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靴箱のところへ降りたところで空は真っ暗になった。ポツリポツリとアスファルトの色を変えた大粒の雨が、地面から水しぶきが上がるほどのどしゃ降りになるのにさほど時間はかからなかった。
のぞみと亜樹は顔を見合わせた。
「どうしよう。傘持ってきてないし……」
亜樹がつぶやく。
「そっかぁ、亜樹、今日バイトだもんね」
亜樹は週に二日、駅前のスタバでバイトしていた。ふたりが通う高校は山の中腹にあって、駅前までは十五分ほど歩かなければならない。
「ちょっと、あれ」
のぞみが靴箱の脇の傘立てを指差した。一本の黒いこうもり傘が立ててある。
「えぇー、あれぇー?」
「いいじゃん。誰も見てないしさ。びしょ濡れでバイト行くよりましだって」
「のぞみはどうすんの?」
「あたし、バス停逆方向だから、もうちょっと雨止むまで待つよ」
亜樹はしぶしぶ黒い男物のこうもり傘を広げて屋外へでた。
「急がないと遅刻しちゃうよ」
のぞみの声は雨の音に消されて届かなかったのか、亜樹は振り返りもせず、まるで黒い傘に包み込まれるように白く煙った雨の中を遠ざかっていった。そしてそれが、亜樹を見た最後になった。




