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ハーフ・ヴァンパイア創国記  作者: 高城@SSK
第二章 緋と館編
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13 カホカ=リュニオスハート

「じゃれるのはそこまでにおし」


 老婆に言われ、カホカは「うぃうぃ」と、その隣に腰を下ろす。


「で、アンタがタオのなんだって?」


 首を傾げ、カホカが訊いてくる。


「オレが、タオ=シフルだ」


 ティアが告げると、カホカが「はぁ?」と、こちらを見つめてくる。それから自分の胸とティアの胸とを見比べ、ポツリと「死ねばいいのに」と物騒なことを言い添えた。


「なんでタオがアタシよりも大きくなってんだよ?」


 そこは、「なんで女になってるんだ?」と訊くところではないだろうか。


 ティアは咳払いをしつつ、


「色々あったんだ。とりあえず話を聞いてくれ」


 これまでの経緯を話すと、カホカははじめ不審そうに聞いたが、話が進むうちに次第に熱心に耳を傾けるようになっていった。


 そうして自分が女に──吸血鬼(ヴァンパイア)になった経緯までを話し終えると、


「ふーん……」


 ぽりぽりと、カホカが頭を()いた。


「イヨ(ばあ)はどう思う?」

「嘘をついておる様子はない」

「うーん……」


 カホカはまだ釈然としない様子だ。しかし、それも当然かもしれない。旧知の人間と久しぶりに顔を合わせてみた結果、容貌だけでなく、性別までも変わっていたのだ。


「じゃ、訊くけどさ」


 そう言ってカホカからいくつかの質問を受けた。すべて、タオとカホカの出会いから師匠での修行の日々についてだった。当人たちでなければ知るはずもない内容である。


 もちろん、タオであるティアに答えられない質問はなかった。


「ぜんぶ、正解なんだよなぁ」


 カホカが困ったように笑った。腕組みをすると、


「ていうか、アンタの話がぜんぶ本当なら、めちゃくちゃ悲惨な目に遭ったってことじゃないの?」

「だから、そう言ってる」

「すげーひどい奴じゃん、そのウラスロって奴」

「そうだ」 


 思わず、ティアの目つきが険しくなった。


「……嘘であってくれれば、どれだけ救われることか」


 燃えるシフルの街と、冷たい影と化した家族たち。 


 その光景が脳裏に映し出された時、ティアの双眸がにわかに赤く染まりはじめた。思い出すだけで呪詛と憎悪とが混ざり合い、腹の底に黒く溜まっていく。


「オレは、すべてをウラスロに奪われた」


 ティアの言葉に、カホカが驚いたように瞳を大きくさせた。


「アンタ……」


 まじまじとこちらを見つめてくるカホカに対し、ティアもまた、まばたきもせずカホカを見つめ返した。


「本当に……?」


 カホカがするどく息を呑む。


 その時、隣の老婆が口を開いた。


「王都に行く、とクラウディアから聞いておる。お前はいったい、国の第一王子に復讐でもするつもりかえ?」

「そりゃ、するでしょ」


 なぜかカホカがうなずく。が、一方のティアはうなずくことができなかった。


「復讐はしたい」


 瞳の力を弱めていく。


「いや、しなければいけない。今すぐウラスロを殺したい。でも──イスラはまだ早いと言う。いまのオレには無理だと。それでもオレは王都に行こうと思った。自分が何を思うか、何ができるのか、確かめたいんだ」


 タオ=シフルであって、タオ=シフルではないもの。


 自分はいったい何者なのだろう。


 改めてティアは思う。


 ──吸血鬼(ヴァンパイア)


