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2015年/短編まとめ

私は素敵ではないのだよ

作者: 文崎 美生

好きな人がいた。

その人はいない。

もういない。

ずっと前からいない。


何度も何度も読んだ本を閉じる。

いつも読み終わった後は虚無感に包まれた。

何十何百と読んだ本。

とてもとても大切な本。


初めて読んだ時に感銘を受けた。

書いた人が如何に素晴らしい人なのか知ったのだ。

私はその人を好きになった。

初恋だった。

後にも先にもこの恋だけ。


才能に溢れた人だった。

家柄も文才も絵画の才能もあった。

大人の色気も持っていた。

沢山の女性を魅了した。

そして何より強かったのは自殺願望。

死にたい死にたい、思うだけじゃなかった。

本気で自殺をした。

そんなところも好きだった。


彼はきっと寂しかったのだ。

寂しくて寂しくて、仕方なかったのだろう。

私には分かる。

私だけが分かる。


彼の気持ちは全て作品に込められていた。

無頼派として存在した彼。

退廃的な作風から彼のそれが伝わってくる。

でも、彼はそれだけじゃない。

ユーモラスな作品も数多く存在する。

彼の退廃的作品ばかりに気を取られる人は、彼の本質的なそれを知らないでいるのだ。

彼の持つ二面性的作品に心が奪われた。


それに女性を魅了しただけあり、女性一人称の作品も多く存在するのだ。

如何に彼がモテていたのかが分かる。

男の甲斐性だと思い、受け容れるだけの懐の余裕も私には存在するのだ。


作品だけで伝わる。

彼がどんなに素晴らしい人だったか。

彼がどれだけの人を魅了したのか。


そして私もそんな彼に魅了された。

彼しか愛せなかった。

彼の作品も彼自身も愛したのだ。

私が小説を書き始めたのも彼の影響。


だから今まで書いた原稿の束を持つ。

何百、何千とある数え切れない、数える気も失せてしまうそれをまとめて鞄に入れた。

これは私から彼へ送るラブレターのようなもの。

本当に愛しているのだ。

おかしいと思われても、おかしいと言われても、私は彼を愛している。


だから私は彼に会いにいく。

彼と会いたい。

彼にこの想いを伝えたい。


冷たい水に足を入れてみた。

彼は寒くなったろうか。

私が暖めてあげたかった。

彼の隣にいた女性が羨ましい、恨めしい。


でも私は彼以外と添う気はない。

だから一人。

彼は寂しくなっただろう。

私は彼に会いに行くから一人でも寂しくない。

むしろ今、喜びに満ち溢れている。


待っていて、今、会いに行きます。


彼へのラブレターを抱えて、冷たい冷たい水に全身を沈めた。

冷たい、寒い、苦しい。

それでも心は満たされた。

彼は素敵な人だ。

私をこんなにも満たしてくれるのだから。

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