魔法とスキル
上の方から鳥たちの鳴く声が聞こえてきた。
その声で目が覚めた。気持ちのいい朝だ。
葉っぱの隣にはスライムがちょこんといる。
昨日は心身ともに疲労が溜まっていたのか、すぐに眠れた。少し体は痛いがよく眠れたので良しとしよう。
外を見てみると、昨日はいなかったはずのイノシシ?のような生き物がいた。しかし俺が見た事のあるイノシシとは全く違う。大きさは4m近くありそうだ。牙もかなり鋭くて大きい。色は黒っぽい。見た目からして凶暴そうだ。
「あれはイノシシなのか?俺の知ってるやつと全然違うんだが……」
イノシシはまだこちらには気づいていない。
しばらくどうするか悩んでいると、頭の中に声が響いてきた。
《エビルボアを討伐しますか?》
エビルボアっていうのか。
ていうか、いやいや、そんなの無理だろ。
どうみても近づいたら瞬殺される気がするんだが。
《可能です。現在マスターが使える魔法で十分対処可能です》
あ、そういえば確かに俺は魔法が使えるようになったんだった。
昨日は使い方が分からなくて断念したが、こいつに聞けば使い方も分かるのか?
《YES。私とマスターの精神と肉体は常にリンクしているので、マスターが望めばすぐに使用可能です》
精神と肉体がリンク?
どういうことだか分からないが深く聞いても理解できなそうだ。とりあえずそうなっていると理解できていればいいか。
すぐに使用可能っていうのはお前が発動させてくれるってことなのか?
《いえ、私はマスターが魔法を発動させる際に必要な魔力コントロールを行います》
なるほど。でも俺には魔法の使い方なんて分からないぞ?
《対象に意識を集中させ、魔法の名前を詠唱すれば発動します》
そんな簡単に使えるのか。やっぱり魔法ってかなり便利なんだな。魔法の名前は後で色々教えてもらおう。
《再度確認します。討伐しますか?》
やってみよう。魔法がどんな感じなのかも確認したいしな。
とりあえず今使えるのであいつに有効なのはなんだ?
《風属性魔法の【ウィンドカッター】が最適かと思われます》
よし、じゃあそれでいこう。
エビルボアと戦うことを決意し、ゆっくりと近づいて行く。こちらに気づいたようで、威嚇をしている。今にも走り出してきそうだ。
あの巨体で体当たりなんてされたらひとたまりもないだろうと思い、すぐに魔法で倒すことにした。
初の魔法だ。少し緊張している。
外さないようエビルボアに向けて手をかざした。
魔法を発動させようとエビルボアに意識を向けると、体の中心から腕の方へと熱が巡っていき、手のひらの前に風の塊のようなものができた。
いけそうだ。そう思い、魔法名を叫んだ。
「ウィンドカッター!」
すると風の塊のようなものが、刃のように形を変えながらエビルボアに向けて飛んでいく。
直後、エビルボアの足の付け根から下が体から切り離され、地面に滑りながら倒れていった。
発動させようとしてから放つまで、全てがほんの一瞬の出来事だった。
やった……!。成功したぞ!!
初めて魔法を使った喜びから、無意識に小さくガッツポーズをしていた。
興奮しすぎて、エビルボアの存在を忘れていると、『インターネット』からトドメをさすよう言われた。
エビルボアはずっと呻いていたようだ。
「そうだった。早くトドメをさそう」
少し近づいてもう一度【ウィンドカッター】を首元に放ちトドメをさした。
その瞬間、
《レベルが上がりました》
『インターネット』からそんなことを言われた。
もう上がった?エビルボアを一体倒しただけだぞ?
あまり信じられずにステータスを開いた。
【名前】カイ・アベール
【種族】人族 【性別】男 【年齢】17歳
【称号】異世界人 創造神の友人
【加護】創造神の加護
【レベル】27
【体力】1630/1630
【魔力】1730/1730
【攻撃力】750
【防御力】800
【素早さ】360
【知力】70
【運】90
「え?なんだこれ」
めっちゃ上がっている。
それにさっき魔法を使ったのに魔力が減っていない。レベルアップで回復するのだろうか。
《創造神の加護により『成長速度上昇』・『成長率上昇』・『魔力効率上昇』が与えられています》
まじか、あの加護そんなすごいやつだったのか。
だがそれにしても上がりすぎな気がする。エビルボアってのはそこそこ強いやつだったのか?
《エビルボアは危険度Cランクです》
Cランクっていうとどのくらいなんだ?
《危険度ランクは高いものからから順に、Sランク・Aランク・Bランク・Cランク・Dランク・Eランク・Fランクとなっています》
なるほど、Cランクはやっぱそこそこ強い方なのか。
倒せたから良かったものの、いきなりそんな危ないやつと戦わせるなんて、意外と鬼だな……。
《鬼ではありません。倒せると確信した上での判断です》
そうは言ってもなぁ。まあいいか。
あ、そういえば俺のステータスはどうなんだ?
