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天使になりました?  作者: kcke
プロローグ
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プロローグ

「ふんふふんふーん♪早く来ないかなぁ♪」

 

 神殿の一室で少女が上機嫌で鼻歌を歌いながら、これから来るであろう誰かを待っていた。

 ここは天界。生前良い行いをした者が死後に行き着く場所、そして次の輪廻を迎えるまでの待機所とされている。

 そこは様々な神の住む場所でもあり、各々が神の役割を担っている。

 鼻歌を歌っていた少女リドミエルもその一人であり、運命神の役割を担っていた。


「楽しみだなぁ♪どんな子がくっるのっかなぁ♪」


 リドミエルが妄想に耽っていると不意に、大きなベルが鳴る。

 このベルは事前に部下が選定したある候補者の来訪を告げるベルであった。


「あれ?まだ来ないのかな?」


 痺れを切らしたのか、期待に待ちきれなくなってしまったのか、大した時間も待たずにリドミエルは候補者が出てくるであろう神殿の大広間へ向かっていった。

 とその途中、明らかに挙動不審な周りをきょろきょろとみている少女を見つけた。

 その後しばらく見ていると、少女はリドミエルに気付いたのか近づいて声をかけてきた。


「・・・あの、すいません。ここはどこなのでしょうか?」


 待っていました!と言わんばかりの笑顔でリドミエルは少女の質問に答えていった。


「君が候補者か!ここは天界。死んじゃった人たちが来る場所で次の輪廻を待つ場所。つまり君は死んじゃったわけだね。」


「私は死んだのですか?確か先ほどまで地獄のような場所にいたと思っていたのですが。」


「地獄?地界のこと?ああそうだちょっと待ってね。」


そう言うとリドミエルは宙から巻物のようなものを出し少女と交互に見る。


「あ、ごめんね。これはまぁ私の力で知りたいことがいろいろ書いてあるんだ。えっと・・・うわぁこれは酷いね。君、好かれていた同級生に夜家に火をつけられて無理心中で死亡って書いてあるよ。そりゃ地界と間違えるよ。」


「そうなのですか・・・それで、私はこれからどうすれば良いのでしょうか?」


「普通はここから輪廻の門ていうとこに行って転生するんだけど、あそこいつも忙しくて混んでてかなり長く待たないといけないんだよ。たまに間違った手続きしてチートやなんやってうるさい人の対応とかもしているし。」


「何やら大変そうですね。それで、私は輪廻の門という場所に向かえばよいのでしょうか?」


「それなんだけどさあ。唐突であれなんだけど君、天使になってみない?」


「天使、ですか?」


「そう、天使。読んで字のごとく天の使いとして、神の手伝いをする仕事さ。」


「それをなぜ私に?」


「それは君に適正があると思ったから。」


「適正?」


「ああ。まず遅れてごめん、自己紹介をするよ。私の名前はリドミエル。天界で何人かいる運命神というやつの一人で、その中でも君たちの世界でいう人事みたいなことをやっているんだ。それで今、君をスカウトに来たってわけ。」


 要領を得ない話に、下を向いて悩みこむ少女をみてリドミエルは慌てて話を続ける。


「じゃあ簡単に天使の仕事について説明させてもらうよ。君にやってもらいたいことは人界に降りて人々に啓示と祝福を与えて悪魔を打ち滅ぼしてほしい。まあよくあるやつだね。」


「よく分かりませんが、私にそんな大それたことができるでしょうか?」


「それができるかを見極めるのが人事の仕事。今資料を見た感じだと君は生前から、周りに天使のような人だとか、ママになってほしいだとか、まさに清廉潔白な天使にふさわしい評価だったそうじゃないか。それに・・・」


「それに?」


「なんてったって可愛い!ホントは百年に一人しか人界に天使を向かわせられないから何人も面接するんだけど、もうこれは一目ぼれだよ!こうなんていうか幼い感じなんだけど体から母性があふれ出ているというか、その母性の象徴とも言うべき大きなおっぱいとか!もう完璧だよ!ぜひ甘やかせてほしい!!それにそれに・・・はっ!?」


 冷静になったリドミエルが少女の顔を見ると、少し引きつった顔でこちらを見ていた。


「こほん。まあそういうことだから君が良ければこちらとしては歓迎するよ。あとそのほかに何か聞きたいことある?それで納得してくれるようだったらぜひ頼みたいと思っているのだけれども。」


「・・・それでは。」


それから少女は、いくつもの質問をしていった。


Q.断ってもよいのか。

A.かまわない。その場合は輪廻の門へ行って転生の手続きをする。


Q.人界とは?

A.その名の通り人の住む世界。ただ人だけがいるわけじゃなくていろんな動物や亜人もいる。今回はその中でも悪魔がいる所に向かってもらいたい。


Q.自分の元居た世界とは違うのか。

A.似ているようで違う。人界は結構な数あってその中の一つ。


Q.元々そこにいた人に行ってもらった方が良いのでは?

