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アルスマグナ  作者: 雨音雪兎
吸血鬼事件
22/57

渡し屋×大橋組×強面

 渡し屋“大橋組”といえば異能特区では知らぬ者はいない。構成員は曰く付きの経歴を持つメンバーである。一般人からすれば近寄り難い存在として煙たがれ、陽たちのような裏側を生業とする者たちからは便利屋という形で利用する、そんな持ちつ持たれつの関係だ。この方法を提案した陽も任務で頻繁に利用している。


 それは車を走らせる那月も同様だ。ナビ案内を見ることなく最短距離の道を選択して進んでいく。時には路地のような細い道を通るほどに精通している。その運転はお世辞にも上手とは呼べず、それどころか乱暴という言葉の方がしっくりくる。那月の運転に慣れている陽はともかくとして、本日で二度目になるクラリッサは慣れているはずもなく、座席にしがみついて体を固定するほどだ。


「も、もう少し安全に運転できませんか⁉」


 クラリッサは安全運転を懇願するも那月の耳には届いていないのか運転の質が変わることはなかった。まさしくハンドルを握ると性格が変わるタイプだ。


「喋らないのが賢明だぞ。でないと舌を噛む」


 陽は舌を出してアピールする。条件反射でクラリッサは口を噤み両手で押さえた。起伏の激しい山道や運転が荒い車内で喋らないのが鉄則である。


 陽とクラリッサの乗り心地は二の次、三の次。更に加速していく車はカーブを曲がるたびに車体が斜めに浮き、スキール音を響かせる。警察と逃亡犯のカーチェイスよりも激しい。あれは逃亡犯を捕まえる大義名分があるから許される行為だが、ただ早く目的地に着く理由だけでは許されない。検問でもしていたら免許剥奪ものである。


「大丈夫、大丈夫。そのときは何らか理由を捏造するから」


 そんなことが出来るわけがない、と思ったクラリッサだが、発言者である那月の立場を考えると完全否定できなかった。何より那月自身が発言しているのだからまったく根拠がないわけではなさそうだ。


「まあ、安心しなよ。そんなことにはならないから」


 クラリッサの不安を和らげるように陽は言った。楽観的に取れる発言だが、それでも安堵感を覚えてしまうのは陽の態度にある。この状況に慣れているのか、或いは那月に寄せる絶対的な信頼感からくるものなのか、焦った様子がないことが何よりの安定剤になった。


 陽の言葉通り車が検問や事故などトラブルに見舞われることなく目的地へと到着した。本来ならば寛げる助手席や後部座席に座っていた陽とクラリッサは車内から出るや直ぐに体を伸ばす。クラリッサはもちろん、余裕な態度を見せていた陽も本能的に体に力を入れてしまうようだ。


 対して那月の表情は清々しい程の笑顔に満ちていた。運動してストレス発散した後のような爽やかさもある。両腕を背に回して両手の指を絡めてそのまま腕を伸ばす。ポキポキ、とどこか耳当たりの良い音が鳴る。


「うーん、気分爽快!」


 見ている側も笑顔になってしまう程に綺麗な表情を那月は浮かべた。


「むむむ、そんな表情を見せられたら何も言えなくなるじゃないですか……」


 文句のひとつでも言おうとしていたクラリッサは出鼻を挫かれる形になった。口先を尖らせていじけるのがせめてもの抵抗である。そんなクラリッサの気持ちを理解できる陽は彼女の肩をポンポンと軽く叩いて苦笑いを浮かべた後、那月のもとへ歩み寄った。


「気分は晴れましたか?」


「ええ。最高よ!」


 まだ運転の熱が抜け切れていないのか、テンションが若干ハイになっている。蒸気で微かに頬を紅く染めているのが何よりの証拠だが、彼女の本質を知らない人物からすれば色気に溢れているように勘違いしてしまう。ナンパしようならば鉄拳の一つでも飛んでくるだろう。


 そこにドスの利いた男の声と波が防波堤を打ち付ける音が重なって届いた。一斉に視線を声が届いた方向へ向けると、想像通りの容貌をした屈強な男が歩いている。なかでも顔の中心に横一線で走る裂傷の痕が一際目立つ。クラリッサは思わず悲鳴に似た声を小さく漏らした。それに反して陽は自ら足を前に動かして屈強な男との距離を縮めた。


「聞いたことのある声だと思ってきてみれば、やっぱり陽の兄貴でしたかい」


 屈強な男の容姿からは想像できない程に破顔しながら頭を下げた。


「久しぶりだな、ロニ。悪いが棟梁はいるか?」


「へい! しかし、どういった御用で? 陽の兄貴もそうですが、那月のお嬢まで一緒とは穏やかじゃありませんね……」


 それに、と屈強な男はクラリッサに視線を移した。未だに慣れない男の顔の恐怖に体を反応させる。


「がはは! どうやら怖がれているみたいっすね」


 クラリッサの反応から怖がられていることを悟った屈強な男だが、そのことに怒りを覚えることはない。彼自身、自分の顔が万人受けするものではないと自覚しているからだ。それでも怖がられていては話が進まないと考えた陽が助け舟を出す。


「彼はロニ。大橋組の構成員だ。こんな容貌だが、理由や目的がなければ喧嘩を売ってくるような奴じゃない」


「は、はい……」


 紹介されたことで人物像がわかっても慣れるかといえば別問題である。人にはそれぞれ性癖があるのだから致し方ない。


「それなら俺の傍にいろ。それなら怖くないだろ?」


 埒が明かないと判断した陽はクラリッサの手を掴んで強制的に傍に立たせた。逃走を図るようなことをしないとは思うが念のために手を繋いだ状態にしておく。


「ロニ、案内しろ。あまり時間がない」


「わかりやした」


 ロニを先頭に陽たちは大橋組の事務所へと進み始めた。


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