神々の帝
ある日の事、彼は罪人達を閉じ込めている地下の門の前に居た。門を開けると左右に門番として立っている2人の巨人が彼を出迎えた。彼は巨人2人に名前が無い事に気がつき名前を与えに来たのだった。大きな口を開け、罪人達を威嚇する「あ」の表情を崩さない巨人を阿形、口をへの字に曲げ「ん」の表情を崩さない巨人に吽形と名付けました。
阿形と吽形が折角来たのだから中の様子を見て行ってはどうかということで、地下の様子を見ていくことにした。中はとても広く、いくつもの層に分かれていた。奥に行けば行くほど層は狭くなっていて最下層は見渡せば端が見えるくらいの広さしかなかった。他の層は多くの罪人で溢れていたが、この層だけは罪人は一人もいなかった。とはいえ、これでは狭いだろうともう少し広くしようと思った彼はいつもの様に空間を作り変えようとした、しかし、いくら頑張っても穴ひとつ空けることが出来なかった。それもそのはず、この地下は罪人が逃げ出せぬようにと彼でも形を変えることが出来ないほど堅牢に作られたものだったからだ。
作り変えられないとわかった彼は諦めて地上へと戻った。ちなみに、この最下層は普通に落下して来た場合、地上の時間にして2000年もかかる程途方もない深さを誇る。普通の罪人ならまず逃げ出す事は不可能だろう。しかし、彼は思うだけで思いのままどこにでも移動出来るのでそれも苦にならなかった。
門に戻った彼は、地下を管理する者が居ないと罪人達が好き放題暴れるだけだし、悔い改める為に苦行を強いる必要もあるだろうということで各層に鬼を解き放ち罪人達を責め続ける様に指示をした。また、罪人達の中には既に改心した者も居たためヤマラージャに改心した者については地下から楽園へと住まわせるように指示しておいた。
この世界において、言語というのは必要無く意思疎通が可能なのだが、宗教圏が違う死者達が同じ場所に住んでいたりする為、建物や食べる物が違ったりして見た目も様々な物が乱立していて見ていてごちゃごちゃとしていた。そこで天照は、それぞれの宗教圏の神を生み出してそれぞれの死者に合った都を作り住まわせてはどうだろうと彼に相談していた。それならばと、細かな宗教の神まで作るのは大変だったので大きな信仰を持つ宗教に限定し、主神を作りそれぞれの都を管理させようという事になった。
太陽の化身である天照は、いつも晴ればかりではつまらないだろうという事で天空の管理が出来る神として天空の神が欲しいとの事だった。それならうってつけの神がいると、彼はいそいそと新たな神を作り出した。雷鳴を操り、時に雨を降らせ、主神として皆が従う様にと鎧や武器も持たせた。名前は天の父という意味を持つ「ゼウス」と名付けた。その後は、実に様々な神々が生まれていった。その一部は地上へ道を見つけ、人間の成長の手助け等をするようになった。彼も興味本位で見に行ったが、そこは彼が暮らしていた時代からはるか昔の世界のようで、どうやら彼がいる世界というのは現在過去未来の全てが繋がっている世界のようだった。
この地上への入口はレーテー川の下流に位置しており、死後の世界で満足した死者達は、1度魂だけの姿になり、彼の涙が作り出した川、レーテー川の下流へと流され、記憶を消してからそのまま地上へと降り立っていく。特に決まりがある訳では無いのだが、前の記憶があると生きにくい事から自然と死者達はそこを通るらしい。なるほどと彼は思ったが、流されていくというのも溺れてるみたいで嫌だなと思った彼は、転生しに来た魂を船で下流まで運ぶ者を作ることにした。その際に、魂にレーテー川の水をかけてやれば記憶も消せるだろう。
そうこうしているうちに、数多くの死者と八百万の神々を管理し、主神達をも従える彼を「神帝」と呼ぶようになった。