商店しまのうち
雪、雨、雪、雨、雪、雪、雪。サムイ
続きを作りました。
お読みいただければ、幸いです
"男性用"愛玩ドールとして作られた佐竹光子は幾人ものヒトに買われ、"欲求解消のため"ソウイウ行為をされてきた。
個体識別のための人名はあったもののヒトは光子のことを、自分の好きなように呼んだ。
あるときは、明らかに洋風の顔ではないにもかかわらず光子を「エリス」と呼ぶものもいた。
「嗚呼、私の愛しい『エリス』。お前を再び抱くことが出来る幸福に感謝を。」
そのヒトは優しく、光子を抱き締める。恋人か、家族か、それを推定することしかできないがそのヒトは唯一、光子にソウイウ行為をしなかった。
面対し、光子はそのヒトの話を聞いているだけだった。
光子は今、小さな雑貨屋の奥で埃をかぶっている。
宝石のように美しいと称された双眸は、固く閉じられている。
「これはこれは。喜瀬川さま、このようなセマイ店にようこそおいでくださいました。」
店の奥からやって来たのは壮年の、比較的やせ形の男。名を島之内 三太夫という。三太夫はいかにも人当たりが良さそうな笑顔を浮かべて、喜瀬川を店へ向かい入れた。
三太夫の店は雑貨屋であり、質屋のようなこともやっている。問屋でもあり、商店でもあり。
「セマイ店とはなんぞ。元は、俺の土地だがやなあ。」
三太夫の店は元々喜瀬川の所有する土地に立っており、喜瀬川は三太夫から毎月"ショバ代"、家賃を徴収している。
「まあそんなことを、おっしゃいますな。さて、何かご入り用で?」
三太夫は、喜瀬川に頭が上がらない。が、三太夫の性格ゆえか喜瀬川に従属しているわけでもない。三太夫はつかみどころのない、ぬらりぬらりした男だった。
余談だが、喜瀬川は三太夫のことをひそかに"ぬらりひょん"と呼んでいる。無論彼は、他人の家に無断で入っていったことはない。
喜瀬川とて三太夫に店と土地を貸しているのは商売ゆえであり、別段三太夫を従属させたいわけでもないのだが。
「子守りをひとつ、求めたいのだが。」
喜瀬川はどかり、と上がり框に腰を下ろし三太夫に向き直り言った。
喜瀬川の傍らに立っていた三太夫は一瞬、目を見開いて「えっ。」と声を漏らしたが、すぐさま顔をもとに戻す。
「喜瀬川さま、うちは何でも屋じゃあありやせんぜ。子守りなら保育所に行ってくだせえ。」
気のせいか、三太夫の左眉尻がひくりひくりと動いている。
なるほど、奴はイライラしているときにああなるのか、と喜瀬川はひとり思った。
「なに、適当な愛玩ドールを見繕ってくれりゃいい。」
喜瀬川は持っていた杖を足場へ立て掛けると、懐をさぐり煙草とライターを取り出す。商売人の性か、三太夫はどこからか灰皿を持ってきて喜瀬川の傍らに置いた。喜瀬川は感謝の意の為に左手を少し上げる。
言われた三太夫は、アゴに右手を添えて考える仕草をした。
「愛玩ですか。ドールの改造でもなさるんで?でも、オトコどもの臭いと"液体"が染み付いた木偶なんて、子守りにできますまいて。」
ヤッパリ女は芳しい香りがしないと。と、三太夫はキッパリと言い切った。
「そうは言っても、依頼主が無一文でな。できるだけ"安い"奴を頼みたい。」
子守り専用の機械人形が売っていないわけではない。だが、そのように専門的に作られたドールは目が飛び出て戻ってこなくなるくらいに、値段が高い。
愛玩ドールが高くないわけではないが、改造する方がはるかに安上がりと言える。中古のドールとなると、少し頑張れば手が届くくらいの値段になる。
もちろん、改造費とて安くはないのだが。
「ほあ、喜瀬川さまほどのお方がタダ働きですけえ。」
「意外だと思われるが、俺は受けた恩を返す方でなあ。今回の依頼主は、命の"恩人"なんだよ。」
「あなや、喜瀬川さまの恩人とは如何なるお方です。」
喜瀬川は、吸い込んだ煙草の紫煙を吐き出すと暫く考え込む。三太夫も聞いてはいけないことを聞いてしまったのかと、無言になった。
二、三十秒の沈黙のあと、喜瀬川はやっと口を開く。
「まあ、あえて言うなれば人でなしよ。」
お読みいただければ、幸いです。
近頃異常気象のせいか、体調が安定しません。皆さまもお気をつけて。