A.天使としては同じ場所に送ることができない。理由としては一度世界が吐き出した魂を同じ場所に戻そうとしても拒否反応が出てしまう。汚い言い方だけど吐瀉物を吐瀉物だと知っている人がもう一度飲もうとしないのと一緒。


Q.天界と人界の行き来はできるのか。

A.人界の魂のみができる。私たちの調べた限りではこの世界には人界、天界、地界の3つの世界があって、人界で死んだ際の魂の質によって天界、地界に導かれる。そのままにしておくと世界の定員オーバーになっちゃうから魂を輪廻の門を通して別の人界に送っている。ただし例外がある。


Q.例外とは?

A.百年に一度だけ世界同士が息継ぎをするかのように小さな穴をあける。その際に地界にいた一人、私たちが悪魔と呼んでいる者が無理矢理人界に入り込み、滅ぼしてしまった。そこは今魔の国と呼ばれていて地界の一部となっている。私たちはこのまま放置していてはいずれ世界同士のバランスが崩れ地界及び地界に侵された人界に侵略されることを危惧している。


Q.力を持った神様が行けばいいのでは?

A.耳に痛い質問だけれど、昔に神が人界に穴を通って行ったことがあった。しかし天界の魂が人界に馴染まず、酷く消耗しついにはその事実だけを伝えて消滅してしまった。神に魂はなく消滅してしまった為、二度と蘇ることはなかった。これは地界も同じらしく、実際人界を滅ぼした人物も人界の者に地界の力を与えた人間で、滅ぼした後に数百年かけて地界を受け入れる土壌を作ったらしい。土壌を作るには時間がかかり悪魔の邪魔も考えられる為、直接行くのはリスクが高すぎる。


その後も続く質問にリドミエルは途中、たじたじになりながらも答えていった。


「まとめると、私が神の力をいただいて百年に一度開く穴を通ってファンタジーな世界に行って、頑張って悪魔をやっつけるってことですね。」


「ま、まあそんな感じだね。質問多すぎてちょっと大変だったけど。それで、どうかな?」


「わかりました。面白そうですし、行きます。」


「まあしばらく転生までは時間があるしゆっくり考えてもら・・・えっ!?」


 突然の了承に戸惑いながらもリドミエルは話を続ける。


「そ、そうかい。行ってもらえるならこちらも助かるよ。まあ君のいく世界には先に行った先輩もいるし、出会えればきっと助けになってもらえると思うよ。あとこれ。」


そういうとリドミエルは一冊の本を渡す。


「これは?」


「今から行くところの資料みたいなものだよ。あっちの世界で死んだ天使が戻ってきたときに言伝で聞いたものを記録した本なの。300年位前のものだけど、まあなんとなく雰囲気は掴んでもらえるかなと。」


「そうですか。大切に使わせていただきます。」


「まあ人界に行ったらサポートなんてできないし、お願いする立場だからお礼なんていらないよ。それで、よければなんだけど話を受けてくれた理由って聞いてみてもいいのかな。今後の参考になるかもしれないし。」


「受けた理由ですか。そうですね、最初に行った面白そうっていうのもありますが、それより」


「それより?」


「私という自我が転生すると無くなってしまう恐怖に対しての逃げでしょうか。少しでも長い間自分でありたいという。」


「そういうこと・・・確かに私たちには無い感覚かもしれない。参考にさせてもらうよ。それじゃあ手を出してもらえるかな。」


「こうですか?」


前に出した両手をリドミエルが握ると少女の体が一瞬だけ強い光に包まれた。


「これは?」


「今君に神の力、啓示と祝福を与えた。使い方はまあ本でも見ながらゆっくり覚えるといいよ。」


「・・・わかりました。」


「これで私の仕事は終わり。じゃあ早速と言いたいところなのだけれど、世界の穴が開くのって多少誤差があるから待ってもらうことになるかも。」


「あの・・・その後ろのは何でしょうか?」


少女が指さす先をリドミエルが見ると、そこには宙に浮かぶ真っ黒な穴が歪に蠢いていた。


「こ、これ!なんで都合よく今出てきたんだろ!?しかももうすぐ閉じそうだし!!悪いけどすぐに入ってくれる!?」


「わかりました。それでは色々とありがとうございました。」


 妙に落ち着いた少女に違和感を覚えながらもリドミエルは答える。


「こちらこそ!君が世界をいい方向に導いてくれることを祈っているよ。」


 その言葉に少女は小さく頷くと、すたすたと穴へ歩いていった。


「ふふっ」


 くすりと笑う少女にリドミエルは何気なしに聞く。


「うれしそうだね。思い出し笑いかい?」


「ええ、地界でも同じようなことを言われたのを思い出しまして。」


「えっ?」


 その言葉を最後に少女は真っ黒な穴に消えていった。


 唖然となったリドミエルはその場に立ち尽くす。後ろから聞こえてきた部下の声は、もはや彼女に届いていなかった。


「あの子は何者なの?」

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