」
「しかも、仮に出られたところで帰らずの森の真ん中とはな……」
「普通なら、助けに来る人もいない……場所さえわからないってか。案外、ここにいる動く死体って……」
「……たぶん、そういうことなのでしょう。罪人を送れば送るだけ、どんどんここの機能は強化される。……その割には、あの部屋だけ安全地帯であったり、わずかで粗末なものとはいえ食事が届いたりしたのが不思議ではありましたが」
「このシステムを管理しているのが、すげえ性格悪い奴だってだけじゃないかなァ」
「……考えたくないな」
四階、三階。決して簡単な道のりではないが、しかし順調にイズミ達は塔を下っている。最初こそ会話も必要最低限、常にピリピリと緊張感をもって歩を進めていたが、このころになるともう、歩きながらでも──それこそ、戦闘中でさえ冷静に話し合う余裕ができていた。
「……なんか、思った以上に順調だな?」
「む、むう……普通なら、こう簡単にはいかない設計だと思うんだが……」
「予想以上に、イズミさんがこの塔の攻略と相性がよかったってことですかね……? だから、色々と想定外が起きつつある……?」
想像していたような試練や困難はない。【奥様の元に鍵をもってたどり着け】というミッションも、【奥様を魔封じの外へ連れ出せ】という新たなミッションも、滞りなく達成できそうな感じがひしひしとする。
襲ってくる敵なんて、それこそ動く死体くらいしかいないのだ。あとはせいぜいが壁の隙間なんかにいる(おそらく)毒蛇くらいだが、それはこちらからちょっかいを出さない限りは襲ってこないし、元来臆病な性格なのか通路を塞ぐような真似もしていない。
「……これは、独り言だけどさ」
「うん?」
「さっきからどうも……順調すぎるから予想外だとか、上手くいきすぎているから当初の予定と違う……みたいなニュアンスのあれこれを聞いている気がするんだが」
「……」
「わからないなりに【何か】をわかっていて、俺がみんなの期待以上の役割を果たしているおかげで、【それ】が上手くいってなかったり……するのか?」
「……」
「もちろん、独り言だ」
つまるところ、都合が悪ければ答えてもいいし、こっちもなんとなくそれくらいまでは察しているのだぞ……ひいては、こっちはそういう風に捉えているんだぞ、という意思表示。答えが返って来ても来なくても、イズミにとってはそれほど影響のないことで、しかしここまで順調ならそろそろ種明かしの一つくらいはしてくれてもいいんじゃないか……って、そんな気持ちの表れ。
返ってきたのは、意外な言葉だった。
「……こちらも、独り言ですが」
「奥様……! い、良いのですか……?」
「独り言ですよ?」
やっぱり大人は本音と建前が大事なんだなと、イズミは場違いにもそんなことを思った。
「水面に映る月……あるいは、水底に儚く揺蕩う月。あなたは今、そんな月が浮かぶ池のほとりにいる。あなたはどうしても、池の真ん中に浮かぶそれを間近で見てみたい」
「……」
「ええ、【見えて】いるのです。【わかって】いるのです。そこにそれがあると、あなたはそこからしっかり認識しているのです。──じゃあ、あとは見に行くだけ」
「……ふむ。さっさと見に行けばいい……って思うのが素人なんだろうな」
「ふふ……それこそが人というものですよ。でも……慌てて近づいたら、水面が波打ってしまいます。小さな波紋が大きな波紋となって……ああ、気づけば、そこにあったはずの月が消えています」
「……」
「水底にあったかもしれないそれは……慌てて来たせいで、水中に土が舞って……ううん、中の泥に飲み込まれてしまったのかも」
「……水の中で歩くと、意外と土を巻き上げるもんな。底が泥だったってんなら、近づくときの振動でズブズブ沈み込むかもしれない」
「いずれにせよ……ゆっくり近づけば見えたはずのそれは、見えなくなってしまいました。どこかへ消えてしまいました。水面に映る月なんて、ちょっとしたことで揺らいで見えなくなるような、そんな儚い存在です。早く動きすぎても、遅く慎重になりすぎても、ダメなんですよ」
「……」
