軽い自己紹介と演技
「それで…あなたは…誰…?」
弱々しいがしっかりとこちらをにらみつけている。向こうからしてみれば自分が半裸で目の前に身元不詳の男がいたのだから女性として警戒するのは当たり前だろう。警戒されなかったら今の状況について話しやすいのだが、それはそれで何かありそうで怖い。なのでとりあえず気にしないことにして、望み通り簡単にだが自己紹介することにした。
「あー俺は高校二年の工藤健也。誕生日は9月9日で今年17。っとこんな感じかな?」
「ク…ドウ、ケンヤ?9ガツ…?」
少女は首を傾げる。変なことを言っただろうか。。姓も名もどの学校にも絶対に1人はいるような普通の名前だし、それに9月生まれ、というのだって別に首をかしげるようなことじゃないはずだ。9月生まれなど探せば全国に何万人といる。
「クドウ、ケンヤ……」
もう一度名前を繰り返す。先程もそうだったのだが、一部の単語だけどこかたどたどしい。
「そーそー工藤健也。んでそっちは?」
「………レイン…」
「レインさん、か。」
髪色などからある程度予想はしていたがやはり名前からして外国人っぽい。先ほどのたどたどしい日本語も日本語で話しかけられたからつい勉強していた日本語が出てしまったが、わからない言葉が出てきて詰まった…と、こんな所だろう。
だが大きな疑問が残る。というよりは最初からこれが一番の疑問なのだが、この少女もといレインがどうやってこの部屋のベッドに現れたのかだ。先ほど母親が勘違いしたように自分で彼女連れ込んだ、と考えるのが普通だ。だがそんな覚えは一切ない。いつも通りのことをしていただけだ。
「レイン、さん。いくつか聞いてもいいか?」
レインがためらいながらも頷いたその時、何かに気が付いたようにハッと自分の首元に触れる。
「な、ない…」
そして触れた首元には何もないと認識した彼女は急に取り乱した。
「ない、ない…なんで?なんでないの…?」
子供のように泣きじゃくり、全身をガクガクと震わせ、なんで、やだよ、とうわごとのようにつぶやいていたのだ。その様子にただ事じゃないと感じ、
「おい、とりあえず落ち着け!!」
と、とっさに手首をつかんだのだが、この状況でそれは悪手だった。
「いやぁ!!」
とても泣きじゃくる少女とは思えない力で振り払われる。
「なっ!?」
その衝撃でバランスを崩し、体が左に傾く。
「あっ」
「うぉ!?」
ドンッ!!
部屋に大きな音が響いた。何とか横に倒れきる前に左手で体を支え、顔などは無事だったのだが、
「いっつ…」
全体重がかかった左手はそうはいかず、ズキズキと手首に痛みが走る。おそらく捻挫、最悪骨折していると思われる。
「ぅ………」
レインの混乱は少し落ち着いたみたいだが、ふとしたきっかけでいつまた取り乱すかもわからない。俺はこれ以上彼女に負担をかけないようにしようと、とりあえずケガをしたことは隠すことにした。
「大丈夫大丈夫」
と左手を大げさにプラプラさせる。もちろん嘘だ。とてつもなく痛い。大泣きして転がりまわりたい程度は痛い。だがおくびにも出ないようにつとめ、笑顔で答える。だがそんな演技も
「…………うそ…だよね。」
……普通にばれてるやん。
レインはあっさりと見破ってしまった。
「いやいやほんとになんともほぉ!?」
何とか言いつくろおうとしたのだが、途中で手首をつかまれて声が裏返ってしまった。
「……」
じっと見つめられる。流石にもう隠せないと観念し、演技をやめた。
「あーはい普通に痛いです。」
「やっぱり…顔に出てた。」
「え?まじ?そんなに出てた?」
「うん……すごくわかりやすい……」
「…………ソーデスカ…」
演技には結構自信があったのだが、すごくわかりやすいとまで言われショックを受ける。
「なんか……ごめんなさい」
先ほどまで取り乱してしまっていた少女に気を遣われた。なんかすごく恥ずかしい。何なら穴掘って入れるよ多分。
「いや別に気にしてないからいいけど…。それはそうとマジで痛いな。湿布でも貼っとくか。」
見ると左手首はかなり赤くなっている。もし演技がうまくいっていたとしてもじきにばれていただろう。というか今となってはこの状態を見て判断したのではとも思える。まぁケガをしたのは左手だ。右利きなので文字は書けるし、それに帰宅部なのでそこまで大きな支障はない。強いて言えばスマホとかの操作がしにくくなるというところだが、それは言っても仕方がないので我慢することにした。
はい、あけおめです。
久しぶりすぎるわらいぬです。
完全に間が開いたので1話からキャラ変わってたりしたらすいません。
まぁ暇つぶしにしてるだけなので暇にならないとできないっす。
っとどうせ誰も見てないか(悲)