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ハーフ・ヴァンパイア創国記  作者: 高城@SSK
第五章 創国編
226/239

6 サスとシィルⅡ(23/2/10投稿分)

第五章のはじめにキャラクター紹介を挿し込んだので、ページが繰り下がります。本日投稿分の最新話は次ページです(23/2/20現在)。

 四方を集合住宅に囲まれた中庭に、井戸がある。


 サスとディータは周囲に人がいないのを確認しながら、井戸の前のベンチに座った。ディータは井戸の縁に座り、互いの死角を消し合う。


 ディータが話しはじめる前に、サスはカホカからの手紙の内容を伝えた。


「ティアが国を創る? どうやって?」


 ディータが目を丸くして訊いてくる。サスは両腕をベンチの背にかけながら肩をすくめた。サスは国を創るなど考えたこともないし、答えようがない。

 しかし、ティアならできるかもしれない、と安易に考えている自分もいた。信頼しているといえば聞こえばいいが、客観的に見れば、詐欺にひっかかっていると思われても仕方ないだろう。


 サスは苦笑して、ディータに訊く。


「できると思うか?」


 すると、ディータはすこしだけ考えて、言った。


「できるとは思わねぇが、無理だとは言いたくねぇな」

「俺も同じだ」


 サスは歯をのぞかせ、


「できるかできないかは、まぁ、この際おいておくとして、ティアが本気でやるっつーなら、手伝ってやらねぇとなって気持ちはある」

「ああ、もちろんだ」


 力強く胸を張るディータに、サスは「だが──」と中庭から空を見上げた。


「結局これでギルドは壊滅するかもしれねぇ。大博打だ」

「当たれば大儲けだ」

「だといいが。どっちにしろ乗るか乗らねぇかはレイニーの判断だ」


 鷲のギルドの頭目であるレイニーは、現在、人身売買組織に売られた妹の捜索のため、ノールスヴェリアに出国している。


「兄貴は乗るつもりなんだろう? お頭だって受けると思うぜ、俺は」

「そうだな。だから、中央(ゲーケルン)で起きた出来事はこれまで以上に詳しくカホカに知らせてやろうと思う」

「わかった」

「それで、ディータ。お前の用件はなんだ?」


 サスが空から顔をおろすと、「ちょうどゲーケルンのことなんだ」とディータはちいさく笑い、それからすぐに顔を引き締めた。


「ハズクだ」

「あいつか」


 その名前に、サスの表情も険しくなった。


「ハズク=ビュンバク。軍治安部所属──」


 そこからディータは話しはじめる。


「事務方の下位要職って感じだな。指示を受けて実務的な細かい差配を行う」

「身代わりにするにはもってこいの立場ってわけだ」

「だな。兄貴も面識があるんだろう?」

「見た程度だがな」


 答えながら、サスはハズクの姿を思い出していた。

 ハズクを見たのは、蛇のギルドに捕まり、ゲーケルンの軍港に連行されたサスが、囚人護送用の馬車に乗せられた時だった。

 ファン・ミリアの所属する聖騎士団に護送の応援を依頼した口ぶりだったから、聖騎士団にも伝手(ツテ)があるのだろう。


 その後、サスがハズクを見たとき、彼は死体だった。

 

 サス同様、蛇のギルドに捕まったシィルが送られたのが、ハズクの屋敷だったのだ。

 

 サスは王都の隠者トゥーダス=トナーの家に寄宿していたユーリィ=オルロフのはからいにより、(おい)のキーファ(キバルジャナ)とともにシィルを助けるためにハズクの屋敷へと訪れた。そこでふたりはハズクをはじめ家人を皆殺しにした執事の化け物に遭遇し、シィルを助けるとともに、化け物を退治することに成功している。


 また、一方で鷲のギルドが捕獲した蛇のギルドのメンバーを拷問した際、人身売買の依頼主がハズクであることを証言している。


 話を整理するほどに黒すぎる人物として浮かび上がってくる男だが、サスから見れば、


 ──わかりやすすぎる。


 のである。こいつが犯人だといわんばかりの状況証拠が、かえってその裏に潜む闇を見え隠れさせている。


 ──だからこそ口封じに消されたんだろうが。


 あるいは蜥蜴(トカゲ)のしっぽ切りか。さらに言えば、ハズク(および屋敷の家人)殺害容疑はサスにかかっている。はめられた、ということなのだろう。鷲のギルド員たちはアジトを放棄して王都内で散り散りに身を隠し、サスはこうして貧民街の集合住宅をねぐらにしていた。


「兄貴がハズクの屋敷に忍び込んだとき、地下に牢屋があったんだろう?」

「ああ、そこにシィルが捕まっていたからな」

「牢屋は広かったのか?」

 