「そもそも……見えていたのは、本当に月だったのかしら? もしかしたら、純白の亀の甲羅だったのかもしれないし、あのアウロニアの白花だったのかもしれない。女神さまが落としたコインっていうのも有り得るかも」
「いいね、なんか夢が広がる単語ばかりだ」
「【そう】なのですよ。私たちは池のほとりでそれを【見ただけ】。それの正体までは、実際にそれを手に取ってみるまではわからない……それが難解であるものなら、なおさら」
「……ふむ」
「そして……池の水が透明であるとも限りません。その水は、とても濃くて、深い。透明……透明なのかしら? 上手く表現できないけれど……クリアなのに、私たちにとって見通しがとても悪い。いえ、私たちの目じゃ捉えきれないってだけ? こんな水、今まで見たことが無いくらいに……ええ、すごく異質な水なの」
「ほほぉ……」
「もう一つ付け加えると」
「ん?」
「池に映ったそれを教えてくれる可愛い妖精さん、今はちょっと目を患っているみたいなの」
「……そりゃあ、一刻も早くお医者様に診せないとな」
「そういうことです」
なにがなんだかよくはわからない。わからないが、今まで以上に大量で、そしてあいまいな情報を奥様はくれた。結局何かの例えや暗喩であろうことはわかるのだが、それが何を指しているのかはイズミの頭ではさっぱりである。
とりあえず、【ゆっくり】、【順当に物事を運ぶ】のが肝要であるのだろう。奥様があれ以上何も言わないところを鑑みるに、今現在イズミが理解して良いのはおそらくここまでということのはずなのだ。
「独り言の追加だけど」
「あら?」
「妖精さんが誰だかは知らないが、妖精と思えるほどに可愛い奴なら知ってるぜ。たぶん、妖精さんと目元がそっくりで、笑った顔もそっくりだ。……まぁ、そいつはちょっと泣き虫かもだけど」
「……」
「俺としては月とかどうでもいいんだ。ただ、妖精みたいに可愛いそいつを、妖精さんに会わせたらどうなるか……それだけが、気になる」
「……きっと、妖精さんは我が事のように喜ぶと思います」
「ああ、俺もそう思う。そして、そんな笑った妖精さんたちと一緒に家に帰って……あったかい飯食ってあったかい布団で寝るのが今の俺の願いだよ──さぁ、ようやくこれでおしまいだ」
一階。とうとう、イズミたちは塔の一番下まで降りることができた。大きなホールとなっているここまでくれば、通路の影や空き部屋からの動く死体の急襲に怯える必要はない。すでにすぐ向こうに出口の明るい光が差し込んでいるし、あとは何とかして外の動く死体共を撒いて森に逃げ込むだけである。
「いったんミルカさんとも話をしておきたいな……幸いにも、日はまだまだ高いし、作戦を練る時間は……ん?」
違和感。
一度来た事のある場所のはずなのに、まるで初めて来たかのように……景色に見覚えが無い。いや、一つ一つの部分的なそれは見覚えがあるのだが、全体としての印象が妙に異なるのだ。イズミがもう少し雑学を嗜む人間であれば、ジャメヴと表現したことだろう。
「なんだ……? 明るくなったから……? 違う、何かの配置が変わった……?」
獣が入り込んで暴れたか、あるいは動く死体が入り込んで暴れたか。明らかに何かが違うのに、それが何かわからない。気にしなくてもいいようなことのはずなのに、何だ妙に気持ち悪く、例えられない胸騒ぎがする。
──ガ、ギ、ゴ
「あ、ああ……!?」
「ん?」
パクパク、とペトラと奥様が口を動かしている。
「なん、だ、アレは……!?」
「え……なんッ!?」
振り向いて、イズミは絶句した。
──ゴ、ゴ、ォォォ!
イズミが覚えた違和感。
階段を降り切ったところから、塔の出口の光なんて見えるわけが無いのだ。だって、階段と出口の間、言い換えればほとんど何もないこのフロアのど真ん中には。
「なん、だよコレ……」
巨石の武器を振りあげる、大きな騎士鎧がいる。来たときはピクリとも動かなかったそいつが、明確な敵対の意志を持ってイズミ達の前に立ちふさがっている。
しかも、悪いことに。
「はは……どうせ見掛け倒しだろ? そうだ、お前もペトラさんたちの魔力に反応したってオチだな」
「バカっ! ぼさっとしてないで動けっ!」
「あ……?」
イズミの面前に迫る、巨大な石の剣。
──そいつは明らかに、イズミのことを認識していた。




