入国
「はい、次」
門番が次々、手続きを行っていく。
とうとう、次が二人の順番というところまでやってきた。二人は、ついに入れることに、心を躍らせて待つ。しかし、しばらく待っても順番が来ない。どうやら、前の人
で時間がかかっているようだ。二人の前は、人族の商人だろうか。二十代前半のふくよかな体つきで、地味な格好の男が、馬車を引いている。荷が多く、その確認に時間がかかっている。
「長いな…」
「時間かかってるね」
ソラとレイは早く入りたい気持ちを抑え、そわそわする。
そして、ついに待ちきれなくなり、声をかける。
「あのー、まだですか?」
レイの言葉に門番が二人の方を向く。
「ああ、この人の荷の確認に時間がかかっているんだ、もう少し待ってくれないか」
「わかりました」
「ああ」
レイとソラはしぶしぶ了解し、引き下がる。
すると、「これは何だ!」と一人の門番の叫び声が聞こえる。
二人は声がした方向を向くと、商人が異常なくらい厳重に包装された本を抱えている。
「これは…大事なものなんです」
商人が必死に訴える。
「いいから、見せろ!」
「怪しいものじゃないのか!」
門番二人に詰め寄られて、商人はさらに萎縮する。
その様子を見ていたレイがあることに気付く。
「ソラ、あの本、グランファミリアの本じゃないかな?」
「ん、どれどれ」
ソラは持っていた麻袋をあさり、グランファミリアの本を出す。
その本は、商人の持つ本と全く同じものだ。
「同じだな」
「やっぱり!」
レイはソラから本を受け取り、門番のもとへ行く。
「あの、その本はグランファミリアについての本で僕たちも持ってます。見てください」
レイが門番に本を差し出す。
門番が本を見比べる。
「確かに、同じものだな」
「この二人に感謝するんだな」
なんとか商人への疑いがはれたようで、商人が入国する。
その後、ソラとレイも手続きを済ませて入国する。
すると、例の商人が勢いよく走りよってくる。
「先程はありがとうございました」
商人は頭を下げ、感謝の意を示す。
「いや、いいよ」
「入れて良かったですね」
二人は頭を上げてくださいと促す。
「僕はトイといいます。まさか、あの本を持っている人に出会えるとは思いませんでした」
本を大事そうに取り出す。
「大事になさってるんですね」
レイが聞く。
「それはもちろん!幼い頃から憧れてきたので。でも、残念ながら僕には剣の才能が無かったみたいで、ダメでした」
トイは、ハハと笑い頭を掻く。
「そうなのか…」
「そうなんですね…」
ソラとレイはいたたまれない気持ちになる。
「でも、諦めきれなくてこうして商人として、戦闘ファミリアのみなさんのお役に立てればと思ってやったています」
少し照れたようにトイが笑う。そしてさらに続ける。
「助けてもらったことですし、これも何かの縁ということで、僕に協力できることがあったら相談してください!お二人には頑張ってもらいたいので!」
「そうか、それじゃ何かあったら頼むよ」
「そのときはよろしくお願いします。ところでお名前は…」
「ああ、俺はソラでこっちはレイだ」
トイは両手で、ソラは右手レイは左手で、握手を交わす。
「あ、僕これから商談があるんでした。それでは、頑張ってくださいねー」
トイはそう言い残し、走ってその場を立ち去る。少し進んでから振り返り、手を大きく振ると、再び走り出す。
二人は、その背中を見て笑う。
「面白いやつだったな」
「そうだね」