依頼二日目
次の日も二人は外に来ていた。今日はレイが選んだ鉱石採取の依頼だ。昨日は森だったのに対し、今日は森の中にある洞窟に向かう。
洞窟に着き、二人は手に持った松明に火を点け、中に入る。洞窟の中はキラキラと光る鉱石が松明の光を反射して、神秘的な空間になっている。大人数でも通れそうなくらい広いため、圧迫感はそこまで感じない。そこを二人は奥を目指し進んでいく。
しばらく歩いて、様々な鉱石は見あたるが、目当てのものは見つからない。
「どこにあるんだよ」
ソラがやけになり、落ちている石をおもいっきり蹴る。蹴った石が壁に当たる。すると、ゴゴゴゴと大きな音を立て、当たったところから壁が崩れる。砂煙にソラが呑み込まれる。
「ソラっ、大丈夫?」
砂煙を見て、レイが叫ぶ。
「大丈夫だ」
後ろからソラの声が聞こえる。レイは振り返る。すると、ソラが汗を拭いて立っていた。
「よかった、心配したよ」
「崩れたときはあせったけどな。なんとか瞬間移動で回避できた」
レイがソラの無事を確認して笑い、ソラも笑って返す。
「崩れたところ見てみろよ」
ソラが崩れたところを指差す。壁があった場所の奥に、とても広い空間が広がっている。二人は恐る恐る足を進める。そこは、いままでの洞窟の雰囲気とは違い、壁には文字にも絵にも見えるものが一面に描かれている。また、奥の方にはうっすらと遺跡のようなものとそれを守るように、剣を持った石像が向かい合うように立っている。二人は遺跡の方へと向かう。
「こんな空間があったなんて」
「不思議なところだな」
レイとソラは、神秘的な空間に圧倒される。
遺跡の近くまで進む。すると、どこからともなく声が聞こえる。
―勇気を示せ―
その声が聞こえなくなるのと同時に、いままで二人が立っていた地面が消える。地面が下に開いたのだ。二人は重力に従い、そのまま下へ落ちる。
「瞬間移動っっ!」
ソラはとっさに瞬間移動で自分とレイをもといた場所に戻す。
「危なかったな」
「助かったよ、ソラ」
二人は額の汗を拭く。それから、落ちかけた穴を覗き込む。地面があった場所は大きく開いていた。
「下、見えないね」
「ここに落ちていたかもと考えるとゾッとするな」
二人が話していると、またあの声が聞こえてくる。
―勇気を示せ―
「次はなんだっ」
ソラが言ったのと同時に、頭上から巨大な岩が二人を目掛けて落ちてくる。
「停止!」
もう少しで潰されるというところで、レイが岩を停止させる。その隙に岩の落下地点から抜け出す。その後、レイは停止を解除し、岩は轟音を立て二人のいた場所に落ちる。
「助かった。サンキュー、レイ」
「お互い様だよ」
今度はレイがソラを助けた形になり、先程とは逆の状況に二人は顔を見合わせて笑う。
「さて、次は何が来るかな」
ソラは遺跡の方に歩き、レイも続く。
二回も続けば、次に何が来ても迅速に対応できるはずだと、二人は考え神経を研ぎ澄ませて進む。
二人の歩く音だけが響く。しかし、二人の警戒とは裏腹に、何も起きないないまま遺跡の前まで行くことができた。今まで、うっすらとしか見えなかった剣を持った石像が、はっきりと見える。
石像は人の四、五倍の大きさはあり、全身は甲冑を象られ細部まで精巧に作られている。特に石像が持っている剣は、柄と刃の接続部分に光り輝く宝石がはめ込まれている。さらに、薄暗い洞窟内ということもあり、よりいっそう宝石が綺麗に輝いている。
「圧巻だな」
「細かいところまで作り込まれているね」
二人は感心するように、石像を見上げる。
―勇気を示せ―
見上げている二人に、あの言葉が降り注ぐ。
「来るぞっ!」
「うん!」
気を引き締めて、備える。
地響きが起こり、砂煙が立つ。すると、二人の頭上へあるものが下ろされる。あの剣だ。先程まで見上げていた石像が動き、剣を振り下ろしている。石像とは思えないくらい滑らかに動いている。
二人は、まさか石像が動くとは思っていなかったため、反応が遅れる。そのため、避けることができないところまで剣が迫ってきている。
二人は素早く腰の剣を抜き、その流れで石像の剣を受ける。
ガキーーン
二つの剣と剣が同時にぶつかり、大きな音を立てる。
二人は体勢が整っていなかったため、石像の思い一撃に押される。しかし、二人も負けじと足に力を入れ、踏ん張り少し押し返す。そこで、ソラは左にレイは右に、剣を傾け石像の剣を反らす。石像の剣が二人の剣を滑り、先まで来たところで二人は一気に剣を切り上げる。すると、キーンと甲高い音を立て、石像の持つ剣が手から離れる。少しして剣が地面に突き刺さる。
―汝らは勇気を示した―
と、再びあの声がする。その後、石像が動き右手を胸にやり、片膝をついて敬礼する形になる。
「終わったか」
「そうみたいだね」
二人は、石像が持っていた剣のもとへ行き、宝石を取り出し遺跡へと向かう。
遺跡の階段を昇っていくと、祭壇のようなものが見えてくる。近づくと、中央に指輪があり、よく見るとちょうどあの宝石がはまりそうなくぼみがある。二人は指輪を取り、宝石をはめる。
すると、指輪が姿を変え、瞬く間に剣になる。ソラの剣は黒色に統一されたシンプルなロングソードで、レイの剣は柄の金色と刀身の銀色のコントラストが美しいブロードソードだ。二人は剣を軽く振り、性能を確かめる。
「すごく使いやすいな」
「軽いね。それに強度も問題ないみたいだね」
さらに、この剣は使用しないときは指輪にしておくことができるらしく、二人はこの剣の便利さに感心する。
「さて、どうするか」
「依頼はまだ終わってないもんね」
二人は本来の依頼を思い出す。また、探さなければいけないと考え少し憂鬱になる。しかし、二人はあることに気づく。
「なんか、洞窟の中が見やすくなってないか」
「それに、鉱石がある場所がひと目でわかるね」
二人はどういうわけか、洞窟内でも目が利くようになり、辺りにある鉱石が見えるようになっていた。その影響で今まで見えていなかった部分にまで注意がいくようになる。
「これなら見つかりそうだね」
「早く探して帰ろうぜ」
レイとソラは注意して散策する。すると、あっけなく目的の鉱石を見つけることができた。
「今までの時間は何だったんだ…」
「まあ、見つかったんだからよかったじゃん」
落胆するソラにレイは苦笑いをする。
「とにかくこれで帰ることができるよ」
「そうだな」
行くよとレイがソラを呼び、二人は帰路につく。