創造
少女を失ってからの彼は何もやる気が起きず、ずっと家の中に籠りきりだった。彼が世界の管理を止めてしまった事で罪人が楽園に入れるようになり、新たな住人の家や道具が作られなくなった。困り果てた住人が彼に何とかお願いした結果、彼は自分の代わりに世界を管理出来る存在を作ることにした。手始めに全てを見通すのにちょうど良いだろうと天高くにある太陽に仮の姿を与え、世界全体を監視、管理をする様に命じた。太陽の化身には世界を豊かにする為の力として、あらゆるものを生み出す彼の力の一部を与えた。名前が無ければ不便だろうということで、天高くにあり世界を照らす太陽の化身なので天照と名付けた。
次に罪人達を裁き地の底へ堕とし、罪人達を懲らしめる恐ろしい姿をしたもの達を使役する存在として、これまた見るものを震え上がらせるような憤怒の形相をした大男を生み出した。全てを平等に裁く様にと異国の言葉で平等の王と言う意味でヤマラージャと名付けた。これはある死者が生前暮らしていた国の言葉だそうだ。
できる限り厳格で真面目な性格になるようにと生み出したせいか、ヤマラージャはちょくちょく彼の元に訪れてはよく相談を持ちかけてきた。そのひとつに、死者が増え過ぎて1人で裁くには多過ぎるというものだった。それならばと、ヤマラージャを含めて10人程で罪が軽い者は手前で裁き1番浅い層に堕とす、それよりも罪が重ければ次の裁判官に託す、そして、最も罪の重い罪人を最高裁判官であり10人の王のリーダーとしてヤマラージャが裁くというのはどうだろうと彼は提案した。ヤマラージャもそれならば自分の負担も軽くなると快諾した。
他にも生前の行いが前もって解れば裁きもし易いと言うので、本当に出来るか疑問ではあったが占いなんかで使う水晶の様なイメージで現世が見える道具を作ってみた。なかなかイメージが膨らまず思ったよりも何故かでかくて水晶製の鏡の様な物が出来上がった。それでもヤマラージャは満足したようだった。ついでだったので、その場で死者達が嘘をついていないか分かるようにヤマラージャの眼に嘘を見破る力も与えておいた。
元々彼が生み出したもの達は自我を持っているように見えるだけで、魂も無ければ心も持っていない。だけど、彼が世界に絶望してから生み出したもの達は、彼が理想として生み出した訳ではなく自分が閉じこもる為に生み出した為か、彼が望んで生み出した訳では無い為か、自らの意志を持ち彼が思いもしない行動をとる事があった。それは、天照も同じであった。
おおらかな性格で、優しい女性にしようと思って生み出したものの、意外と泣き虫の様で楽園の住人にあれよこれよと沢山の事を頼まれるとよく彼の元に訪れては泣きながら愚痴をこぼしていた。それと自分に自信が持てないようで、理由を聞くと優しさに漬け込んで住人が何でもお願いするものだから断れず自分が損をしてしまうからだそうだ。それならばと、彼は天照に似合うような剣をあつらえた。腰に剣を携えていれば少しは威厳も出るだろうと思ったからだ、それと、天照の格好はどうにも太陽の化身としては普通過ぎるので神々しさを持った首飾りをプレゼントした。それからは意欲的に活動しているようで、広がり過ぎた世界を飛び回れる羽を持った人間を作り出して色んな所に遣いに出しているそうだ。見た目はまんま天使だった。
しばらく後の話にはなるが天照が地上に剣を落っことして八つ股の化け物が生まれたり、へそを曲げて洞窟に引きこもりして他のもの達を困らせて鏡に映った自分の姿を見て復活するのはまた別のお話だ。
そんなこんなで、悲しみにくれていた彼も自らが生み出したもの達や楽園の住人達の話を聞き、生活の手伝いをしているうちに少しづつ元気を取り戻していった。そんな彼は少しだけ疑問に思っていた。
何故自分は消えないのか・・・・・・と