星の音を弾ける者。
結局、親の反対を押し切って始めた吹奏楽部も辞める事になった。自分の考えが周りとあわない。無理してあわせる事もない。仕事もそこそこ、続いている。フルートが好き。大金はたいて、親に借金してまで、買ったフルート。このままでは、駄目だ。何かに突き動かされ、街の吹奏楽部に入った。全て、順調でライブも成功していた。でも、心の中に空いた隙間が埋まらなかった。友達との会話も詰まらなかった。ふと、友達に誘われて行った旅行で、不思議な店を目にした。輸入雑貨の店だった。入口にたくさんの置物が置いてあった。良く見ると、彫像のようであった。天使の人形にも見えた。
「何だろう?」
友達は、店の入り口付近に置いてある茶器に夢中になっている。水月 透子は、店の奥の扉を押していた。決して、その先は店では、ないとわかっていた。住人の居住空間であろう。それでも、透子は、中を覗いてみたかった。
「こんにちは・・。」
「ひっ!」
透子は、後ずさりした。扉を開いたら、すぐ目があったのだ。目鼻立ちのはっきりとした30代位の女性が、肩からショールをはおり、長椅子に腰掛けていた。
「来ると思っていたのよ・・。名前は・・。えっと、Rね。音が入っている」
「透子・・です。」
「そう。入って」
透子は、少し躊躇した。
「大丈夫。何もないわ。ただ・・。あなたのお友達に聞かれると、あなたが困る事なの。お友達には、後で行くからと伝えて、少し話を聞いてもらえないかしら。」
「どの位ですか?」
「5分よ・・。あなたに、コーディネートして欲しいの。逢わせて欲しい人がいるの。」
透子は、言われた通りに友達に、先に行くように伝えると元に戻ってきた。
「名前も・・。告げずにごめんなさい。」
女は、少しやわらいだ表情で、恥ずかしそうに呟いた。
「私は、シエル。と名乗っています。これは、仕事上の名前ね。見ての通りの占星術やエステをして生活しているわ。」
シエルは、部屋中を案内した。
「・・で。信じるかどうかわからないけど、ある知らせがあったの。」
シエルは、これまで、自分の知り得た話を凛にした。今ある状態が、とても、不安定である事、今、ある事を行わなければ自分達の命が危ない事。それが、透子を含めた何名かがいるという事・・。
「突然、こんな話をして、信じてもらえないとおもうけど。」
「はい。信じられません。」
「そうよね・・。でも、本当に気付いた時には、手遅れになるの。選んで此処にいるのだから」
「この場所の旅行に来た事ですか?」
「違うわ。この世界、この時間枠の事よ。調整して、生まれてきてる。今回、私たちが逢うのは初めてでない。あその証拠にあなたは、笛を吹くでしょ?」
「はぁ・・。」
透子は、混乱していた。たしかに、フルートを吹くが、急に、初めて逢う訳でないとか、言われても、なんの記憶もないのだ。
「そうよね・・。とにかく、」
シエルと名乗る女性は、透子にメモを渡した。
「この子に逢って」
「はい?」
名前と住所が書いてあった。
「あなたが、逢いに行けばいいでしょ?」
「行けないのよ。封印されているの。」
メモの中に、震える字で書かれた名前があった。
「あなたが、起こして。」
「私が?」
「必ず、その手に持つ笛なら起きるから・・」
透子の手には、笛などない。だが、シエルは言った。
「あなたが、みんなを起こすの。光の柱を建てて、呼ばないと・・。みんな殺される。新しい時代に入ったから。」
シエルは、扉を開けた。
「さぁ・・。行って時間よ。そして、その子に逢うまで、ここには来れない。」
透子は押し出された。扉は、後ろで重い音を立てて閉まった。二度と開かない気配だった。
「嘘・・。」
透子は呟いた。自分の身に起きた事が信じられなかった。
「でも。」
殺されるから。あの言葉は、嘘ではないようだ。恐怖があった。少し前に、こんな事があったかのような気がした。
「どういう事?」
少しずつ、時間の枠が狂い始めていくのを、透子は気づいていない。