 夜を支配する者、泣き虫(ティアーナ)の吸血鬼。


「……イスラとはお前の影に潜む者かえ」


 老婆から訊かれ、ティアが答えようとすると、


「その通り」


 イスラの声が室内に響いた。ティアの影から、イスラがゆっくりと顔を出し、その体躯を現す。


「おお、でっかい犬」


 カホカが猫のように円らな瞳を見開く。


「狼じゃ」

「へぇ」となぜかカホカは嬉しそうに顔を輝かせた。

スグリの実(ベリー)食うか?」

「いらぬ」


 ぷい、とイスラはカホカから視線を老婆に向けた。


(おうな)よ。なかなかに奇妙な力を持っておるな」


 イスラから言われ、老婆は含んだ笑い声を漏らした。


「なに、他より長生きが進めばこうなりましょう。猫も戸を開けるようになる」

「狼もな」


 お互いにくっくと笑う。ティアはイスラと老婆を交互に見やった。両者とも永い時を生きているだけあって、共感する部分があるのかもしれない。


「強い神気を感じまするな」

「この程度の力、残り(カス)のようなものじゃ」


 言い、イスラはティアを鼻先で示す。


此奴(こやつ)を吸血鬼化させるためにほとんどの力を使い果たしてしまった。にもかかわらず、此奴は感謝すらせぬ」

「しているぞ」


 思わずティアは口を挟む。感謝は、している。本音を言えば、吸血鬼化うんぬんではなく、ただ一緒にいてくれるという、それだけで十分感謝をしているのだが、さすがに面とむかって伝えるのは気恥ずかしい。


「挙句の果てに血さえ飲もうとせぬ。まったく呆れた娘じゃ」


 やれやれと首を振るイスラに、ティアがむっつりと黙り込んでいると、


「血が欲しいのか?」

「いや……」


 カホカからあけすけな質問を投げられ、ティアは口ごもる。


「アンタがタオなら、別にちょっとくらいあげるけど」


 そう言ってカホカは自分の首筋をティアに見せつけてくる。白いうなじを見せつけられ、ティアが所在なげに視線をさまよわせると、「ははーん」と、カホカは意地悪そうに口の端を持ち上げた。


「もしかして恥ずかしがってんの?」


 くっひっひ、と笑いながらカホカは卓に膝をつき、こちらに身を乗り出してきた。これ見よがしに自分のうなじを見せつけてくる。


「ほぉーれ、ほぉーれ。このエロすけめ。カホカちゃんの血が欲しい言うてみ」

「誰がエロすけだ!」

「よかったのう」


 つまらなさそうにイスラが言った。


「提供者が見つかったぞ、喜べ」

「喜ぶかよ」


 ティアは自分の頬が熱くなるのを感じて顔をそらした。


「誰がこんな奴の血なんか……」

「あぁん?」


 カホカが不満そうな顔をこちらに近づけてくる。


「アタシの血が飲めねぇってのか」


 息巻く姿は酔っ払いのそれである。


「上等じゃねーか。オラ飲め、飲めこの臆病者(チキン)やろう。ここいらじゃ、アタシの血は馬鹿みてぇにうめぇってもっぱらの噂」

「いい加減なことを言うんじゃない!」

「そんなもん飲んでみなきゃわかんないでしょうが。あ──」


 はっはーん、とカホカはさらに口の端を持ち上げた。彼女がこの邪悪な笑みを浮かべるときはロクなことが起こらない。


 案の定、カホカは卓に置いた膝を持ち上げると、上衣の長裾をずらして太腿(ふともも)を見せつけてきた。


「こっちか。こっちがええんやろこのメス豚め。ほれほれぇい」

「やめろ、馬鹿!」

「乳がなんぼのもんじゃーい!」


 ふはは、と勝ち誇ったようにカホカが高笑いする。完全に酔っ払いである。


 すると、老婆の杖が床を叩いた。


「カホカ、遊びが過ぎるよ。いい加減におし」


 老婆に叱られると、カホカは驚くほど素直に「へーへー」と椅子に戻り、卓の上で両脚を組んだ。


「タオのせいでイヨ婆から怒られちゃったじゃない」

「……全部お前が勝手にやったんだ」

「まったく、話が進まなくていけないね」


 愚痴をこぼし、老婆は苦い笑みを浮かべた。

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