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ハーフ・ヴァンパイア創国記  作者: 高城@SSK
第三章 王都編
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38 鷲のギルドⅣ(前)

「悪かった」


 ティアは謝り続けた。


 ぐずる赤子をあやすようにカホカを近くに寄せ、頭を()でて(なぐさ)める。


 そうしていると、そろそろとカホカの手が伸びてきて、両頬をつねられた。


「……ひゃにひゅる?」


 つねられたままティアが訊くと、「もういい」と、長椅子の上で膝を組んだまま、カホカが蝸牛(かたつむり)のようにずりずりと元の場所に戻っていく。


 カホカは、ずず、と鼻をすすり、睫毛(まつげ)を濡らしたまま、じいっと空になった牛乳の杯を見つめている。


「おかわりをもらうか?」


 すこしの間があってから、こくりとカホカがうなずいた。 


「頼んでみよう」


 ティアは立ち上がって部屋を出た。扉を閉めて人を求めようとすると、すぐ傍にディータが立っていた。


 こちらに気づいているのか、いないのか、ディータは腕組みをしたまま、特に何をするでもなく手持無沙汰(てもちぶたさ)に広間を眺めていた。


「何かあったのか?」


 ティアが近づいていくと、ディータはこちらを見もせず、「ないな」とぞんざいに返してくる。


 当を得ないディータの回答に、ティアは思い至って笑みをこぼした。


「待っていてくれたのか」


 どうやら、部屋の雰囲気を察してカホカとふたりきりにしてくれたらしい。


「気を使わせてしまったみたいだ」


 心(づか)いに感謝し、ありがとう、とティアが頭を下げると、ディータが驚いたように片方の眉を持ち上げた。


 そのままティアを見下ろしてくる。


「何か?」


「いや」とディータがちいさく首を振った。


「カホカといったか、あの娘を(しか)りつけたお前さんが、一瞬、化物に見えてな」


 ぎくり、とティアの心臓が鼓を打つ。


「どういう意味だ?」


 平静の口調になるよう、努めてティアが訊くと、


「あの娘の腕っぷしが半端じゃねぇってのはわかる。お頭もそうだが、強い奴ってのは、身体の動かし方が普通の奴とはちがう動きになるらしい。こう見えてそれなりの修羅場をくぐってきたからな」


 だが、とディータは腕を組んだまま、ティアを見下ろす。


「お前さんはそれほどじゃあねぇ、最初はそう思っていた。──だが、あの娘を完全に丸めこんで委縮させちまうってのは、ウチのお頭でもできるもんじゃねぇ」

「……カホカとは幼馴染なんだ」


 苦し(まぎ)れにティアが言うと、「そうか」とディータは口元に笑みを浮かべた。


「ま、あんたがそう言うんなら、そうなんだろう。別に俺がつっこんで聞くような話じゃねぇ」


 どうやら、ディータは確証があってティアを「化け物」と言ったのではなく、勘に近い感覚でそう思ったらしい。


 誤魔化(ごまか)すことはできるだろうが、不審(ふしん)に思われてもつまらない。


「私には、事情がある」

「ほう」

「ある者に、家族と、大切な者たちを奪われた。ディータの言う通り、私は化け物なのかもしれない。いや、化け物なのだろう。そう思われても仕方のない存在だ」


 ティアは広場に目を向けた。鷲たちのなかには、こちらに気づいて見返してくる者もいた。


「……その私が何をすべきか、成し得ることができるのか、ずっと考えている」

「それが俺たちの味方をする理由か?」

「あなたたちの味方をしようとしているのは、どちらかと言えばカホカのほうだ。ああ見えてカホカは仲間意識が強い。私は、何かを知り、見たい、という気持ちからだと思う」

酔狂(すいきょう)なことだ」

「酔狂か」


 そうかもしれない、とティアは他人事(ひとごと)のように思う。


「じっとしたままだと、永遠の時が過ぎるのを、ただ待つだけになってしまう気がする」

「首を突っ込むと、大怪我をするかもしれんぜ」

「大怪我……」

怖気(おじけ)づいたか?」


 ディータに訊かれ、ティアはゆっくりと顔を持ち上げた。瞳を細くさせて笑う。


「死ぬ程度の大怪我なら、経験済みだ」

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