永遠の楽園
彼は気がつくと真っ白な空間に居た、立っているような気もするし、座っているような気もする。もしかしたら浮いていたのかもしれない、漂う中で彼が死んだと気づくのに100年かかった。もしかしたら一瞬の事だったかもしれない、しかし彼にそれを確かめる術は無かった。
彼が死んだと自覚してからは早かった。
彼が記憶を辿るとそこには道が出来た、森を思い起こすとそこに木々が生い茂り森が生まれた。家を想えば家が建ち、天高くには太陽が生まれた。太陽が有るならばと月も作ろうとしたが月は生まれなかった、なるほど彼の知る世界は太陽の登る昼に月は見えない、とりあえず月を作るのは諦めた。それにしてもきっとここは死後の世界なのだろう。彼が想えば全てがそこにあった、彼の記憶の全てがそこにあった、その空間には彼の記憶したものしかなかったがそれ故に彼は全知であった。
身体は初めこそ不安定だったが自分の思った通りの姿になることが出来た、空を飛ぶ事さえ容易であった。それ故に彼はこの空間において全能であった。
何もない空間はいつの間にか世界になっていた、彼はこの世界で全知全能の神になった。
人も動物も神でさえこの世界では彼の思いのままだった、孤独を埋めるために様々な人や動物を作り出し生活した。しかし、生み出したもの達は彼の思い通りに動くだけ、言って欲しいことを言い、して欲しいことをする、ただそれだけの存在だった。言ってしまえばプログラミングされた機械と同じだった。全てが思い通りになるというのも思いの外虚しいものである、彼は自分が死者であると自覚した時から孤独だった。
そんな彼の元に新たな人間が現れた、彼が作り出したものではない正真正銘の人間が。それは1人の少女だった、彼は初めは戸惑ったがそれでも少女を手厚く歓迎した。初めての来客に彼は歓喜した、少女もまた己の死を受け入れながら新たな生活を受け入れた。
当然の事だが、その世界では満たされた生活が続いた。時には2人がケンカする事もあったが、彼はそれがまた嬉しかった。彼が生み出したものは彼の理想であり反発する事など有り得なかったからだ。
こうして、仲陸奥まじき生活は長きに渡り続いた。そして、何も無かった世界に愛が生まれた。