虜になりました?
エナ視点です。
今後主人公視点になることはあるのか。
朝起きるとなぜか自分の寝床で寝ていた。周りを見渡しても彼女、カリンはいない。
旅立ってしまったのだろうか。
「そっか・・・」
少し気落ちしながら起き上がる。まあ元々人のいる場所に向かおうとしていたのだ、こんなところに長居しても仕方がない。
「あ、おはようございます。」
顔を洗おうと水瓶のある足洗い場に向かう途中、工房の方から声をかけられた。振り返るとそこにはカリンが煤掃き用のほうきを持ちながら立っていた。
「どうしたの?」
「いえ、昨日はお世話になりましたし、何かできることはないかと思いまして。ご迷惑でしたか?」
「別に。」
嬉しいのに素っ気無い言葉しか言えない自分を呪う。
「ごはん、食べる?」
「あ・・・あの。」
気持ちをごまかすように言った一言に、彼女は表情を曇らせる。やはりさっきの態度がまずかったか。
何かを決心したかのように真剣な顔になった彼女と目が合い、体が強張る。
「どうか、ここに置いていただけないでしょうか。私にできること、いや何でもします。人里に向かう準備ができるまで、厚かましい頼み事なのですが、少しの間で良いのでここに置いていただきたいのです。」
その言葉を聞いて私は困惑した。心のどこかで自分が考えていた願望がそのまま出てきたことに。
「いいよ。」
「本当ですか!」
「・・・ずっといてもいい。」
しまった、思わず言ってしまった。これはいけない、彼女を縛る言葉だ。自分が恩義にかぶせて彼女を縛るようなことを言ってしまったことを心の中で反省する。
「お気遣いありがとうございます!頑張りますので、これからよろしくお願いします!」
ぱっと笑顔になりお辞儀をするカリンを見てほっと胸をなでおろす。どうやら気遣いだと思ってくれたみたいだ。
「よろしく・・・カリン。」
名前を呼ばれたことに彼女が一瞬はっとする。きっと今の私は顔が真っ赤になっているだろう鏡も見たくない。まあそんな上品な物ここにはないけれど。
「はい、エナさん。」
笑顔で名前を言い返してくれる彼女の声に、なんだか胸の奥がとても温かくなった。
ーーーーーーーーーーーーーーーーー
それから私の生活は一変した。
結論から言うとカリンは凄かった。
ごはんを作ろうとすると自分がやりますと言ってきて、試しにやらせてみるとこれがとても美味しい。同じ材料を使っても私には同じ味にできそうもない。
楽しそうに料理を作るので材料は好きなだけ使っていいよと言うと、少し困り顔になりながらも喜んでいた。
狩りに出かけるとさすがにわきまえているのか、ついてこようとはしなかった。だけど帰ってきた時には温かい料理ができていて、家も綺麗になっている。昔、お父さんが使っていたこの隠れ家は自分がここに来て以来、ここまで綺麗になっていたことはあっただろうか。
ある日は木の実や山菜をたくさん持ち帰ってきたときもあった。
護身用にと渡した自家製のナイフを使って採ってきたのだろうか。半分を家に置き、半分を私のあげた大きな布のカバンに入れていた。人里に行くための蓄えであろう。
必要だろうとカバンを渡したときには凄い勢いで首を横に振っていたが、今では大切に使ってくれている。私が逃げた時に使っていたカバンだ、良い思い入れは無いし、二度と使うつもりの無かったものだ。新しい持ち主が現れて本望だろう。
私が鍛冶をしている時は身の回りの手伝いをしてくれたりもした。水を持ってきたり、火種の為の薪を持ってくべてくれたり、鍛冶一本に集中できてまさに至れり尽くせりであった。これでもっと自分の鍛冶が上手くなれば尚更いいのだが、現実は甘くない。
たまにぼーっとしている時は「マッサージします!」と言って体をほぐしてくれたりもする。最初は人に触られることに慣れていなく拒否していたが、今ではこれが待ち遠しくなっている。そのマッサージというものをされると、何となく体が軽くなって力が湧いてくるのだ。祝福、祝福とよくわからない掛け声に治癒魔法でもかけられているのだろうか。手つきがいやらしく感じる時があるが私の気のせいだろう。少し気持ちよくなってしまうことは自省しよう。
そんな感じでいくつかの月日が経っていたある日のことである。
「まずい、このままじゃ。」
私は強烈な危機感を感じていた。いつの間にかカリンに依存しすぎていたのである。
隣で一緒に寝床で寝ているカリンを見て私は焦る。カリンに依存しすぎていたのだ。
家事に鍛冶、掃除など物理的なことに飽き足らず、心までもがカリンに依存しているのだ。
少し前まで一人で暮らしていたとは到底思えない。居なくなったらどうしようと不安になっているのだ。
ふと現実逃避をして出会ったころを頭に浮かべる。自分が一人で暮らしてきた時はどんな風だったのかを思い出すために。
「・・・そういえば。」
あの日とても不思議な夢を見た。
「そうだ。」
ちょっとした閃きに動かされ工房へ向かう。
「・・・できた。でもどうして・・・」
自分の閃きが上手くいったことに動揺するとともに一つの疑念が湧く。
「おはようございます。朝から鍛冶ですか?今ご飯作りますのでちょっと待ってくださいね。」
挨拶に来たカリンに私は湧いた疑念をぶつける。
「カリン。」
「はい。何でしょう?」
「啓示って何?」
その言葉を聞いたカリンの顔はとても青ざめていた。
土台を作って閑話で百合百合していきたい。