助かりました?
リック視点です。
扉からこちらを睨んでいる少女としばらく目を合わせていると、後ろからラグザに背中を押された。
「おい。何かしゃべんねえと進まねえぞ。」
「ああ。わかっている。」
急かされる様に僕はその少女に声をかけた。
「夜遅くに申し訳ない。訳あって訪ねさせてもらったのだけれども、お母さんかお父さんは家にいるかい?」
その言葉に少女は難しい顔をして考えている。その後少しして少女は僕に話しかけてきた。
「------。-------。」
しまった。言葉が通じない。後ろのラグザに目線を向けるが、ラグザも無言で首を横に振っていた。
少女も言葉が通じていないことがわかったのか、さらにこちらを睨んでいる。
「おい、どうするよリック。話が通じねえんじゃ、どうしようもないぜ。」
「わかっている。多分これはドワーフの言語だ。前に剣を直しに行ったときに聞いたことがある。まあ理解はできていないけれども。」
言葉が通じないことがわかった僕らは、どうにか理解してもらおうと身振り手振りで相手に伝えようとした。少女も理解しようとしてくれているのか真剣にこちらを見ている。
「おい、埒があかねえぜ。どうする、無理にでも乗り込むか?」
「やめろラグザ。どちらにしても道を教えてもらえなきゃ僕らは帰れないんだ。争っても意味はない。」
言い争っている僕らを見て少女の顔が一層険しくなり、そして急にハッとしたかと思うと扉を閉めてしまった。僕とラグザは落胆して肩を下げる。
「やってしまったかな。今日は諦めて明日出直そうか。おそらく山賊の類ではなさそうだし、それだけでも救いはあるよ。」
「・・・わかった。すまねえ、短気が出ちまった。」
諦めて扉から離れようとすると、どたどたと急いだ足音と共に不意にその扉が開いた。
驚いて振り向くとそこには、木斧を持った先ほどの少女ともう一人、手を引かれて来たのであろう黒髪のワンピースのような衣類を着た美しい少女がいた。
「ど、どうしたのですかエナさん?ってあら、どなた様でしょう?」
僕は心の中でガッツポーズをした。ああ、女神さまがここにいた。二つの意味で。
「夜遅くに申し訳ない。僕の名前はリック。訳あって訪ねさせてもらった。君は僕達の言語を理解できるようだ。どうか話を聞いてもらえないだろうか?」
間髪入れずに彼女は答えた。
「まず最初に、武器を渡していただけないでしょうか?エナさんが警戒されているので。後、こちらには他に何人でいらっしゃったのでしょうか?」
もっともだ。こちらが山賊だと警戒していたことと同じで、相手も警戒しているのだろう。僕らは武器を外し、彼女へ渡した。斧を持つのは難しいだろうと思ったが、彼女の妹だろうか、小さな少女が片手で持っていくのを見て少し驚いた。
「ははっ彼女はドワーフかな?ずいぶん力持ちのようだ。ああ、それでもう一人仲間がいる。それで全員だ。ラグザ、声をかけてきてもらえないか。」
「ああ、呼んでくる。」
そう言うと、ラグザは森の方へと歩いて行った。
「僕の妹でね。名前はシェリーという。でもどうしてわかったんだい?」
話を繋げるために、ふと浮かんだ疑問を彼女に聞いてみる。
「いえ、迷ったにしては軽装ですので。山賊か何かの住処と思ったのでしょうか。」
彼女の言葉を少し考えてハッとする。どうやらこの少女は自分より思慮が深いようだ。
「参ったな、今後の参考にさせてもらうよ。それで仲間がそろったら改めて紹介させてもらうのだけれども、話は聞いてもらえるかい?」
「私も居候ですので回答はできませんが、エナさんに聞いてみますので。どうぞ。」
エナというのは隣にいる少女の事だろうか。話す言語から考えてドワーフらしいが、目立った特徴が見られない。あの目立った特徴が。どちらかと言うと、今目の前にいる彼女の方がドワーフに見える。それにしてはあまりに清楚に思えるが。
おっと、関係ないことを考えてしまった。僕は頭の中を整理し直して、彼女に話をした。
「僕たちがお願いしたいのはまず、この森から出る道を知りたい。出来れば僕たちの住むウィルテイア王国までの道が分かればなおさら嬉しいのだが。後は、できれば薬や食物を譲って貰えないだろうか。もちろんどちらも対価は払う。」
それを聞いた黒髪の少女は、エナと呼ばれた少女に話をしていた。ドワーフ語で何やら相談しているようだ。どうやら黒髪の少女はドワーフ語も堪能らしい。とても流暢に会話をしていた。
しばらく待つと彼女たちが相談している途中で、シェリーを連れたラグザがやってきた。
「どうだ。話は決まったか?」
「いや、今相談していたところだ。もう少し待とう。」
「わあ、綺麗な女の子ね。あっ、そうだ挨拶しなきゃ。すいません!今呼ばれたシェリーです!」
シェリーの言葉に気付いたのか、彼女達がこちらを振り向いた。
「途中で話をかけてすまない。相談を続けてくれ。」
「あ、いえ、構いませんよ。今ちょうど話し終えたところでしたので。」
「そうか。じゃあまず改めて紹介させてもらうよ。僕はリック。後ろのごついのがラグザ。そして今来たのがシェリーだ。僕たちは冒険者という、なんて言えばいいか魔物退治や傭兵の依頼をこなして生計を立てている。今回はデミウルフという魔物の毛皮の納品の為に森に入ったのだが、不慮の事故に遭い、迷ってしまった。二日ほど迷ってこの家を見つけたので、こうして訪ねさせてもらった。」
「それは大変でしたね。私の名前はカリン。縁あって少しの間こちらに居候をさせていただいています。そして隣にいる方が、こちらの家主でエナさんです。それではエナさんの許可も下りましたので、中に入ってお話をしましょうか。どうぞお入りください。」
「え、あ、いいのかい?それでは失礼して上がらせてもらう。二人とも粗相の無いように。」
「わかってるよ。」
「リックの口調が変で逆に気に障るわ。」
カリンという少女の妙に上品な態度に気圧されてしまい、口調が変になってしまったか。
どうやら、エナという少女がこの家の持ち主らしい。見た目通りの年齢では無いということか。軽く会釈をして、僕達は案内されるがまま中へ入っていった。
視点変更が目まぐるしいので、できるだけ三人称にしようと思います。