 意味ありげなディータの問いに、サスは怪訝顔を作る。


「そうだな、広かった。牢屋がいくつもあったからな。地下全体がどっかの刑務所みたいな(へや)だった……」


 答えながら、サスも気づく。


「他に誰かが捕まっていたってことか?」

「俺がカホカと兄貴を助けに軍港に向かったとき、何人もの女が蛇のギルドの船から出てくるのを見た。その時、俺たちは兄貴を助けるのが目的だったから、女たちがとこへ連れ去られたかは知らねぇが」

「ハズクの屋敷ってわけか。そうだろうな」

(さら)った女をハズクの屋敷の地下牢に置いておく。だが、兄貴が行った時には……」

「ああ、シィルしかいなかった」


 ディータはうなずく。


「じゃ、兄貴の見てない他の女たちはどこに行ったか、って話だが」

「普通なら、金を持ってる貴族や商人に売るはずだよな」

 

 わざわざ鷲のギルドをつかって連れてくる以上、何かしら相応の見返りがあるはずだ。無料(タダ)で働く馬鹿はいない。悪だくみする連中ならなおさらである。


「どうやら」ディータは重い息を吐いた。「王城(ウル・エピテス)らしい」

「なに?」

 

 眉根を寄せるサスに、ディータは神妙な顔つきで言った。


「ハズクの屋敷の周囲を調べさせてみたんだが、夜中にハズクの屋敷から箱馬車が出ることがあったらしい。ひとりかふたりが乗れるくらいの小型だった。同じ時間帯に、貴族街から市街(こっち )の門を出た記録はない」


 貴族街の門は大別して二種類である。

 王城へと入る門か、こちらの一般の市街へ出る門か。


改竄(かいざん)されたってことは?」

「一台や二台ならそういうこともあるだろうが、女たち全員を運ぶのはそれなりの回数がいるし、攫ってきたのも今回だけとは思えねぇ。仮に書類上、うまく隠せたとしても、市街を通れば誰かが見ているはずだ。俺たちの網にかかる」

「つまり王門か」

「王門のほうが書類の管理は厳しい。が、外から見て厳しいってことは、中では好き放題できるってことかもな。なんとか手に入れた一部の情報によると、該当する時間帯に、『新しい給仕』の補充が軍から王城に送られている」

「ありえねぇな」


 サスは鼻で(わら)う。


「攫ってきた理由が、ただ給仕として雇うためってか。ありえねぇな──なんでだ?」

「そこまではわからねぇ。が、ヤバそうな臭いがプンプンだ」

「だよな」と、サスは唇をゆがめる。「俺なら死んでるほうに賭けるぜ」

「俺もだ」とディータ。

「しかし、誰が、どうして殺すか、だ」


 サスは脚を組んだ。口元に手を当て、深く考え込む。


 国の信用を揺るがす危険なことを、意味もなくするはずがない。

 この一連の仕組みは明らかに組織だっている。


「ハズクが死んだってことは、これで終わりか? そんなわけはねぇよな」


 サスは自問自答する。


「また新たな動きを見せるに決まってる。現に『蛇』はおかしな動きをしているし、次のハズクが出てくるだけだ。奴の奥にいる誰かを引きずり出すしかねぇが……」


 ハズクの屋敷で、サスは書斎の資料を一通り調べたが、それらしいものは出てこなかった。口封じに暗殺されたなら証拠隠滅されていて当然だ。

 

 ──だが。


 屋敷すべてを調べたわけではないし、重要な証拠を書斎のようなわかりやすい場所に隠すとは限らない。


「もう一度調べたほうがいいか」


 すでに日にちが経っているため、何かが残っている可能性は低いだろう。しかし、ほんのすこしでも手がかりとなるものがあれば……。


「ディータは馬車の『荷』がどうなったか引き続き調べてくれ。あんまり城のなかに深く入りすぎるなよ」

「わかった。兄貴は?」

「俺はもう一度ハズクの屋敷を調べてみる。何か出てくれば儲けものだが、まず無理だろうな」

「ハズクの屋敷を? 待ってくれ、兄貴が行くのは危険だ」

「どうせ何もありゃしねぇよ」

「だめだ。どうしてもって言うなら護衛をつけてくれ。用意しておく」

「お前もたいがい心配性だな」

 

 サスは苦笑する。

 ディータの気遣いはありがたいが、サス自身にとっては自分の危険は慣れたものだし、護衛などと聞くと王侯貴族にでもなったようで落ち着かない。

 しかし、ディータは護衛をつけると言い張って引き下がらない。


「わかった、わかった」

 

 先に折れたのはサスだった。


「誰か腕が立つのをつけていく。が、ディータも人手が足りてるわけじゃねぇだろう。こっちで用意する」

「だけどよ」


 それでも渋るディータに、


「心配すんな。必ずつけて行くさ」


 サスはベンチを立ち上がった。


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