誰か来ました?
日も落ちそうになった頃、薄暗い森の中で三人の会話が繰り広げられている。
「どうにかしないと、このままでは全滅だ。」
そう弱音を吐いた男の名前はリック。短髪の優男で、この三人の中でリーダーをしている。ただ意志が弱い為、二人に無理やり押し付けられただけなのだが。
「あの時、あんな大きなデミベアに遭遇しなければ。いや、今更言っても遅いか。まずここがどこなのか分かればいいのだけれど。」
そう言う女の名前はシェリー。リックの妹で、弓使いをしている。どこか頼りない兄が心配でついてきて、度々説教をしてる。
「昨日みたいに夜に魔物に遭遇するのはごめんだ。日が落ちきる前にどこか非難する場所を探した方がいいんじゃねえか。」
そう言う男の名前はラグザ。リックの幼馴染で、斧使いをしている。荒事が好きで、リックをこの仕事に引き込んだ張本人でもある。
彼らは冒険者、害ある魔物を駆除したり、その魔物を素材として売ることを生業にしてる職業である。
今彼らはデミウルフという狼のような魔物の毛皮を集める為森の中に入り、途中不幸にも巨大な熊のような魔物であるデミベアに出会い、命からがら逃げた結果、森に迷ってしまった。
丸二日ほど迷い、心も体も消耗している三人の冒険者には、疲れと焦りが見られた。
「そうだな、まずはどこか隠れられる洞窟でも探そう。最悪岩に囲まれた場所でもいい。野営をするのにも魔物の来る方向が分かった方がいい。」
「そうね。それじゃ、あの崖伝いに探しましょう。それにしても、救助隊は来ないのかしら。はあ、こんな場所に来るわけないか。」
「まあ、来るにしても十日は来ないだろうな。冒険者なんて、二日三日家に帰らないのは日常茶飯事だしな。とりあえず、決まったなら早く動き出そうぜ。」
こうして三人は、崖伝いに森の中を探索し続けた。しかし、しばらく探しても良い場所は見つからず、あきらめて崖を背にして野営を行うことになった。
それは夜も更け、焚火の為の枝を集めている時であった。
「それにしても、ここら辺に来てからあまり魔物に遭遇していないな。デミウルフの遠吠えは聞こえるが、近づいては来ない。」
「まあ、気のせいだろ。あんまり気を緩めると痛い目見るぜ。」
枝を探す間、暇を潰すかのように話すニックとラグザ。
そこに、シェリーが少し慌てるかのようにして近づいてきた。
「にぃ、ニック。見て欲しいものがあるのだけれどちょっと来てくれる?」
「何だいシェリー?食べられそうなものでも見つけたのか。」
「そうじゃないわ。とにかく来てちょうだい。」
顔を見合わせるニックとラグザ。やれやれ、といった感じでついていく。
だが、シェリーに手を引っ張られながら連れていかれた先にあるものを見て、ニックとラグザは目を見張る。
「あれは・・・家か?」
「暗くてよく見えないが、確かに家だ。明かりもちらほら見える。」
「ちょっと、行ってみましょうよ。私達、助かるかもしれないわ。」
家らしきものに近づこうとするシェリーを慌てて手を引っ張りニックは止める。
シェリーは急に引っ張られた為、バランスを崩し、尻餅をつく。
「何するのよ!ニック!」
「シェリー。ちょっと待ちなよ。人が居るからと言って善人とは限らない。」
「山賊って可能性もあるな。いや、むしろこんな森の中にある家だ。その可能性がほとんどだろう。」
注意する二人、意図を汲み取ったシェリーは見る見るうちに顔を青くする。
「で、でも、このままじゃどうしようもないじゃない。どうするの?」
「確かにそうだ。そんじゃまあ、ひと暴れするか?」
「ラグザ。冗談でもそんな怖いことは言わないでくれ。そうだな・・・」
考え込むニック。弱気で小心者ではあるが、こういう時は冷静な判断をする為、他の二人はそれとなくニックを信用していた。
「よし、まずもう少し辺りを見回して見張りがいないことを確認しよう。いなかったなら僕とラグザで様子を見に行く。シェリーはもしも山賊だった時の為に弓を構えておいて・・いや違うな。安全を見るなら、シェリーはそのまま隠れて隙を見て逃げてくれ。僕たち二人で対処できない数の山賊がいたなら、一人増えてもどうしようもない。」
「それじゃあなた達が危ないじゃない。私も戦うわ。」
「シェリー。わかってくれ。山賊っていうのは、女と金を見るや否や襲うような奴らだ。僕たち二人だけなら最悪は殺されるかもしれないが、仲間でも子分になってでも生きながらえる可能性は高いし、どうにかして抜け出す。でも女は違う。生きるにしても慰み者にされて壊されるだけだ。」
「違いない。兄貴の気持ちも分かってやんな。俺は賛成だぜ。」
「で、でも。」
「聞き分けてくれ。荷物も置いていく。三人分あればしばらくは持つだろう。危険なのは変わらないが、今すぐ死ぬよりは全然いい。」
「なあに心配するなって。山賊でもなんでも俺が蹴散らしてやるからよう。ニックが言ってんのは最悪の場合だ。」
「その通りさ。よしそれじゃあ、まずは監視を続けよう。」
それ以降、無言で監視を続ける三人。シェリーも納得はしていなかったが、わがままを言うわけにもいかず、ただ苦しい顔で黙り続けていた。
「いない、ようだな。」
「ああ、見た感じはどこにもいねえな。森の中だから油断してんのか。」
リックが覚悟を決めたのかのように喉を鳴らす。
「ラグザ。行こうか。」
「おうよ。」
「ねえ、リック。もしもの時は、私、体を差し出しても・・・」
「シェリー。それ以上は言わないでくれ。頼む。」
「往生際が悪いぞ。黙ってな。」
そう言うと、リックとラグザは、シェリーを置いて家に近づいていく。
「近くで見ると案外大きいな。」
その家はレンガを何かの金属で補強したような家で、二階こそないが横に広くとても頑丈そうな家であった。
家の高い位置には、通気口だろうか。細長く穴が開いており、そこから光が漏れている。
「覗いてみるか?」
「いや、やめよう。高い位置にあるし、もし見つかったら余計に怪しまれる。あそこにある玄関からちゃんと行こう。」
ラグザは無言で頷くと、リックとともに玄関に向かっていった。
玄関には取っ手のついた大きな鉄扉があった。扉全体に繊細な彫りはあるが、周りに鍵や穴は見当たらない。内側から鍵を閉める仕組みになっているのだろう。
ニックは扉を叩き、声をかけた。
「すいません。どなたかいませんか。」
少し待っていると、家の中から、誰かが近づいてくる音がする。
大きな鉄扉がギギギと音をたてながら少しだけ開くと、その隙間からは小さな少女がこちらを睨んでいた。
人が増えれば、文字数も増える。その結果、主人公が消えた。