どうにかなりました?
「早くも餓死の可能性がありますね。何とかしないと。」
人界に降りた先は、どこともわからない森の中だった。幸い朝のようだったが周りに人の気配はなく、なおかつ食糧なんてものはなかった。
「まったく、神も悪魔も空腹という概念がないのでしょうか。」
一人で愚痴を言いながら、リドミエルに渡された本を読む。読み進めていくと前に天使としてきた人もやはり食料の確保を優先していたらしく、食べられる草や木の実の記述が豊富にあった。
「まずは食糧と水、次に住む場所、できれば何か衣服を・・・前途多難ですね。」
いま少女が所持している者は少なく、天界でもらった本と、地界にいた時から着ていた長い布のようなものに穴を開けただけの服であった。今更だが何か貰って来ればよかったと深く後悔していた。
「まあ天界には黙って入ったのですし、しょうがないですね。」
気持ちを切り替えた少女は食糧を探すべく歩き出す。ほどなくして小さな川が見つかった。
「これはこれは順調ですね。案外生きていけるかもしれません。」
半分まともに生きることを諦めていた気持ちに活力がわく。少女はその川伝いに足を進めていく。
川を伝っていけば、村などの生活居住区がある可能性があると思っていたからだ。
あくまで低い確率だが最低限確保できた水から離れるのが惜しいと感じたのも背中を押した。
しかしその後、日が傾き始めるまで歩き続けたが人がいる気配はなく、気力が尽きたのかその場に座り込んでしまった。
「やっぱり駄目かもしれません。」
川を歩く途中で拾った少し臭いの強い木の実をかじりながら少女は呟く。
結局その日は、そのまま疲れ果てて眠ってしまった。
翌日、目が覚めた少女は目の前の光景に息が止まる。
少女の目の前には何やら黒い前掛けをつけた子供が斧を持ちながらこちらをのぞき込んでいたからだ。
少し日に焼けているがとても愛らしいその顔に心にある衝動が暴れるが、どうにか抑えて言葉を紡いだ。
「・・・あの、どちら様でしょうか?」
少女が声をかけるとその子供は驚いたのか慌てて後ろに飛びはねた。
「言葉、わかるの?」
その子供の返答に少女はちょっとした手応えを感じていた。
神の力の一つに啓示という力があった。これには万物に神の言葉を伝え、内在に秘めた知識や能力の真理を明らかにするという力であった。
今目の前にいる子に言葉が通じるのはいわば副次的なものであったが、初めて力が役に立ったと少し満足していた。
「すいません。初めて来た場所で迷ってしまったみたいで・・・どこか人の暮らす村など近くにないでしょうか?」
すがるような気持ちで少女は聞く。
無言でこちらを見つめる子供に息が詰まりそうになるが、どうにか堪えて相手の言葉を待った。
しばらくすると警戒を解いてくれたのか、その子は質問に答えてくれた。
「ある。でも遠い。」
「そうなのですか。よければ教えていただけないでしょうか。」
「・・・」
またしばらく沈黙が続いた後その子供はゆっくりと森の中へ歩き始めた。
「来て。」
その言葉に慌てて少女は、立ち上がりついていく。
「嫌なものですね。」
後ろを歩きながら少女は自分の卑しさ、浅ましさに堪らず唇を噛む。自分は今、この子に上手く取り入り生きてやろうと考え打算しているのだ。
前を歩く丸出しでぷりぷりと動くその愛らしいおしりを見て、少女はさらにその思いを強めた。