立派になりました?
「啓示、ですか。」
「そう、啓示。最初にあった日、私にしてくれたこと。」
「最初の日、あーそう、あの時ですか。えーっと。」
「酔って忘れた?」
「そ、そうみたいです。私、お酒に弱いみたいです。」
「知らない理由にはならないけど。」
「そうですよね。」
言葉に詰まるカリンの様子を見て、エナは返答を諦める。
「嫌なら、いい。」
「嫌というかなんというか・・・」
その言葉にカリンはさらに顔をしかめる。
だが、少し悩んだ後、意を決してエナに伝えることにした。
「エナさんなら・・・大丈夫でしょう。」
「ん?」
「あの、天使って知ってますか?」
「知ってる。」
ある程度認知度はあるのか、とカリンは学習する。
「その天使です。信じられないかもしれないですけれども。啓示はその力の一つで真理を解き明かす力と聞いています。詳しい使い方はまだ勉強中でして、実証もしてないので何とも。」
「・・・わかった。信じる。」
「ありがとうございます。」
まあ天使でもあるし嘘は言っていないだろう、とカリンは無理やり自分を納得させた。
その後、すぐにエナに声をかけられた。
「カリン。」
「はい。何でしょうか?」
「周りには言わない方がいい。」
「どうしてですか?」
「天使は、詐欺師の代名詞。」
その言葉に少し動揺したが、それよりその理由が気になったカリンはエナに聞く。
「詳しく、お聞かせ願えないでしょうか。」
「詳しくは知らない。昔、自分を天使だと言って王族を騙して処刑された人がいる。」
その事実にカリンは考えを巡らせる。ある程度は想定していたことだ。
一つは天使が大々的に歓迎され、皆に啓示と祝福を与えて悪魔に対抗している状況。
一つは悪魔にすでに支配され、天使が悪役にされている状況。
もう一つは、人が天使を利用しているような・・・
天使は物理的な力は人と変わらない。悪魔も同様だ。一度、人里に行き確認する必要があるだろう。
正直なところ、悪魔も天使も関係なく、ただこのままのらりくらりとスローライフを送っていても良いと思っていた。しかし、悪魔が優勢となればきっとこの生活を壊すのも悪魔だろう。滅ぼすのはまだしも、とりあえず現状だけでも確認しなければならない。
「私、最初に出会えたのがエナさんで幸せです。」
「急に何。」
「感謝してます。」
「別にいい。」
やり取りが恥ずかしかったのか、エナはカリンに無言で手に持っていた木片を渡す。それは型を取ったように綺麗な長方形をしていた。
「凄いですね。どうやってこれを。」
「見て。」
そういうとエナは別の木片を手に取り目を瞑った。
「錬成」
その言葉とともに木片はまるでスライムのようにグニャグニャと形を変え、最後には短剣の形になった。
「凄いですね!鍛冶師の方は、木材でもこんなことができるのですか!」
たまに鍛冶師の手伝いをしていた時に見せてもらったことがあったが、やはりファンタジーの世界に来たのだなとカリンは少し興奮していた。
「できない。多分エルフも。」
「じゃあ、エナさんはやっぱりすごいのですね!」
「カリンのおかげ。」
「いえいえ、エナさんの実力ですから。それにまだ練習中で未完成な啓示だったみたいですし。」
「お礼、したい。」
「そんな、いつも私がお世話になっているので。」
「なんでもいい。」
「なんでも!?何でもいいのですか!」
途端に邪な妄想を頭に浮かべ、真剣に悩みこむカリン。不意にエナが抱き着いてくる。
「どうしたのですか。また甘えたいのですか?」
「あり・・・がとう。」
「・・・はい。」
「私・・わた・・し・・・」
「はい。」
エナが普段見せなかった感情に何かを察したのか、カリンはそれ以上何も言わず、ただエナが離れるまで優しく頭をなでていた。