普通の人との比較が出来ないから高いのか低いのか分からないんだよな。
《一般的にレベル1で体力、魔力が50前後、それ以外が25前後です。現存している人族の最高レベルは87、ステータスは体力、魔力共に2650前後、攻撃力が1350、防御力が1300、素早さが450です》
うわ、そんな細かく分かるのか。やっぱりこのスキルやばいな。
それにしても俺のステータス、かなり高いよなこれ。最高レベルのステータスでも俺の二倍以下だ。
あんまりステータスに関しては人に言わない方がいいかもしれないな。
そう考えると森の中から出るのも少し慎重にいく必要があるか。
少しの間自分のステータスについて考えながら、エビルボアを『アイテムボックス』にしまった。
その後拠点作りの準備を始めた。
しかし拠点作りを始める前に、少し問題点があった。
「もう少しこの辺り広げないとだよなあ」
今のままだと多少拓けてはいるが拠点作りとなると少し狭い気がした。
「さっきの【ウィンドカッター】の威力を弱めて木の伐採とかもできるか?」
《可能です》
やっぱ可能か。
じゃあ昨日寝床にした巨木を中心に半径十メートルぐらいで切っていこう。
さっそく伐採作業に入った。
♢
この作業で数時間がかかってしまうことも覚悟していた。
しかし作業は30分程度で終わってしまった。
しかも簡単すぎてつい予定の二倍近くやってしまった気がする。
だがそれも仕方ないだろう。なにしろ一本一本やるつもりだったのが、五本ほど同時に切り倒せてしまうのだから。それに一回の使用で魔力が5しか減らない。
「本来伐採ってもっと大変だよなあ」
改めて魔法の便利さに感動した。
まあそれはさておきスペースは十分確保出来た。
まずは家を作らなきゃな。
幸い資材はさっき切った木材がたっぷりある。
ある程度自由に作れるだろう。
家の作り方は簡単に分かった。
俺が頭の中で作りたい家の外形を想像すると、それを『インターネット』が安全性、機能性を考慮し最適化し、必要な材料までおしえてくれたのだ。
作り方が分かったのでさっそく作業に移ろうと思ったら『インターネット』にこんなことを言われた。
《『クリエイト』を使用すれば魔力と木材を消費して家を造ることも可能です》
おいおい、なんだそのチート能力は……。
俺の想像していたのはもっと小さい物を創り出せるだけのつもりだったんだが。
まさかこんなチート能力になっていたとは。
だがまあそんなことができるならかなり楽に作れそうだ。
ちなみに魔力だけで作ることも可能らしいが今の魔力量だと、家のようなサイズのものを作るとかなりぎりぎりになるらしい。
何もないところからでも物を創り出せる。ほんとにやばい能力になってしまっている。
驚愕したがとりあえず家づくりをしてしまうことにした。
頭の中で作る家のイメージを具体的に浮かべ『クリエイト』と念じる。
すると置いてあった木材が宙に浮き、次々と形を変えていき家を組み立てていった。
接続部分などはどうするのかと思っていたがパズルのような感じで上手く組み合わせていた。
完成した。魔力は300ほど消費した。しかし木を伐採し始めてから家の完成までおそらく一時間もかかっていないだろう。クリエイト様様だ。
家は完全な木製のログハウスだ。
二階建てで一階には簡単な台所と部屋を二つに何もない空間を作った。二階は寝室と部屋を三つ。窓などはガラスがないので吹き抜けだが、ちゃんと閉められるようになっている。ウッドデッキも付けた。
少々凝りすぎている気もするが、いつかこんな家に住んでみたいと思っていたので良しとしよう。
家を作り終えたあと、広げた部分に柵を付けていくことにした。せっかく作った家を壊されたら困るからな。高さと強度はそれなりのものにしないと意味がなさそうだよな。
色々と試行錯誤した結果、先の尖った棒を並べてその隙間から尖った棒を突き出すようにした。強度も高くさせるため、補強もしっかりとした。
四箇所に出入口部分を作り、拠点の周りを全部柵で覆った。
柵の出来に満足していると、お腹が鳴った。
「そういえば今日は起きてから何も食べてないな」
神様饅頭が残っているがさすがにそれだけではだめだと思い、先程のエビルボアが食べられるか聞いてみた。
《下処理が必要になりますが可能です》
下処理か、どんなことをしなきゃいけないんだ?
《血抜きなどが必要ですが、私の体内に取り込ことで食べられる部分の肉とそうでない部分に分解できます。血や内蔵などいらない部分は体内で消化します。》
え?そんなことできるの?スライムめっちゃ便利じゃん。あの時もっとかっこ良くて強いのがいいなんて言ってごめんよー。
あ、でも『インターネット』が憑依してこそか。
『インターネット』に感謝していると、ふと思ったことがある。『インターネット』にはわりと自我があるように思う。それに今はスライムの見た目をしている。そうなるとただのスキルではなく生き物だ。これは、名前をつけてもいいんじゃないか?
そう思って『インターネット』にも名前が欲しいか聞いてみた。
《名前があった方が良いとマスターが判断したのなら、私は名前を望みます》
あくまで俺次第という訳か。
よし、名前を付けよう。名前があった方が絶対色々楽だからな。
「どんなのがいいかなあ」
悩んでいるとふと思いついた。
「フィーネ!今日からお前はフィーネだ!」
《分かりました》
端的だが声は少し嬉しそうな感じに聞こえた。
俺は満足し、爽やかな気分で食事の準備を始めた。
おかしい点があればご指摘のほどよろしくお願いします。